ほうかごがかり 【このラノ2025記念復刻SS】
著者:甲田学人 イラスト:potg
「ほうかごがかり」の放課後~啓と惺と太郎さん~
「ちょっといいか? えーと……先生?」
「ああ? 何? 先生じゃないけどな」
ある時の『ほうかご』。みんなが集まっている『始まりの会』で、少し確認したいことがあって呼びかけた二森啓に、『太郎さん』はそうぶっきらぼうに返事をした。
「ていうか、何でキミまで『先生』って呼ぶんだ。嫌がらせか?」
不服そうに言う『太郎さん』。啓としては緒方惺の呼び方にならってみただけで他意はない。ただ惺が人の嫌がることをするという認識が啓の頭になかったので、『太郎さん』の反応が、啓には意外だった。
「そんなに嫌だったのか?」
「嫌に決まってるだろ。『先生と呼ばれるほどの馬鹿でなし』って言葉があってな、先生とか呼ばれて喜ぶような人間はろくなもんじゃないんだ」
訊ねた啓に、『太郎さん』は吐き捨てるように答えた。
「学校の先生も?」
「ああ、ろくなもんじゃないね。あいつらはいつでも人に言うこと聞かせることを考えてる。そういうのは看守っていうんだ」
そう言い切る『太郎さん』。その言いように、惺が困ったように笑って、口をはさんだ。
「そんな、刑務所みたいに言わなくても……」
「刑務所だろ。学校なんて」
惺のとりなしを、『太郎さん』は切って捨てる。
「先生……学校、嫌いでしたか?」
「嫌いだね」
「楽しい思い出とかなかったんですか?」
「ないよ」
断言。
「イベントとかどうです? たとえば運動会とか」
「運動会とか最悪の最悪じゃないか。知ってるか? あれは元をたどると村社会でやってた儀式の名残らしいぞ。昔は村では祭りの日に子供に勝負事をさせて、それを年占、まあ要するに、その年の吉凶の占いにしたらしい。その風習を、近代に軍国主義の日本が富国強兵の一環として、子供に体力と集団行動と闘争心を身につけさせて優秀な兵隊にするために、学校教育で取り入れたって話だ。ろくなもんじゃない」
「……本当ですか? それ」
「知らないよ。でも本に書いてあった。ありそうな話だと思ったね」
「へえ……」
惺の言うことを全て否定して、ふん、と鼻を鳴らす『太郎さん』。惺は逆に感心したようにうなずいて、『太郎さん』に言った。
「初めて聞きました。興味深いです。さすが先生」
「だからなあ……」
にこにこと言う惺と、うんざりと応じる『太郎さん』。
そのあたりで、見上真絢のため息が聞こえた。
「……もう行っていい? じゃれあいなら、私たちがいない時にやってよ」
眉根を寄せて言う真絢。
啓もそろそろ理解した。そして納得はしたものの、話が逸れているうちに質問しようとしていたことを忘れてしまっていて、仕方なくリュックサックを背負うと、みんなと一緒に『開かずの間』を後にした。