ほうかごがかり 【このラノ2025記念復刻SS】

著者:甲田学人 イラスト:potg

「ほうかごがかり」の放課後~留希とイルマ~

「僕はオバケは、怖くないわけじゃないんだけど……でも……やっぱり、そんなに怖くはないかな……」


 小嶋留希は、オバケの恐怖をことさらに訴える瀬戸イルマに向けて、かなり長いあいだ悩むように考えた後、そう自分の考えを言った。

 二人だけの五年生として、『ほうかごがかり』のことを協力し合う。それはいい考えだと思い、約束した二人だったが、具体的にできることといえばそう多くはなくて。結局ただの愚痴と文句の交換会に――――そして留希にはそれほど言うべき愚痴もなかったので、実質イルマの文句を聞く会になっていた中、留希は一応自分の立ち位置も表明した方がいいかと思って、おずおずとそれを口にしたのだった。


「えっ。信じられない……」


 留希の言葉に、イルマは驚いて素っ頓狂な声を出した。


「オバケは怖いでしょ!?」

「ぜ、ぜんぜん怖くないとは、言ってないよ?」


 その反応に気圧されて、思わずなぜだか言いわけするように、留希。


「でも……でも、オバケが本当に怖かったことは、今まで一回もないから……」

「えっ?」

「だ、だって、ぶたれて怪我したりとか、追いかけられたりとか? オバケに怖いことされたことは、今まで一度もなかったし……『かかり』になるまで、本物のオバケなんか見たことなかったし……小嶋さんは、オバケ、見たことあるの?」


 留希は上目づかいに訊ねる。そうすると、訊かれたイルマは大きな目を不思議そうにしばたたかせて、きょとんとした表情で、当然のように答えた。


「あるよ」

「あるの!?」

「アニメや映画で見た。動画も。小嶋くんは見たことないの?」

「ええ……」


 ある、と言われて驚いた留希だったが、続いた言葉に拍子抜けして、一気に声のトーンを落として言った。


「アニメや映画は作り物だよ……本物じゃない。見たうちに入らないよ」

「え、なんで? 怖いのに」


 だがイルマは、臆面もなく言い切った。


「オバケは人間がなる幻で、アニメや映画はそれをコピーした幻でしょ? 本物とコピー、見た時の怖い思いはいっしょで本物。だったらそれって、何が違うの?」

「え? ええ……?」

「どっちも怖いで同じだから、いっしょでしょ?」


 ぜんぜん違うよ、と言いたかった留希だったが。

 説明する言葉も、説得する言葉も思いつかなくて。

 そして考えるうちに、自分でも区別が分からなくなってきて。留希はやがて開きかけた口を閉じて、反論をあきらめた。