神様を決める教室
第三章 光と闇 ⑦
「今回の試験で三人の
今回は自分以外にも二人の粛正者が違反者を処理したらしい。
彼らはどんな気持ちで人を殺しているのだろうか。この部屋にいる間は粛正者の顔が隠されているため、その様子を確かめることはできない。
「では、ここからは以前話した通り、貴様らが好きに回せ」
アイゼンがそう言うと、ミコトの正面に座る八番の少女が立ち上がった。
「皆! 一つ提案があるんだけどさ。お互いにクラスだけ公開しない?」
八番の提案に、彼女の隣に座る二番の少年が首を傾げた。
「取り敢えず、狙いはなんだよ」
「お互いの狩り場を決めといた方が効率的かなって」
八番の少女は続けて説明する。
「アタシたちって別に敵じゃないでしょ? だって、アタシたちには表の生徒と違って、全員が願いを叶えるというルートがある。だから協力できると思うの」
一理ある提案だった。
だが一理あるだけで、最適かどうかは個人次第である。
「反対です」
七番の少女が、冷淡に告げた。
「私は、自分の願いを後回しにしてまで誰かと協力する気はありません」
「俺も全く同じ意見。反対だ」
感情豊かそうな二番の少年も反対の意思を示す。
「賛成の人はいないの?」
八番の少女はぐるりと室内を見渡したが、誰も賛成の声は上げなかった。
ミコトも先程焦ったばかりだ。獲物をやすやすと見逃す気はない。
「う~ん……いい案だと思ったんだけどなぁ」
八番の少女は残念そうに呟き、
「じゃあ、話を変えよっか! 今回の試験、皆のクラスはどうだった!?」
あっさりと調子を取り戻し、そう言った。
「……」
「……」
「……」
「なんで誰も言わないの!」
全員沈黙していると、八番の少女が怒鳴り声を上げる。
無理もない。話を変えようと言っていたが、実際は全く変わっていないのだから。自分のクラスのことを話すと、クラスを特定されかねない。
とはいえこの八番の少女……そこまで考えていない可能性もある。
粛正者といえど、その性格はバラバラらしい。ミコトは徹底的な慎重派だが、八番は恐らく楽観的で友好的なタイプなのだろう。
「私のクラスは、何人か死んだわ」
今まで一度も喋ったことのない少女が告げた。数字は六番だ。
自分も喋るべきだろうか? 下手に黙り続けていると、それはそれで悪目立ちする。
「僕のクラスも似たようなものだったよ」
詳細を語る必要はない。
適当に発言すると、八番の少女は「へ~」と興味深そうに相槌を打った。
「そういえば、全員が合格したクラスがあるって聞いたぞ。確か五組だったか?」
二番の少年が言う。
すると、隣に座っている十二番の少女が反応した。その少女は慌てた様子で手元の小さなメモ帳を開き、中を確認している。
「あ、あの……私は、一組が全員合格したって聞きましたけど……」
メモ帳を確認するほどの情報だったか? という疑問が生まれたが、それよりも二人の会話内容が気になる。
ミコトが所属する一組は、確かに全員が合格した。しかしその情報が外部に漏れるにしては早すぎる。
誰かが積極的に、他クラスの情報を集めているのだ。
粛正者だけではない。色んな生徒が、己の目的のために動き出している。
「全員合格のクラスが二つもあるってことか? ……どうやったんだよ。あの試験、そんなに簡単なものじゃなかっただろ」
「えっと、一組は聖女と呼ばれている方が、皆をまとめているみたいです。それで上手く進められたんじゃないでしょうか」
取り敢えずこの二人は一組と五組にはいなさそうだな、と冷静に分析しつつ、ミコトは無言で話を聞き続ける。
一組はそもそも団結していることを秘匿していない。だからクラスの中心に聖女ルシアがいることも、ちょっと調べれば分かることだろう。
「同じことをしてるのかもね」
話を聞いていたい八番の少女が告げる。
「五組にもいるんじゃない? 一組の聖女みたいに、皆をまとめられるような器の人が」
◆
集会が終わった後、ミコトはすぐにラウンジへ向かった。
粛正者の集会が行われる円卓の間は、たった一つのドアだけが出入り口になっているが、このドアは一度に一人しか入ることができない。入った人はランダムな位置へ転送され、誰にもバレずに校舎に戻れる仕組みになっている。
ミコトは保健室から円卓の間に入ったが、出口は校舎二階にある男子トイレの個室だった。
そういえば、トイレに行くと言ってルシアたちと別れたんだった、と思いつつ、寮の中にあるラウンジへのんびり向かう。
ラウンジに近づくと騒々しい声が聞こえた。
祝勝会で皆、盛り上がっているのかと思ったが………………どうやら違うようだ。
(……喧嘩している?)
口論するような声が聞こえる。
ラウンジに着くと、そこには一組の生徒だけでなく他クラスの生徒もいた。比率は半々といったところだろうか。
ラウンジの中心では、二人の女子生徒が対峙している。
一人は銀髪の少女――聖女ルシア。
もう一人は見たことのない金髪碧眼の少女だ。
二人は何やら言い争っている。
「ミコト、帰ってきたか」
ウォーカーがこちらの存在に気づいた。
「何が起きてるの?」
「ルシアの今後の方針については聞いただろう? これからは他のクラスからも仲間を募集すると。……ラウンジに向かう途中で他クラスの生徒を見かけたから、ルシアは早速声をかけたんだ。しかし、どうも相手を間違えてしまったようでな」
相手を間違えた?
不思議に思うミコトに、ウォーカーは続ける。
「ルシアが声をかけたのが、あの金髪の生徒なんだね」
「ああ。どうやら彼女は、ルシアと同じようにクラスを率いる立場らしい。なのに手を差し伸べられたから腹が立ったのだろう。……まあ、気持ちは分からなくもないな」
集団を率いる身にも拘わらず、一方的に手を差し伸べられたわけだ。これを看過すれば自分が率いている集団に示しがつかない。
見たところ金髪の女子生徒は確かに怒っているが理性は保っている。決してプライドを刺激されたから激昂しているわけではなさそうだ。
「彼女が率いているクラスっていうのは?」
「確か、五組と言っていた」
集会で話題にあがった件か、とミコトは納得する。
(……あれが、ルシアと同じ器の持ち主か)
もう一度、今度は注意深く金髪の女子生徒を観察した。
赤い差し色の入った制服がよく似合う少女だった。全体のシルエットはドレスのように見える。肌は白く、佇まいからは上品さを感じた。ルシアに負けず劣らず高貴な雰囲気で、容姿も端麗である。だがルシアと違って気性は激しいのだろう。彼女は力強くルシアを睨んでいた。
そんな少女の背後には、険しい顔つきをしていた生徒たちが待機していた。
彼らは皆、警戒心を露わにしてルシアのことを睨んでいる。……なるほど、あの金髪の少女はクラスメイトたちからかなり慕われているようだ。
「埒があかないわね」
金髪の少女が、溜息交じりに言った。
「私はただ、これからは無闇に手を差し伸べるなと言っているだけなのだけれど……貴女にはそんなことすらできないのかしら?」
「はい。私はこれからも、色んな人へ声をかけていきたいと思います」
「はっ! 聖女っていうのは、随分傲慢な女のことを指すらしいわね。自分が声をかけなければ、目の前にいる人は最後まで孤独だと思っているわけ?」