年下の女性教官に今日も叱っていただけた
第1話 年下の女性教官に命令していただけた②
「――起きてください。……起きなさい。……起きろ!」
甲高い声が聞こえた直後、右側頭部に衝撃を受けて意識を取り戻した。
目を開けると、さっきの森の中だった。先ほどドラゴンと対峙していた美少女が前かがみになって、仰向けで寝ている俺のことを睨んでいる。
死を覚悟して意識を失ったわけだが、まだ命はあるようだ。おそらく、助けてもらったのだろう。
「――わたしに『君は邪魔だから』と言っておいてすぐにやられるって、バカなんですか?」
目が合った瞬間にキレられた。
こういう時の第一声って相場は「大丈夫ですか?」とか、「気分はどうですか?」とかじゃない……?
「そもそも、一発で動けなくなるレベルの催眠にかかるって、どれだけエロいことで頭がいっぱいなんですか。気絶している間ずっと気色悪い笑みを浮かべていましたし」
「すみません……」
謝意を述べつつ目を逸らした。美少女が文句を言いながら距離を詰めてきたので、美しすぎる顔の圧力に耐えられなくなったのだ。
「あなたを助けることを優先したせいで、ドラゴン使いを取り逃がしたんですからね? 索敵に3日もかかったのに、どうしてくれるんですか」
美少女の愚痴が止まらない。しかし俺は彼女が至近距離で話しているという事実が嬉しすぎて、叱られているにも拘わらずニヤけてしまう。
「なんでそっぽを向いてニヤニヤしているんですか。わたしみたいな小娘の話は聞く必要がないと思っているんですか?」
「い、いや、そういうわけではなく――」
「じゃあ、わたしの目を見なさい」
「…………」
命令されたので、美少女の方に視線を向けた。
だがすぐに耐えられなくなって顔を背ける。
ダメだ。可愛すぎて直視できない。
「……もしかして、目を合わせないのは反発心じゃなくて、単に照れているだけだったりします……?」
俺の反応がおかしいことで察したらしく、半信半疑といった口調で問いかけてきた。
「い、いえ、そんなことはないです……」
女性が苦手だというのは恥ずかしいのでごまかそうとしたが、美少女は確証を得てしまったらしく、ニヤリと笑った。
「あの魅了耐性のなさは異常だと思いましたが、なるほど、女性が苦手なんですね。ふ~ん、そうですか~」
美少女は断定的な口調で言い、邪悪な笑みを浮かべた。
俺はこれに似た表情を何度も見たことがある。性格が悪い先輩が新しい拷問を思いつき、ゆっくり近づいてくる時にしている笑い方だった。
「ご、誤解です。急用を思い出したので、俺はこれにて」
上擦った声で一方的に告げて逃げようとしたが、右手を掴まれて阻止された。
その瞬間、全身に電撃が走ったような感覚を覚えた。
……女の子の手、やわらかい……!!
こんな可愛い子に手を握ってもらえる日が来るなんて……!!
「話はまだ終わっていません。――あと、手が触れたくらいでニヤけすぎです。どれだけ耐性がないんですか」
美少女は素早く手を離し、呆れたように言った。
「す、すみません……」
「あなた、冒険者ですよね? 他に仲間はいないんですか?」
「……事情があって、数時間前に1人になりました」
「なるほど。パーティを組む予定は?」
「ないです……1人でも大丈夫かと思って……」
「たしかにドラゴンを倒したのはすごかったですが、1人で冒険を続けるなら、女性への耐性をつけないと死にますよ。人間の男を魅了するように進化したモン娘は、そこら中にいるんですから」
「……気をつけます」
「気をつけて何とかなるレベルじゃないと思いますが」
一向に目が合わない俺に、美少女はジト目を向けてくる。
かと思うと、彼女は唇に人差し指を当て、何かを思案するような表情になった。考えごとをする顔も美しいな……。
「ドラゴンを単独狩猟できる逸材を、みすみす死なせるわけにはいきません。わたしが面倒を見てあげましょう」
「えっ……?」
「わたしは勇者訓練校で教官をしているので、編入してください」
「訓練校……」
反射的に、組織で味わった地獄の日々を思い出した。
訓練とは名ばかりの拷問。連帯責任という理不尽によって受ける罰。気絶するまで止まらない暴力。精神を極限まで追い詰める罵詈雑言……。
訓練なんてまっぴらだ。二度とあんな目には遭いたくない。
「えっと……すみませんが、厳しいトレーニングをするのは避けたいというか……」
「心配無用です。授業内容は生徒の実力に合わせたものにカスタマイズされるので、本人のペースで成長していけます」
「いやでも、俺は1人の方が気楽なので――」
「ですから、それだと命の危険があると言っているんです。またモン娘に魅了されたら終わりですよ」
「それはそうなんですが、俺は一文無しで、学費を払う余裕は――」
「さっき狩ったドラゴンの死体を換金すれば、学費は賄えます。それに、入学すれば制服と食事と寮の部屋が支給されるので、生活に困ることはありません」
「……魅力的な提案ですが、共同生活は苦手なので――」
「ああもう! 面倒くさいですね!」
美少女は怒号を上げながら抜剣し、俺の首元に突きつけてきた。
「わたしが助けなければ、あなたは死んでいたんですよ! つまり、あなたの命はわたしのものです! 命令に背くことは許しません!」
「――わかりました」
考えるより先に服従した。
ただの恐喝だし、強引すぎる理屈だが、俺の本能が屈服することを選んだのだ。
しかし美少女は疑わしそうな目つきのまま、鋭い剣先で俺の喉を撫でる。
「従う振りをして逃げたら、地獄の果てまで追いかけて殺しますからね?」
「神に誓って逃げません」
「よろしい。今後も肯定以外の返事はしないようにしてください」
美少女は満足げに言い、ゆっくり納剣した。
「ところであなた、名前と年齢は?」
「レオン、18歳です」
「そうですか。わたしはリリア、17歳です」
「えっ、17歳で教官をしているんですか?」
「そうです。わたしは天才なので」
リリアさんは得意げに胸を張った。自信満々な表情も、ものすごく可愛かった。