神様を決める教室

第二章 粛正者 ⑨

 敬語にさん付けは崩せないものらしい。

 分かった、とミコトは頷く。


「何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ。僕はもう仲間なんだから」

「ありがとうございます。頼もしいです」


 その後、ミコトはルシアたちと共に勉強会に参加した。

 ――――滑り出しは順調。

 大規模な集団に所属することができ、しかもそのリーダーに気に入られた。これなら情報も集めやすいだろう。多少派手に動いてもルシアが庇ってくれそうだ。

 ルシアの人望がそうさせているのか、あれほど疑心暗鬼だったクラスメイトたちも今は純粋に友好を深めるために情報交換をしている。

 彼らの警戒心が下がれば下がるほど、粛正者の仕事はやりやすい。

 師匠を生き返らせる。その願いのためだけに、ミコトはクラスメイトと交流した。


          ◆


 勉強会が終わり、寮に戻ったミコトは目の前の光景に違和感を覚えた。


「……あれ?」


 建物の中身が微妙に変わっている。フロントはこんなに広くなかったはずだし、廊下もこんなに幅はなかったはずだ。不思議に思いながら二階に上がると、扉の数が減っていることに気づく。自室の前で立ち止まり、辺りを見渡すと……正面の部屋の番号が変わっている。

 目の前にあったはずのイクスの部屋が、別の生徒の部屋になっている。


「お帰りなさいませ!」


 自室に入ると、パティが元気な声で迎えてくれた。


「ミコト様、寮の施設が拡張されました!」

「拡張?」

「はい。最初の試験で不合格になった方々の部屋が空きましたので、その分の空間を用いて新たな店などができたんです!」


 ちなみに私もそのお手伝いをしました! とパティは胸を張って説明する。

 天使たちは寮の外には出られない。生徒が授業を受けている間、天使は何をやっているんだろうと思っていたが、彼らには彼らの仕事があったようだ。


「主な追加施設は、カフェテリア、資料室、トレーニングルーム、ラウンジ、それからお取り寄せカウンターです」

「お取り寄せカウンター?」


 それだけ聞き覚えがない。


「お取り寄せカウンターでは、生徒の皆さんが、自分のいた世界の道具を取り寄せることができます。ただし取り寄せられるのは、生前に使用したことのある道具のみです。またその道具の価値によって取り寄せにかかる時間も変わります」

「食べ物も取り寄せられるの?」

「はい! お寿司でも、どら焼きでも、取り寄せられますよ!」


 どら焼きのチョイスは謎だが、それは少し嬉しいかもしれない。


「料金は? そういえば購買でもお金はいるよね?」

「生徒の皆様には、一ヶ月に一度お金が支給されます。こちらです」


 パティは一枚のカードを渡してきた。クレジットカードのようなものだろうか。カードは薄型のスクリーンのようにもなっており、左上に残高と思しき数字が記されている。


「ただし、粛正者は全てのサービスを無償で受けることができます。無償で利用したい場合はそのカードの裏面を提示してください」


 至れり尽くせりだ。

 皮肉なものである。前世では自由に使える金なんて所持したことすらなかったのに、死後の世界では使い放題になるなんて。

 カードの表裏を確認して、ポケットに仕舞った。


「取り寄せカウンターについてもう一つ訊きたいんだけど……武器も取り寄せられるの?」

「……可能です」


 パティが神妙な面持ちで頷くと、ミコトは机に向かい、メモを用意した。

 幾つかの品名を書いた後、それをパティに渡す。


「パティ。ここに書いてあるものを、可能な限り用意してほしい」

「……あの、ミコト様。これは一体何に……?」

「粛正者の仕事で必要になるかもしれない道具だ」


 パティは、緊張した面持ちでメモを受け取った。