アポカリプス・ウィッチ 飽食時代の【最強】たちへ
序章 ④
完全分離型の水晶花。
『すっげえ話だよな。天才なんだか変人なんだか分かりゃしねえ』
『確かに誰にも
『お姫様抱っこでもしてもらえば?』
『あっはは! そりゃ優柔不断王カルタ様らしいわね』
散々な言われようだが、
一方、アイネはアイネで静かに首を
「アイネ、俺の声は聞こえるか」
「イエス、にえさま」
「いつもと同じだ。『花』を振動させて声を送る。どこまで声が届くか、少しでも距離を伸ばしていこう」
無線機や糸電話の
アイネが、とんっとヘリポートの縁から海へ飛ぶのを見送って、少年は息を吐いた。……実は次元跳躍は
彼にできるのは、安全な場所から水晶人形にメッセージを送るくらいだ。
『見ろよカルタ、今日は空気が透き通っているらしい。遠くにお飾りのガラクタが見える』
「軌道エレベーター、か」
確か、ロケットやシャトルより安価で大量の貨物を軌道上に運べる、という触れ込みで開発された巨大建築物だったはずだ。今も
『正直、計画が頓挫してホッとしてるぜ。「原初の
「原初のねえ……。何気なく利用しているけど、結局何なのか分かっていないんだっけ。人の手で埋め込んだ
『そいつは俺達実践派の仕事じゃねえ、机にかじりつきの理論派とやらに任せておけよ。おっ、そういやエレベーターって言えばさ、大先輩達が視察訪問に来るって話知ってるか。難問排除の五人組ってヤツだ』
難問排除。
実戦において、物理的に『脅威』を取り除く事に成功したとされる五人の使い手達。
その名が不用意に飛び出た直後だった。
ふっ、と。
まるで部屋の電気を落としたように、一面の青空が漆黒に
『……、』
『───。』
おそらくカルタと同じく、突如として朝日から夜闇へ切り替わった大空を見上げている事だろう。
『おいでなすった……ってトコか』
『
確かに、すごい。
体から水晶少女を呼び出すだけのカルタには、逆立ちしたってできないだろう。
ただしこれが、災害、疫病、戦争まで想定した『
まして、その先にいる未知なる脅威との戦いまで含めると。
「……偉い人なのは分かるけど、そもそも脅威の正体も分からないんじゃいまいち
『少なくともヘタレのアンタよりは強そうだけどね』
難問排除。
ヤツらと戦う事で
あまりにも強大な魔法の出力は、それだけで一つの時代を支える。
全世界の生産施設からゴミ処理まで。
単独で世界規模の巨大インフラを回せる怪物達。
戦う事『だけ』ですでに手一杯のカルタ達からすれば、雲の上の話どころではない。
彼らがいなければ世界は止まるのだ。
ネットもコンビニもエアコンも、それはただ漠然と存在するのではない。どこかの誰かが当たり前の毎日を支えてくれている。その、五五億人分の『当たり前』の部分を個人でまとめて
『北米、南米、ユーラシア、オセアニア、そしてアフリカ。書類上はどうあれ、実質的には全部まとめてんのよね、あの五人で』
『ああ、あの五人でだ』
世界経済は、たった五人で回る。
五五億人がせっせと汗水垂らして働いても、結局それは彼女達の輪の中で、仲間内の財布から財布へお札の出し入れをしているに過ぎない……。
『それにしちゃあ、お偉いさんも大変だよな。エレベーターなんてもう誰も注目してねえだろ。ロケットやシャトルより安価で大量の貨物を運べるなんて触れ回って金を集めていたけど、いざ
「その国策も火の車みたいだけどね。安価で運べる、って事はプロジェクトごとの予算も減らされるって話なんだから。顧客は増えない、値段は下がり続ける一方。一〇〇万円のブランドバッグが一万円に値崩れしているのに、お店にやってくる客の数はこれまで通り、っていうんだから悲惨だよ」
『一応は国策の
『何にしたって宝の持ち腐れとはこの事だぜ。あの五人がいれば政財界だの軍事官僚だのってもう全部いらねえだろ。その気になりゃ壊滅できんじゃねえの? 不定期に一人ずつ小出しするとかじゃなくて連中全員を素直に世界中へ常時派遣していれば、いくつかの街だの州だの国だのだって消えずに済んだかもしれねえってのによ』
「でもさ」
「その難問排除って、俺達の水晶花とは違う……昔ながらの
『だからすごいんじゃない』
『ああ、何で水晶花に乗り換えねえのか不思議なくらいだわな。飛行、障壁、修復……一通りのプリセットもなしで現場に出るなんておっかねえ。ま、ひょっとすると適合率で