ほうかごがかり 【このラノ2025記念復刻SS】
著者:甲田学人 イラスト:potg
「ほうかごがかり」の放課後~イルマと留希~
「あのね、ボクは怖がりだから、臆病だから、怖いところにはゼッタイ近寄らないようにしてるし、ゼッタイ近寄りたくない」
きりっ、とした表情の瀬戸イルマが、真っ直ぐに小嶋留希を見ながら、そんなふうに自分の意見を表明する。
「そ、そうなんだ……」
自分勝手にも思えるその物言いと、しかしそれにしては妙に堂々とした態度。言われた留希は困ったように、それでもどうにか相槌を打った。
二人だけの五年生として、『ほうかごがかり』のことで協力し合うため、こうして二人で話しをすることにして。そしてまず、お互いにどうしたいのか、希望を言おうという話になった時、イルマは真っ先にそう言ったのだ。
「怖いところはイヤ。ゼッタイ行きたくない」
「それはわかるけど……」
そのイルマの主張に、留希は、うーん、とほっぺたに指を当てた。
「でも、だったら『ほうかご』は全部ダメなんじゃ……?」
「うん。全部ダメ。見上さんか……小嶋くんに、ずっと一緒にいてほしい」
「それは僕はやだよ……」
思わず体を引いてしまう留希。だがイルマは大真面目だ。
「『ほうかご』だけじゃなくて、お昼の学校だって、怖いところはイヤ」
「え、お昼?」
「うん」
「お昼の学校に、怖いところなんかある?」
「あるよ。『開かずの間』のところでしょ。理科室の色々置いてあるところでしょ。人のいないトイレでしょ。屋上のドアがある階段の一番上も怖いし、体育館のステージの裏側も怖いし、あとは家庭科室も前からちょっと怖かったけど、今はもう近づくのもイヤ」
「結構いっぱいあるなあ……」
怖い場所を避けるようにすれば、と思って話を聞いてみたが、キリがないと留希は思った。なので逆に視点を変える。
「うーん、じゃあ、逆に落ち着くところはある?」
「落ち着くところ……うん、あるよ。図書室。図書室すき。本屋さんも、図書館も好き」
「そうなんだ」
それならば、と留希は提案する。
「じゃあ、図書室に、できるだけずっといるって言うのはどう、かな」
「そ……それはムリ」
提案を一瞬考えた様子だったイルマだったが、すぐに慌てて否定した。留希は不思議そうにする。
「なんで?」
「なんでって……」
イルマは視線を外し、指を組み、ためらって。
そして恥ずかしそうにしつつ、口をとがらせて、言った。
「……怖い本、置いてある場所も、あるし」
「重症だね……」