#SIDE 雪出紅 〜八木サンスレイヤー〜

「オハヨー、ゴザイムァース」


 日本生まれの日本育ちで、外国人要素は本当に顔だけのワタシ。

 それでも世間はワタシに外国語訛りの日本語を期待するので、教室に入って最初にするのはこんな風に誇張した外国人タレント風の挨拶デス。

 この習慣のおかげで、一部の語尾が外国人風の発音のまま定着しマシタ。

 いや「マシタ」て、と自分でも思いマス。

 でも持ちネタがあるのはイイことデス。ワタシ、見た目以外のキャラ弱いノデ。


「ちゃんベニ、おはー。てか見て。八木の頭、ウケんだけど!」


 クラスメイトに言われて八木サンを見ると、いつものヘアスタイルのまま髪色だけが変わっていマシタ。ほんのりと、コゲ茶色デス。


「自分から松ぼっくりに寄せるとか、八木ちゃん欲しがりすぎ!」


 スズリが大きな声で言うと、クラスがどっと笑いに包まれマシタ。

 ワタシは瞬時に八木サンの表情を確認し、まんざらでもなさそうだったので、「これは笑っていいヤツ」と、安心してくすくす笑いマス。

 八木サンはああ見えて、けっこうナルシシストなのデス。

 それでいて人を笑わせたいという、ちょっと面倒な、ワタシの好きな人デス。


 お昼休みになりマシタ。

 ワタシと八木サンは放送部なので、放送室で一緒にランチを食べることが多いデス。


「八木サンの新しい髪色、似あってマスネ」

「マジで? うれしいわー。七色のグラデーションと迷ったんだ」


 そういうの、スズリや二反田サンなら上手にツッコめるのデショウ。

 でもワタシは無理……いえ、二学期は挑戦デス!


「げ、ゲーミング松ぼっくりカイ……」


 悪くないと思ったのですが、声が小さくて八木さんには聞こえなかったようデス。


「ちな俺も、雪出さんの変化に気づいてるぜ!」


 コーラスウォーターの1リットルパックにめちゃめちゃに長いストローを差したものを飲みながら、八木サンがぐっとサムズアップしマシタ。


「うう……恥ずかしいデス。やっぱり……戻したほうがいいデス?」


 実は二学期からは積極的になろうと、スカートを一回折って短くしていたのデシタ。


「むちゃくちゃかわいいから続行で! ますます人気者になれるぜ!」


 できることなら、「八木サン以外に好かれても意味ないデス!」と叫びたいデス。

 でもそれを言ったら、以前のように距離を取られてしまいソウ。

 ここは、表情で勝負デス。


「うおおお! 雪出さんが目線くれた!」


 見てマス。伝わってクダサイ。


「見てる! 雪出さんが俺を見てる! うおおおお、いまがチャンス!」


 ナンデスカその、両手のうちわ。「Wピースして!」……? まあしますケド。


「ファンサきた! 神対応! うおおおお!!」


 八木サンは、いつもこうデス。

 花火大会以降は普通に話すようになりましたし、好意も存分に感じマス。

 でもコミュニケーションが、健全なのに不健全というか……ムゥ。


「なんで八木サンは、ワタシをアイドルみたいに扱うんデスカ!」


 たまには怒ってみようという、これも新たな試みデス。


「俺だけじゃない。雪出さんはみんなのアイドルだ。ふくれっ面かわよ」

「ワタシはただの一般JKデス!」

「この世で一番苦しいのは、『好きなものがなにもない』ことなんだ」


 八木サンが、ふっと遠くを見マシタ。


「ワタシは……す、好きな人いますケド」

「学校に行きたくない。でも登校すれば、かわいい雪出さんに会える。毎日そう考えて、どうにか学校にきてるやつらがいる。中学時代の俺もそうさ。おかげでいまは、たくさんの好きなものが見つかった。だから雪出さんは、俺の、俺たちの、アイドルなんだ!」

「八木サン……」


 それはワタシのあずかり知らぬところの話──とは言えない空気だったので、感動している演技をしつつ、心の中で肩を落としマス。

 ……いったいどうすれば、八木サンを倒せるのデショウ。

 過去には胃袋をつかもうともしましたが、八木サンが子ども舌すぎてダメデシタ。

 スキンシップやお色気作戦は、恥ずかしすぎてワタシが無理デス。


「ところで雪出さん。例のラジオの件、考えてくれたかな」


 放送部の一年生で、ラジオ配信をするという案が出ていマシタ。

 八木サンはワタシにもパーソナリティを担当してほしいみたいですが……ハッ!

 名案が浮かびマシタ!


「引き受けてもいいデスヨ。ただし、条件がアリマス」


 こうなったら、外堀から埋めてやるデス!