ほうかごがかり 【このラノ2025記念復刻SS】

著者:甲田学人 イラスト:potg

「ほうかごがかり」の放課後~真絢~

 いつものように『開かずの間』を出て、いつものように暇をつぶすだけの『ほうかごがかり』に向かおうとした時、真絢はふと思い立って、いつもとは違う、自分が担当している場所とは別の方向に足を向けた。


「あれっ?」


 その途端、後ろからかけられる声。イルマの声だった。振り返ると、イルマは立ち止まった真絢のところまで、ととっ、と小走りに近づくと、真絢を見上げて、不思議そうな顔をして訊ねた。


「あの、いつもはそっちじゃない……よね? どこに行くの?」

「図書室」


 真絢は答えた。退屈な『かかり』に向かおうとして、気づいたのだ。どうせ暇をつぶすしかないのなら、最初から暇をつぶせるものがある場所に行けばいいのではないか? と。


「と、図書室? なんで?」

「どうせ暇だから。本、読めないかなと思って」


 だがそんな真絢の答えを聞いたイルマは、露骨にひるんだ。


「えっ、でも……図書室って……怖くない?」

「ううん? どうして?」

「怖い本とかも、あるし……本は好きだけど……図書室も本屋さんも、そういうのがあって、好きだけど、怖い……」

「本は好きなの? それなら、どうやって読む本を手に入れてるの?」

「怖いところはできるだけ見ないようにして、ぱっと選んで、借りたり買ったり……」

「そう……」


 真絢はイルマの話にあいづちを打ちながら、歩く。そっか、イルマちゃんは本を借りたり買ったりして、家に帰れるんだ、と内心で思いながら。

 それは真絢にはできないことだった。真絢の母親は、ファッション雑誌以外の本を買ってくれない。それどころか学校の読書で借りることが決まっている最低限の本以外に、本を家に持ち帰ると明らかに難色を示すのだ。

 真絢が知識をつけると、生意気だと思われてモデルの仕事に差し障りがあると、母親は思っている。だから真絢は、読書なんかしない女の子で――――たまたま何かの機会があって図書室などで夢中になって本を読んでしまった時、いつも真絢は、事情があってたまたま仕方なくそうしてしまったのだと、心の中で自分に言い訳をしていた。

 今もそうだ。

 逃げられない『かかり』だから。逃げられない暇な時間だから、仕方なく。

 そう言い訳しながら、真絢は図書室にたどり着く。


 『いる』


 明かりが灯り、張り紙がされているドアを見て、図書室に入ることができないと知った真絢は、胸の底からの落胆のため息をついた。