ほうかごがかり 【このラノ2025記念復刻SS】
著者:甲田学人 イラスト:potg
「ほうかごがかり」の放課後~啓と惺と菊~
「特技?」
二森啓と堂島菊は、それぞれ怪訝な顔をして、緒方惺を見た。
「うん。教えてくれないかな。二人ともそれなりに付き合いは長いけど、改めて得意なこと、ってなると、全部は知らないなと思って」
小学校の隅っこ。下校の時間。惺が声をかけ、ランドセルを背負ったまま集まった三人は、そこで立ち話をしていたが、そんなとき唐突に惺が二人に質問したのだ。
啓が聞き返した。
「『かかり』のことか?」
「そう、『かかり』のこと。適材適所、って言うし、お互いの得意なことと苦手なことを知ってたら、何かあった時に助け合えると思うんだ」
惺は答える。
「今はまだ、みんなで協力し合えるような関係を作れてないけど、そのうち必要になるかな、って思って。だから前もって二人に聞いておきたくて。これは他の人に負けない、ってこと、何かある?」
「……」
そう訊ねる惺。啓と菊は、腕組みして頭上に、服の裾を握って足元に、それぞれ目を向けて、むむむ、と考える様子になった。
「啓、どう?」
「僕は……特にないな」
まず水を向けられた啓は、そう答えた。
惺は怪訝そうにする。大人顔負けの細密画を描く啓が、何を言っているのかと。その疑問をそのまま口にした。
「……絵は?」
「絵は、確かに同年代のほとんどより上手いだろうとは思ってるけど、あれはライフワーク。ライフワークは特技とかじゃない」
「いや、でも上手いだろ?」
「そうだと思う。でも、そういうのじゃない」
「啓のそういうところは尊重したいけど、時々面倒だよね」
頑なに認めない啓。
しばらく食い下がって、惺は諦めた。そして次に菊に目を向ける。
「堂島さんは?」
「え、えーと……誰にも負けないの……は……あ、確認しないでシャツを着たら、絶対うしろまえ反対になってること……とか……?」
聞かれた菊は、焦りながら答えた。
「えーと、それは……特技と言っていいの……かな?」
「え、えっと、あとは……エレベーターのボタンを押そうとした時、行きたい方向の矢印ボタンを押すのか、自分のところに呼ぶ方向の矢印ボタンを押すのか、よく一瞬、分からなくなること、とか……」
惺は「うーん」と困ったように眉根を寄せる。
啓がそこに言った。
「それは僕も時々ある」
「あ、あるよね……!」
「……」
惺はそれを聞いて、悩ましい、といった様子で腕組みをして。
それから、
「二人のことをもっと知れて、嬉しく思うよ」
と今までの会話は全てをなかったことにして、リセットした笑顔で、二人に向けてそう言った。