年下の女性教官に今日も叱っていただけた

第1話 年下の女性教官に命令していただけた③

 その後、リリアさんに見張られながらドラゴンの死体のところに戻ったのだが、巨大すぎて1人では運べないことに気がついた。いつも組織が所有する荷馬車で運んでいたので、そんな当たり前のことに気づかなかったのだ。


「いったん町へ行き、買取業者に馬車を手配してもらいましょう」

「えっ、それだと手数料を取られますよね? 俺たちでも持てる重さになるよう解体して、町まで何往復かすればいいのでは?」

「わたしにそんな重労働を手伝えと?」

「……解体も運搬も俺1人でやります。半日あれば終わると思うので」

「わたしを半日も待たせると?」

「そ――」

「黙りなさい」

 まだ1文字しか発していないのに、有無を言わさぬ口調で命じられた。


「わたし、裁縫も得意なんです。上下の唇を縫い合わせて、二度と口答えできないようにしましょうか?」

「――すみませんでした」

 こうして俺はリリアさんに付き従い、一番近い町に向かって歩き出した。


 町へ向かう道中でリリアさんから説明されたのだが、勇者訓練校とはその名の通り勇者――魔王を倒す者の育成を目的とした施設らしい。強大な魔物との闘い方を学ぶだけでなく、魔法や薬草や罠などについての知識も身につけるそうだ。


 勇者訓練校は16歳から入学試験を受けられるようになり、卒業までは平均7年かかるらしい。とはいえ課題をクリアできなければいつまでも進級できないし、逆に優秀だと飛び級で卒業することも可能。リリアさんはたった1年で卒業を決め、そのまま教官試験を受けて史上最年少で合格したそうだ。


「となると俺もその入学試験を受けるんですよね? 実技はともかく、薬草とかの知識は皆無なので、受かる気がしないんですが――」

「入試を受ける必要はありません。わたしの独断で入学を許可します」

「そんな権力が……?」

「そういう枠があるんです。レオンさんの戦闘力はわたしと同等以上なんですから、学科で落とすなんていう機会損失はしません」

「な、なるほど」


「わざと落ちようと思ったんでしょうけど、逃がしませんよ」

「い、いやいや、逃げるなんてそんな……」

「ならいいですけど、命が惜しかったら、わたしを出し抜こうとしないことですね」

 リリアさんはそう言って睨んできた。

 鋭い眼光に射竦められ、全身に電気が走るような感覚を覚えた。

 今日まで経験したことがなかったこの感覚は、いったい何なんだろうか……。


 その後、町に到着して魔物の買取業者を訪ね、ドラゴンの死体を回収してもらったところ、成人男性の給料3ヶ月分くらいのお金が手に入った……のだが。

「あなたが逃げないよう、このお金はわたしが管理します」

 受け取った金貨は、すべてリリアさんに没収されてしまった。


「それはさすがに横暴――」

「唇を縫い付けられたいんですか?」

「――っ!!」

 俺が慌てて黙り込んだのを見て、リリアさんは勝ち誇ったように微笑んだ。


「1年分の学費は払っておきますので、衣食住の心配はありません。もしその他に必要な物がある時は、その都度わたしに言ってください。妥当だと判断した時のみ、お金を支給します」

 リリアさんは勝手に決め、どこかへ歩き出してしまった。

 しかし、なぜか悪い気はしない。むしろ、リリアさんの笑顔を見られて、得したとまで感じてしまっている。これが美少女の力か……。


         S         S         S


 その後、俺たちは6時間ほど馬車に揺られ、勇者訓練校に到着した。

 辺りはすっかり夜になっていて、校舎はよく見えない。


「レオンさんには男子寮を使ってもらうんですが、今から部屋を用意するのは無理なので、今夜はわたしの部屋で寝てください。使っていないベッドがあるので」

「――えっ⁉︎」

 今、信じられないことを言われたような……? 俺にとって都合が良すぎる幻聴かな……?


「い、いいんですか……? 俺、野宿でも大丈夫ですけど……?」

「今日中に書いてもらわなければならない書類が大量にありますし、制服などの準備もしなければなりません。同じ部屋にいてもらった方が効率的です」

「な、なるほど……‼︎」

 効率のためならリリアさんの部屋に入れてもらえるのか。効率って最高だな。


 こうして教員用の寮に案内され、リリアさんの部屋に足を踏み入れることになった。

 入った瞬間、甘い匂いが漂ってきた。これが女性の部屋の匂いか……‼︎ 鼻から肺までのすべての臓器が幸せだ……!!

「とりあえずサイズが合いそうな制服を見繕ってきたので、着てみてください。着替えている間にわたしは書類を取ってきます」

 リリアさんはすぐに部屋を出て行き、俺は1人残された。


 目の前にはリリアさんのタンスがある。

 もしかして、この中にはリリアさんの下着が……?

 いや、ダメだダメだ。そんなことをしていいわけがない。

 ……でも、ちょっと見るだけなら……。

 そう思い、ダンスに手を伸ばした瞬間、勢いよくドアが開いた。

「――レオンさん。今すぐ外に出てください」

 どうやら、俺の行動は読まれていたようだ。


 俺は廊下に追い出され、固い床に正座させられる。

「全女性の仇敵。汚らしいゴミ。生きている価値のないクズ。気色悪い変態。他人の気持ちを考えられない犯罪者。生まれてこない方が良かった害虫以下の存在。それがレオンさんだと自覚してください」

 リリアさんは恐ろしい目つきで俺を見下ろし、早口で罵倒してきた。

 しかし、ほんの出来心だったとはいえ、犯罪に手を染めかけたのは事実である。反論はできない。


 しばらく罵詈雑言に耐えていると、リリアさんは気が済んだらしく、厳重に部屋の鍵をかけてから書類を取りに行った。

 俺はその場で制服に着替え、再び正座してリリアさんの帰りを待つ。

 やがて戻ってきたリリアさんは、俺の制服姿を見て満足そうに頷いた。


「サイズは良さそうですね。ではこれらの書類を全部読んで必要事項を記入した後、そのまま廊下で寝てください」

「えっ、屋根があるところにいてもいいんですか? てっきり寮の外に出されるものだと」

「自分の罪の重さを自覚しているようで良かったです。ではまた明日」

 リリアさんは鋭く言い、勢いよく部屋のドアを閉めたのだった。