一方的運命の出会い ①
───● 幼馴染系JDはたまに怖い ●○●
それは、春にしては暑い日差しが降り注ぐ日の事。
「
「はいは~いもう出ますよ」
この世界に転移してから早1ヶ月。
しばらく
そりゃあ最初は普通に生活していけるか不安だったけれど、今は特に不便を感じることもなく生活させてもらっている。
で、それが一体誰のおかげかと言われれば。
「
「はーい了解でっす」
さっきから家の外で俺に声をかけてくれている、
とにかく俺はこの人に頭が上がらない。今生活できているのは間違いなく
玄関のドアを開ければ、
「おはようございます」
「ん、おはよ。けどさっきも言ったけどもうお昼よ?」
ゆるくウエーブがかかった茶髪を片方だけお下げにまとめている。初めて会った時と、同じ髪型。もうすぐ30になるっていうのに
俺が住んでいるこのアパートは、
「どうなの? 大学では友達できた?」
「あ~……そうっすね、一応……?」
「怪しいわねえ。変な女に
「はーい! 行ってきまーす!」
気恥ずかしくなった俺は会話を切り上げてそそくさと退散することにした。背後から聞こえてくる、「結局敬語じゃない!」という非難から逃げるように。
これでも、短い期間の割にはちゃんと親しみを感じている方なのだ。とはいえ敬語をやめろと言われてもまだ出会って1ヶ月の、それも恩人である人に敬語を外すことは難しい。固い人間なんです、俺。
それにしてもここで「変な女に
季節は夏を迎えようとしていることもあり、この時間帯は気温がアホみたいに高い。
額に流れる汗をハンカチで拭いながら、お気に入りの腕時計をちらりと見る。
「やべ、2限間に合わね……」
2限目の開始時刻は11時10分。このまま歩いていたら、開始時刻には間に合わなそうだ。とはいえこの暑さのなか走るのはかなりキツイけど……。走るしかない、か。
仕方がない、と決心したその時。ピロン、という音と共にポケットに入れておいたスマートフォンが振動する。ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出してみれば、SNSの通知が一つ。
《
「助かる~持つべきものは友だな!」
走り出そうとしていたのを中断し、早歩きに変更。ありがとうと感謝の意を伝えるスタンプだけ送信して、スマホを再びポケットに突っ込んだ。席を取ってくれているのなら多少遅れても問題ない。
一番地獄なのは席をとれてないのに遅刻してきて、教授の目の前で授業を受け始めることだからな!
俺は心の中で
「であるからして、ここの文章の意味は──」
教室に入ると、既に授業は始まっていた。
10分ほどの遅刻だけど、大教室だから問題ない。うちの大学は、そのへんが緩いのだ。とりあえず、席を取ってくれた
(
出席を示すためにカードリーダーに学生証をかざした後、振り返って教室を見回してみれば一番後ろ奥の席でぴょこぴょこと揺れる亜麻色の頭を発見。
ささっと後ろを通って、
「マジサンキューな
「にしし……
無邪気な笑顔をこちらに向けるショートボブの女の子……
転移でごたごたして大学入学が遅れてしまった俺は、普通の新入生よりも1ヶ月ほど遅れて授業に参加することとなった。
大学1年生の入学最初の1ヶ月は、あまりにも大きい。皆それぞれ友達のグループは完成し、所属サークル等も既に決まってしまう。
出遅れた俺は学生生活ぼっちを覚悟していたのだが……そこで現れたのが
でもやっぱりそんな都合の
……危ない危ない。勘違い童貞がログインするところだった。
なんてことを思っていたら、半袖Tシャツの袖をぐい、と引っ張られる。
「……ね、せっかく席とってたんだから、今日こそ一緒にご飯行ってよ」
……なんだこの
にへらと無邪気な笑みを浮かべてデートのお誘いをしてくるこの少女の破壊力たるや。
ショートボブに
彼女の着ている白いシャツがオフショルダーなこともあって、
「あ~……ま~じでごめん、今日はバイトなんだよね」
「え~。もしかして
「そーね、ほとんどそうかな」
「そっか~じゃあ来週の月曜日とか!」
「それならいいよ全然」
「やった」
小さくガッツポーズをしてから、
いや
狙ってやってるだろ! いい加減にしろ!! でも
……ふう、と一つ息をついて、授業に集中。実は
というのも、遅れて履修登録(受ける授業を選んで登録すること)をする際に
学部も一緒だったこともあり、親切にとらなきゃいけない授業を教えてくれた上で、一緒にとれるものはとってくれたのである。女神すぎんか?
……でも冷静に考えて申し訳なくなってきたな。
こんな
「……なあ、本当によかったのか? 俺と授業とるより、友達と授業とりたかったろ……?」
「……んー? 全然そんなことないよ。友達とは、サークルとかで会えるしね」
ヒソヒソと小声で話しているから俺達の声は教室に響いたりはしない。教授の声にかき消されるくらいの音量なのを確認して、俺は続けた。
「もしあれだったら、たまには友達と受けてくれてもいいからな。なんなら俺は1人でもいいからさ」
これだけ人望のある子なんだ。きっとこの授業を受けている中でも友達の1人や2人いるだろう。
俺はそう思ったのだが。
「なんで?」
瞬間、気温が10度くらい下がった気がした。
──え? なんか俺地雷踏んだ?
「え、いや、
「
「いやいやいや! そんなことない。マジでありがたいし、
よくわからないがヤバイ気がしたので音速で弁明してみる。
え、女の子わからん。なにが悪かったの? 怖いんだけど?
しかし俺の「美少女」という単語あたりから次第に
「び、美少女? そう? かな?
なんか急に恥じらいだした。
「お、おう。そら
「そっかーえへへ……
ほっ……どうやら難を逃れたらしい。
最近の女の子はわからんなあ……最近、というかこの世界の、といった方がいいか。
いったいなにがいけなかったのか。
溶けたように、にまにまと笑う