アポカリプス・ウィッチ 飽食時代の【最強】たちへ
序章 ⑤
ふう、と
水晶花。切手よりも小さなプリント基板で制御し、地球中心核の『原初の
だがこの道を究めても五人の難問排除には届かない。
『難問排除』は基本的に攻撃力特化でどんな状況でも一撃必殺だとか、イージス艦のように恐るべき弾幕で歯向かうモノは
カルタ達が気象図を読む側なら、彼らは天空にドライアイスやサーモバリック弾頭を撃ち込んで人工降雨でも生み出す側か。
逆立ちしたってここの生徒達じゃ太刀打ちできない。
しかもカルタの魔法は最初から
『あ、え、い、う、え、お、あ、お』
色々と思いを
『聞こえていますか、にえさま』
「ああ、だから
しばらく自主練を続けていると、
学食がモーニングのメニューを開放する頃になると、誰に言われずとも自然とお開きの空気が漂ってくる。
やはり自主練組は一番乗りになるためか、まだまだ混雑と言えるほどではない。カルタ、マリカ、ゲキハ、そしてアイネの四人で無事にテーブルの一角へ陣取る事に成功。
「にえさま。アイネはあれが
「どうしてそう無駄に出費のかさむものばかり選ぶんだよ……?」
「無理なら金粉ようかんでも構いませんが」
「論理的に考えよう。どうして俺が嫌がっているのかを」
音もなくアイネは首を
「何でしたら、いっそ金の延べ棒を
「純金なのがダメなんだよっ! というか水晶魔法のお前がどうして食事を欲しがるのか!?」
「すでにその質問は七二回目ですが、
「複雑って、例えば?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、ポッ」
「
生チョコを塗ったトーストを頰張りながら楽しそうな顔をしているのはゲキハだ。
「おめーらはほんとに見ていて飽きねえよな」
「ふんっ。これってカルタから生み出されているんだから、究極の一人芝居って事なんじゃないの? ふんふん!!」
「俺はおめーも含めて飽きねえって言っているんだがな」
その後もあれこれ話を膨らませていく事に。
思春期の少年少女だが、自然と話の内容は水晶魔法へと移りがちだ。
「やっぱり水晶なら振動数合わせてレーザーやメーザーにするのが手っ取り早い高火力よね」
「待て待て。先輩方の中によ、音響兵器に工夫しているのがいてさ」
「レーダーとかソナー的なものじゃなくてか?」
「音の塊をぶつけんだよ、どばーんって。つまりド派手なスピーカー砲。そりゃ音速超過のソニックブームも無力化する俺達が即死するこたねえが、ヘッドオンで一発ぶつけられたらコトだぜ。分厚い壁での面制圧だ、広範囲の足止め役としちゃ上々じゃねえの」
「……そこへレーザーやメーザー叩き込んだら最高よね?」
「おめーはどうしてそうキラキラ攻撃が好きなんだ」
横で、ちょいちょいとカルタの袖を引っ張る小さな手があった。
アイネだった。
「にえさま。アイネにアルゴンイオンやイットリウム等希土類元素イオンを注入してくだされば、極太レーザーが実装可能となります。わふわふ」
「ドヤ顔のおねだりしている最中に悪いけど、学食のどのメニューを食べさせりゃ
理由は単純、制御関係が緩む就寝時はふとした寝返りでカルタの腹や背中から
「はあ、早くにえさまの中に入りたい……(もじもじ)」
「意味深な
「俺はヘキで差別しない人ではあるが、男のおめーが入れられる側っていうのはこれまたバリエーションが豊かだよな……」
『んっ? んん?』と巻き髪ツインテールのマリカは疑問でいっぱいの顔をしていた。多分それで正解だ。ゲキハは少々ハートが汚れちまっている。
朝のホームルームが始まるまでのわずかな自由時間の内に、カルタは保健室に立ち寄っていた。
いつもの日課だが、体が悪い訳でもクラスにいづらい訳でもない。
この巨大船舶の保健室は少々特殊な作りになっていて、一般の学校と同じく簡単な診察台とカーテンで仕切られたベッドがいくつか並んでいる通常レベル、水晶花や魔法などが
「いつもご苦労様。授業には遅れないようにね」
セーターとタイトスカートの似合う保健の先生に許可をもらって隔離レベルの扉を潜ると、そこは青っぽい光に満たされた、窓のない空間だった。
そして
髪の先から足の指まで全身が透明な水晶と化した、この学校の先輩達だった。
致命傷。
緊急措置としての全身水晶化。
「ここ、誰も彼もが目を
後から入ってきた保健の先生は小さく息を吐いてそんな風に言った。
「だから、あなたが毎日来てくれて、この子達も喜んでいると思うわ」
「……、」
理由は様々だ。
だけど脅威と勇敢に戦ってこうなった、という人は一人もいない。
もしも火力演習や航空ショーのアクロバットでトラブルが起きればどうなるか。彼らは洋上水晶魔法学園での授業中や『
「別にそんな博愛精神に満ちている訳じゃないです」
カルタは思わず否定していた。
いつもの癖で、一人の女生徒の前で立ち止まってしまう。メガネに長い三つ編みの女の子。へその上を中心に、いくつもの亀裂が走っていた。
損傷の度合によって、再生完了までの時間は変わる。
足元にあるデジタルカウンターには、五五〇年弱のカウントダウンが冷酷に続いていた。
人間一人を死の決定から復活させるのは、最先端の水晶魔法であっても、重い。
「俺はただ、気を引き締めるためにここへ来ているだけですから。空間振動領域も自動水晶化再生も絶対じゃない。死は、すぐそこにあるんだって。……『こうなりたくない見本』扱いされて喜ぶ人なんていないと思いますけど」
「それでもよ」
保健の先生は態度を崩さなかった。