インテリビレッジの座敷童
第一章 陣内忍の場合 ⑧
「遺産相続エージェントはすでに何組かの富豪から大金を巻き上げているらしいからな。
そもそも、凍傷
「売り込んだ『パッケージ』がその後に不具合を起こしたら、大きな犯罪組織から命を
「あるいは、そもそも『パッケージ』をアセンブルするのが目的で、大きな犯罪組織にせっつかれて『サナトリウム』へやってきた可能性も否定はできねえが……まぁ低いな。ただのテストプレイなら本物の富豪を狙う必要はねえし」
「ふうん。となると、『サナトリウム』の詐欺事件と雪女の関連に気づく可能性がある
「そーゆー事」
「……ますますきな
「でしょでしょ」
「しかも致命誘発体の雪女が
「だからご相談しているのですよグータラ
「そんな大バトルが待っているならやっぱり私の出番じゃないなあ。ぼんぼぼんぼぼぼぼぼんボンサーイ」
「だから飽きるな!!」
10
電気
建物の中で
「
「ほいさー」
良く見るとあちこち物々しい待合室で再びクラスメイトと合流する。
「雪女を利用した『パッケージ』の
「多分そっちはいらねえよ」
俺はパタパタと手を振って、
「今回の『パッケージ』のキモは、そのものずばり『約束』に集約してる。見逃した事を
ここで言う『結婚』は、もちろんお役所仕事で婚姻届をあれこれする事じゃない。雪女が攻撃のトリガーに使う、口約束の『結婚』。つまり重要なのは『結婚』ではなく、それを約束させる事にある。だから本来は中心に来るはずの『結婚』を別のものに
「理想的じゃない? まず詐欺集団の事を誰かに話したらアウトって予防線を張った上で、無茶苦茶な取引を迫る。当然断ったらペナルティ。
「だったら大量の死人が出ると思わねえのか?」
「『絶対確実に遺産をコントロールしますのでどうぞよろしく』『何も怪しい事はありませんからさあ全額どうぞ』……こう言われて
「でも、約束を
「だったら拒んで死んじゃうヤツが出るのが普通だ。雪女が組み込まれている事を本当に信じられねえ人達がな」
あ、と惑歌が声を上げた。
思い当たる
「例の凍傷
「だから遺産相続エージェントは方法を改めた」
「そもそも疑問を
「そんな方法あるの?」
「遺産相続エージェントの話術自体はそれほどレベルの高いものじゃない。雪女を組み込んでも凍傷騒ぎを起こして失敗しかけたぐらいよ。そもそもの話ベタが何を底上げしたところで、結局ボロが出るのは同じなんじゃない?」
「だろうな。だからそもそも話さねえ。ターゲットの老人だって、そんな『約束』がある事すら知らねえんだ」
「……?」
「前に遭遇した『パッケージ』じゃ、こんなやり方があったよ」
俺は一度短く区切ってから、
「フリーソフトの利用規約にこっそり紛れ込ませる形で『約束』させるパターンさ。誰も読まねえ、でも同意しないとソフトを利用できねえ。そういう長文の中にこっそりとな」
「まさか……」
「ここにもあるんだろ」
俺はあちこちを見回し、
「『サナトリウム』の利用規約。惑歌だって目を通した覚えはないんじゃねえか? そこに
利用規約の原本は『サナトリウム』正面のカウンターに置いてあるらしい。利用客ならともかく職員には顔が利くらしい惑歌の応援を受けて、俺はその電話帳みたいに分厚い利用規約の原本に目を通す。
甲は乙の管理する施設を利用する場合、乙の管理する備品を適切に取り扱う義務が発生する。甲がこの義務を
「……何でこう、利用規約とか契約書ってヤツは堅苦しい言葉でまとめたがるのかね」
「流し読みさせるためでしょ。ほら、こことか汚ねー。利用客のお財布がなくなっても施設は責任は取らないって書いているのに、施設の備品を壊した時は例外なく利用客が全額弁償だって」
「ただ、雪女
乙の管理する施設の利用中に甲の所有物が紛失・破損したとしても、乙に補償義務は生じない……という辺りはクサいと言えばクサいのだが、この一文だけで雪女がターゲットの財産を巻き上げるには言葉が足りない。
「読み違えちゃったかな?」
「いや……」