インテリビレッジの座敷童
第一章 陣内忍の場合 ④
「名前も知らないヤツと結婚の相談はできねえな」
「58902385Ra4号です」
やべっ、こいつマジだ。今時誰も使わねえ国家登録で名乗りやがった!?
「で、でも弱点の一つも教えてくれないヤツと結婚の相談はできねえな」
「苦手なものはセミとコンクリートダムです」
「
「にゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
とっさに近くの木にとまっていたセミを投げつけると、雪女はバス停のベンチから転がり落ちて走り去ってしまった。顔は良く見えなかったが泣きべそかいていたような……?
んー。
今の流れは
ともあれ、一つも約束をしないで済んだのは何よりだ。
「……でも雪女がセミ苦手なんて話あったっけか。種族じゃなくて個体の弱点か……?」
首を
だがこれは、警戒を続けていたとして回避できただろうか。
直後。
いきなり見知らぬ誰かから、
5
真っ赤な
「はいダウトー。ホントに撃ち抜かれていたらここまで帰ってこられていないよね」
「いや
「見た目によらず勉強はできる子なんだから、
おかげでついたあだ名はインテリヤクザですけどね。
というか、
「馬鹿だ何だとグータラ
「ほほう。妖怪の出現
「二一世紀の難題十指を持ち出しやがって……!! つーかそれ妖怪自身のアンタにとって有利過ぎねえか!?」
「妖怪だから妖怪の事は何でも分かると? 甘いねえ。じゃあ
「ぬう……」
「分からないものは分からないものよ。ただ生きているだけではね。そして学者でもない私や
座敷童はうっすらと笑いながら言う。
「年季や含蓄にだってそれほど高尚な価値はない。それが難しく聞こえるのは、現代語との間に
もー。
ここらで白旗挙げとかないと話が先に進まない
「……話を元に戻して良いっすか?」
「もうちょっと脱線したい気分かな」
「この
「そうね。そうそう。座敷童という呼称に異議を申し立てておこうかな。せっかく個体の名称をつけているのに誰にも使われないのも
会社勤めなんてした事もないくせに分かったような口を利かないように。
「数字
「国が決めた書類上の数列じゃないの。私には
「……あったっけ? まぁ覚えてなくても座敷童で通じるし」
「私の右と左に別の座敷童が立った時はどうするの」
「グータラ座敷童、もしくはインドア
「……、」
真っ赤な
「きゃっ、きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
びくびくびくびくーっ!! と全身に震えが走る。
な、なん……未知の扉が開きかかってる、だと!?
「……人の名前ってやっぱり重要よね?」
「ちょう、待っ……あひゃねるびるびょうる
「よね?」
「おっふ、おっふ!! その通りでございます縁サマ!!」
よろしい、と良く分からない許可をもらって肉体の突起からようやく指を離してもらう。俺はぜーぜーはーはーと荒い息を
「も、もう、もういいかげっ、いい加減に、本題に戻っても良いですか……?」
「まだ脱線……」
「良いですよね!! 戻っちゃうぜ!! バックバック!!」
これ以上この座敷童に主導権を握られたらどこへ進んでいくか予測がつかねえ!! 俺はこう見えてチョイS希望なんだ! 真のなんたらは
「は、はぁ……そんでどこまで話したっけ?」
「右と左では感度が」
「違う!! そうだ
猟銃で胸を撃たれたのはダウト。
ただし、
「でも発砲されたのは事実なんだよ」
「誰に? 雪女に?」
「見知らぬ誰かっつったろ。人間。人間だよ撃ってきたの。わざわざ猟銃を使うとか
「まーねえ。ブドウが一房三万円のインテリビレッジじゃ、カラスや
これだから
普通銃声が鳴り響いた時点で事件だろうが。ここは普通がちょっとおかしい。銃持ってウロウロしてる人間を見ても誰も驚かねえとか、この村は本当に日本か。
「で、結局何だったの。バラバラ死体でも
「連中はこんな整備された自然に埋めようとはしねえだろ」
「じゃあどこのどなたが?」
それから答える。
「遺産相続エージェント」
6
猟銃の発砲音が
違和感を覚えた理由は
一つ目。
真後ろ、山道の上り方向から電気自動車が走ってきた事。それ自体はエコと健康ブームの
二つ目。
その電気自動車の後部座席の窓が開き、身を乗り出したスーツの男が猟銃を構えていた事。
三つ目。