インテリビレッジの座敷童
第一章 陣内忍の場合 ②
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そもそも俺が夏休みの炎天下にお出かけしていたのは、惑歌という知り合いを見舞うため、『サナトリウム』という施設へ足を運んでいたからだ。
とは言っても、別に惑歌は重病人じゃねえ。
単なるクラスメイトの一人である。
『サナトリウム』という古い語感からも分かるだろう。これも我が家のかやぶき屋根と同じで、インテリビレッジ全体に
……何でまた、どこも悪くないのにわざわざ高い金を払って『体験入院』したがるのか、金持ち連中の気が知れねえが、世の中じゃダイエットのための自衛隊体験ツアーなんてのも
当然ながら物好き相手の
クラスメイトの惑歌ちゃんたら家の財力はもちろん、自分自身もデイトレードなどでがっぽり稼ぐスーパーJKなのだった。
勝手に思い
「おっすー。外の様子はどうだった」
「途中のバス停で季節外れの雪女に出会ったぐらいで後は平和なもんだよ。っつかそうそう簡単に面白イベントなんて遭遇できるもんか」
「学生の夏休みだぜ?」
「こんな療養施設に自ら引き
言えてる、と
俺がここにいる理由は簡単で、俺がクラス委員だからだ。平たく言えば、惑歌は問題児なのである。親とは
夏休みだっつーのに座右の
「宿題やってんのか?」
「やってない子が言っても迫力はないね」
「否定はせんがね、会話の取っ掛かりだし。探さねえと続けられねえんだよな。ぶっちゃけ四ヶ月ぐらい『面倒』見てるけど、未だに惑歌の好きな食べ物も知らねえぐらいだし」
「話す事がないなら、お金の稼ぎ方でも教えようか?」
「それだよな。お前、全部一人で片づけるだけの財力持ってっから誰にも頼らねえ。だから歩み寄る必要を感じねえ。特に原因もねえのに『遊離』してんのってその辺じゃねえの?」
「と言われてもねえ。みんなと仲良くするためにとりあえず駅のゴミ箱に三〇〇億ほど放り捨ててみる? それとも、実は全く困っていないのに『コミュニケーション』で死ぬほど面倒
「だよねー」
適当に受け流した。
残念ながら俺の役目は
「そういや、さっきからスーツの連中があっちこっち歩いてるけど、あれ何? お前また何かのサービス雇ったの?」
「私じゃないよ。まだお世話になるほど生きてないし」
「?」
「遺産相続エージェント」
惑歌は細い人差し指を軽く振って、
「この『サナトリウム』が、実際の機能より
「……なんとかエージェントってのは?」
「さあね。事情は色々あるんじゃない。例えば、家族に遺産を渡したくないとか。妻より愛人に渡したいとか。息子には一円も渡したくないけど孫には全額託したいとか」
何とも言えない顔になっているであろう俺を真正面から
金の話になると
「そもそもご家族の元を離れて『サナトリウム』へやってくるような『事情』は全員にある訳だしね。遺産相続エージェントみたいなビジネスが横行するのも無理はないって事」
「オカネモチは大変だね……」
思わず
「これでも
惑歌はニヤリと笑って、
「少し前なんて、特定の病室に入った者は必ず死ぬなんて話が持ち上がってさ。とある富豪のおじいちゃんを『それはそれは熱心に』放り込もうとしていたご家族なんかもいたぐらいだよ」
「……マジで?」
「まじまじ。
思わずげんなりしながら、俺はこう答える。
「きな
「何言っているんだ。君が面白い話を持ってこなかった以上、こうなったら君の悲劇で笑うしかないじゃないの。だからついでに教えてあげるね」
「みゃーみゃー!! 聞っこえなーい!!」
「……さっき道中で季節外れの雪女に遭ったって言ってたけど。多分それ、相当ヤバいね。しかしまあ、
「俺に聞かれても!?」
「なんか妖怪だけにしか分からない
「オヤジはあの
「でも遭遇率の高さはやっぱり共通なんだよね? 今回の雪女みたいな、遭わなくても良いっていうかここで遭ったら絶対にまずいヤツと」
楽しそうに楽しそうに。
まるで俺のげんなりと反比例するかのように、
「きな臭さで言ったら、さっきの話なんて残り