インテリビレッジの座敷童
第一章 陣内忍の場合 ③
3
そして寝転がった赤い
「ハイハイきな臭い方向へ転がって命を
「薄情にもほどがある!!」「だから私に妖怪バトルとか期待されてもねえ。キホン
「だからって、もっと、こう、協力の仕方にも色々あんだろーが! つかそのゲーム機もパソコンも俺のだからね! 妖怪にプロバイダ契約とかできねえんだから俺が死んだら動画共有サイトもお預けになるぞ!!」
「ちえー」
本当にその部分のみ不満といった調子で、アダルティ
「
「……色々行き詰まると年季でごまかそうとする
「毎日お風呂に入れてあげていた頃や、プールの更衣室で着替えを手伝ってあげていた頃が一番
「だからやめようぜ!! 年季関係で人間に勝ち目はねえんだからさ!!」
「迷子になるのが怖いのか、小さな手で終始私の水着を
「きゃあああああああああああああああああ!!」
精神を内側からガッツンガッツン削り取る攻撃に、俺は思わず
何しろ
「でー何だっけ? 本当に命を
「残念な事に」
「何でまた?」
座敷童は寝転がり、乱れた
「大都会ならともかく、妖怪と遭遇なんてインテリビレッジに住んでいれば珍しくないでしょ。まして
「……その後、海の底まで引きずり込まれそうになったがな」
「そもそも雪女相手に取り殺されるような
「いやね」
俺は首をぶんぶんと横に振って、
「そうじゃなくてね」
4
『サナトリウム』から帰る道すがら、バス代ケチって下りの山道をてくてくと歩く。木々が
で。
警戒していようが何だろうが、曲がりくねった山道が一本道である以上は途中の急カーブの近くにあるバス停に差し掛かるのは当然であり、行きの時に見かけた雪女が同じように
「……俺ホンモノの
「また会いましたね、うふふ……。これって運命なのかしら。どうです、私とちょっと結婚してみます……?」
見た目は一三歳前後。真っ白な、死に装束と間違いかねない色彩の着物に薄い青の長い髪。『意図的に古
「……雪ん子じゃなくて?」
「雪女です。美人
「全体的に、どっかの巨乳
言いながらも、俺は頭の片隅で警告ランプが点くのを自覚する。
雪女って言ったら致命誘発体じゃねえか。
うちの座敷童と違って、『種族の特徴として人を殺しかねない要因を備えた』妖怪。座敷童が夜中に人様の布団に
率直に言って、無責任な飼い主に捨てられる
頭の中で、いくつかの『条件』を整理する。
雪女の話は、妖怪
冬の雪山で遭難した男達の内、雪女は老いた者を殺す。若い者は見逃してもらうが、誰にもこの事を話してはならないと約束させられる。のちに男はある女性と結婚し、ついうっかり雪女との事を話してしまうが、実はその女性というのが雪女で……という流れだ。
ストレートに話を追うと、雪女は気まぐれに見えるが、もしも、最初から若い男と結婚するつもりだったとすると、相当周到に思える。話の中には明暗いくつもの約束が登場し、例えば、化けた女が現れる前に若い男が他の女と結婚してしまったら、雪女は
昔話に教訓が含まれるとすれば、雪女が冬山の恐ろしさを象徴する存在で、結婚の約束は適切な登山知識じゃねえかって説もある。正しい知識があれば山は
だが、今はそんな都会育ちで生の
問題なのは、冬山の恐ろしさを象徴するような存在が、俺の目の前でのんびりベンチに座っている事だ。当然、『条件』次第では即座に牙をむかれかねない位置で。
ここが危険域。
うっかり地雷を
「……つーか、何で真夏の炎天下に雪女な訳?」
「教えてあげたら結婚を約束してくださいます?」
「しないしない。つーか早いよ。まだ見た事言わないの段階ですらねえし」
ていうかこいつの『結婚』は多分攻撃するためのトリガーってだけだろうし。一定の条件が
すると、ちびっこ雪女は
「……ここで約束してくれないと死なせます……」
「げっ!? 二段構えか!?」
無茶ぶりを約束しないと殺されて、約束したらしたで雁字搦めにされて殺される? ほとんど最悪レベルの特性じゃねえか!!
「み、未成年ですので……」
「……それは人間ルールでしょう。妖怪ルールに従えば口約束でオーケーです。さあ今すぐ結婚を。結婚なう」
「人間側が良いな!! ていうか本場の雪原に放り出されたら一日もたない!!」
「では日本国憲法で結婚可能年齢になったら即座に結婚するという方向で」
「残念! そもそも日本国憲法では人間と妖怪の結婚は認められていないから永遠に無理だ!」
何となく慣習で人間っぽい扱いを受けている妖怪だけど、実際には法的根拠は何もないからね。携帯電話の契約すらできねえんだし。
すると雪女は首を小さく
「……つまり何かしらの理由で日本国憲法が改憲された場合にはその限りではない、と。ふふふふふふふ」
げっ。まずいな。すぐに法律変わるとは思えねえけど、五〇年後ぐらいにある日突然『約束破ったな』と