神様を決める教室
第一章 英雄たちの学び舎 ⑧
ポレイアが悲しそうに告げる。
集計はもう終わっているようだ。どういう理屈なのかはサッパリ分からないが、神の世界というだけあって未知の技術があるのだろうと納得する。
……どうなる?
ポレイアは試験の説明にて、武力による脅迫を禁止事項に指定していた。自分はまさにその禁止事項をして票を稼いだのだが、果たして……。
「な、なんだこれ、身体が消えて……っ!?」
「いや……まだ死にたくない……っ!!」
あちこちから悲鳴が聞こえる。
見れば、不合格と思しき生徒たちの身体が薄くなっている。
見たこともない不思議な現象だった。本人たちにとってもそうなのか、混乱しながらその姿は徐々に霞みのような気体になる。
霞みは空気に溶けていくように消えた。
「というわけで、皆さんお疲れ様でした~! 今日は午後から授業がありますので、合格者の皆さんはそれまで寮などで時間を潰してくださいね~!」
不合格者の処理は終わったようだ。
だが、イクスは……死んでいない。
ということは、自分の行いは試験官に確認されなかったようだ。禁止事項に抵触したはずだが、先程の彼らのように消えていないということは見逃されたのだろう。
「……ははっ」
なんだ、ザルじゃないか。
心配して損した。
この学園では、死ぬと身体が霞みになって消えるのだろうか? なら、わざわざ証拠隠滅する必要もなかったかもしれない。
周りを見ると、恐怖に足が竦んで動けない者がほとんどだった。しかし死の淵に立っていたイクスは、恐怖以上に生き長らえたことによる安堵を覚える。
(……皆は大丈夫だろうか)
ライオット、ウォーカー、そしてミコト。
こうなると彼らの無事が気になる。
できれば自分と同じように、生き残っていてほしいが――。
「イクス」
その時、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには温厚そうな少年が立っている。
「ミコト……お互い、生き残れたな」
「うん」
ミコトは静かに頷き、
「ちょっといいかな? 二人で話がしたいんだ」
そんな提案をしてきた。
ここは生き残った喜びを分かち合う場面だと思っていたが……ミコトの表情は深刻だった。
イクスが頷くと、ミコトが歩き出すのでその背中を追う。
少しずつ寮へ移動していく生徒たちに紛れ、先導するミコトは何故か人気のない校舎裏の方へと向かっていた。
その背中を見ていると……妙な不安に駆られる。
沈黙に耐えきれず、イクスは口を開いた。
「言っただろう? 自分で手に入れてみせると」
「そうだね」
ミコトの返事は短い。
「……ミコト、話というのは何だい?」
ミコトは無言で歩き続けた。
答えはない。
……謝らなければ。
最初に謝罪をするべきだったのだ。イクスは反省し、口を開く、
「ミコト。さっきは――」
「――学園には」
イクスの発言を遮るように、ミコトは言った。
「学園には、神様候補とは別に数人の特殊な生徒がいる」
「ミコト? 何を言って……?」
「彼らの役割は、試験で禁止事項を犯した生徒を処理すること。つまり、神様に相応しくない人間を間引きすることだ」
ドクン、と心臓が大きな音を慣らす。
なんだ……?
彼は今、何か恐ろしいことを口にしているのではないか……?
「この学園にはあらゆる世界の英雄が集まっている。だから中には、試験官の目を盗んで不正を行う狡猾な生徒もいる。……そういう人たちへの対策らしい」
ミコトの目は、真っ直ぐこちらを睨んでいた。
それは今までの友好的な目とは全く違う。
とても悲しそうで、そして――覚悟を決めた時の目だ。
「イクス。……残念だよ」
ゾッとするような冷たい声音に、イクスは目の前の少年を警戒する。
「ミコト、お前は……ッ!?」
イクスは腰に携えていた剣を抜こうとした。
幾多の魔物を屠ってきた聖剣。勇者の証でもあるこの剣は、振るえば山を抉り、海を断つほどの凄まじい威力を持っている。
だがミコトは、目にも留まらぬ速さで肉薄していた。
油断はしていない。しかし気がつけばミコトの手が、聖剣を抜こうとしている自分の腕を掴んでいた。
反射的にもう一方の手でミコトを突き飛ばそうとする。
だがその腕はミコトの身体を掠るだけだった。
「不正を行った人物の粛正。その役割を持つ生徒のことを――」
ミコトは、いつの間にかその手に持っていたナイフを翻す。
スパン、と小気味よい音と共にイクスの首が飛んだ。
「――