未踏召喚://ブラッドサイン

オープニングX-01 気の抜けた始まり ②

 しろやまきようすけづかみで限定デザートにがっつこうとする少女をとどめ、使い捨てのおしぼりとフォークをビニールぶくろから取り出してわたしつつ、


「あのね、あい。今さらあなたの頭の中身についてどうこう言うつもりはないけどさ、せめて日常生活では下着と衣服を装備しようではないか」

「文句があるのですか?」

「あるから言ってんの! まあせんたくが簡単なのは認めるが!」

「服が……つまりニーソックスが足りないとなげいているのですね? だがだいじよう!! すでに一二色耳をそろえてネットつうはんで手配済み! さあさあお好きなバリエーションでどうぞ……」

はだかにニーソックスは着衣とは呼ばねえよ!! アワード50くらいの子飼いをそんなくだらない事にり出して……!! おやおやどうした、こいつはもう本格的なカウンセラーにお願いするしかないっていうのかなー?」

「またまた照れちゃって、妹のニーソックスを追い求めてない男性などいません。数は余っているので、何なら二、三足くらいは勢い余って食べちゃってもだいじようなのですよ……?」

「いくら何でも、あなたがこしけているライガーといつしよにされるのはあんまりだと思う訳だよ」


 あいと呼ばれる少女は、ソファ代わりにしているホワイトライガーから身を乗り出し、ガラステーブルの上に置かれた『生のりんを丸ごとくりいて、中に果実と洋酒のシャーベットをめ込んだお』とかくとうしながら、


「このお兄ちゃんめ。正直な話、ホワイトライガーは毛皮のあぶらがギットギトなので、つうの服を着たままじゃれつく事はできないのです」

「そこで何故なぜこの子は衣服をあきらめてけものに飛び付く方を優先してしまう訳よ……?」


 そのせいなのか、愛歌のやわはだは温かい照明の光をぬるりと照り返していて、みようなまめかしかった。多分、この格好でサバンナを練り歩いても他の動物におそわれる事はないだろう。

 と。

 水着もうじゆう少女愛歌がシャーベットに専念したため、ようやく世のこんとんが静まりつつあったというのに、横から別の手がびてきた。

 より正確には、しろやまきようすけの分の林檎をぶんろうとする女性がもう一人。

 れたような長いくろかみき通るブルーのひとみ。真っ赤なチャイナドレスをさらににくきしてしゆつを増やした、『担任教師かアパートの管理人だったら天国』な感じのお姉さんだ。

 恭介はたずねた。


「で、あなたはそこで何をしているのかを言ってみなよ」

「何って、そこの妹キャラが恭介ちゃんを『トロピカルジュエリー』の行列に並ばせてるとかまんメール送ってきたもんだから、まあお姉さんとしておこぼれにあずかって台無しにしてやろうかな、と」

「なんと、悪意しかなかった!!」

「そうです、私は妹キャラではなくガチの妹なのです……」

「口をはさむのではないよややこしい。そもそも愛歌だって血がつながっている訳でもなければ義理の家族でもない、単なる赤の他人だろう! というか、どうして『仕事』のめんどうを見てもらうべきぼくが、のあなたの身の回りの面倒を見なくてはならないのか……!?」

「ふふふそんなお兄ちゃんのためなら私は全身のこつずいを移植してお兄ちゃんとまつたく同じ血液を生産する事も辞さない構えなのですよこうしている今もすでにひっそりとお兄ちゃんの組織を採取し再生りよう分野ともれんけいを取って計画は着々と進められているのです同じ血が流れているのに遺伝的にはノープロブレムとか全世界全男性の夢と理想がこれでもかってくらいぎゅうぎゅうに詰まっていますよねうふふふふふ……」


 がらな少女の口からはいすいこうを逆流するねんえきのようにバイオケミカル系の気持ち悪いもうそうがだだれになってきたので、もう恭介はそっちにはれないようにした。……ただの妄想で止まっていてほしいと切に願うが。


あいも愛歌でとんでもない水着ガールだけどね。リューさんもここのところ節操がなくなっているように思うよ」

「ああ、これ?」


 ちゃっかりりんのデザートにフォークをし、的確に『つばつけた』状態にしながら、リユウニヤンランは自分の格好を見下ろす。全体的に真っ赤なチャイナドレスだが、むねの中央からへそにかけてたてにガッツリにくきされている上、髪飾り、ガーターベルト、ストッキング、ながぶくろなど洋風レース系の装飾品でさらになまめかしさを上げている。胸の中央の切り込みといい、こしのスリットといい、どう下着をつけているんだ? と非常に気になるデザインではある。

 ……説明が長くなった。結論だけ覚えておいていただければ支障はない。簡潔に、おんで表現すると以下のようになる。

 ぱっつんぱっつーん!!


「言っておくけど、これお姉さんのしゆじゃないわよ。ほら、何だったかしら? トム=ジョストの最新作。ああもう、どれもこれも二丁けんじゆうでカンフー交えてち合うヤツばっかりだからごちゃまぜになって思い出せない……」

「ブラックタイガー?」

「『……おい、今度の主人公はエビフライなのか?』のネットスラングでおみなのです……」

「そうそれ。まあちゆうがいのキャンペーンでね、コスプレさせられているのよ。というか、あの映画自体C区画でロケやってたから、イベント用のセット組み立てる必要もないの。となるとできるだけ元を取りたくなるのが人情でしょう。スタントマン達が街中で不定期にアクションショーやっているし、昼夜問わずのくうほうがうるさいったらないわ」


 もうじゆうをソファ代わりにする水着少女に、映画の主演女優がかすむほど改造チャイナドレスをれいに着こなす美女。

 宇宙人が地球人のサンプルが欲しくなったら真っ先に目をつけられそうなくらい悪目立ちしまくっている二人だが……実は、『この街』ではそうめずらしくもないのかもしれない。

 フード付きのパーカーにスポーツブランドのジャージなんてありきたりな格好では、年中無休で仮装パーティをやっているような『この街』の中ではまいぼつしてしまう。

 けっ放しのテレビはこんな事を言っている。


『先月、正式に財政たんおちいった事を認めたはるかわ市ですが、先ほど、民間資本としてトイドリーム社が全面的なバックアップを約束するという声明を公式に発表しました。今後、春川市は四〇番目の国際再生都市として……』

『米国、デトロイトの再生事業からついに四〇番目になりましたか。早いものですな。世界中にきよだい遊園地をばらいて笑顔と活力を与えるというトイドリームの思想は、暗い話題ばかりのさつこんみなが待ち望んでいた明るいニュースとして定着しつつありますな』

『一方で国外の外資系一ぎようが地方政治を丸ごとしようあくする、というじようきようねんの声も上がっているようです。中には軍縮政策によりてつ退たいを続ける在外米軍基地と入れわりでCIAの資金源や軍事活動きよてんが増えているとの過激な反対意見もあり……』