年下の女性教官に今日も叱っていただけた

第2話 勇者訓練校でも折檻していただけた①

 翌朝。目を覚まして外に出ると、そこには豪壮な建物がそびえ立っていた。

 広大な敷地内に木と石で造られた建物がいくつもあり、その壁面には荘厳なレリーフが刻まれている。周囲には青々とした森が広がっており、空気が澄んでいて心地よい。

 これが勇者訓練校か――


「おはようございます」

 いつの間にか背後に立っていたリリアさんに呼びかけられた。

「1時間後には授業が始まるので、それまでに朝食を済ませておく必要があります。食堂に行きましょう」

 リリアさんはそう言って、返事を待たずに歩き出した。そして石畳の先にある、ひときわ巨大な建物に入っていく。


 俺も続いて食堂に足を踏み入れた瞬間、ここは楽園かと思った。建物内にはたくさんの学生がいたのだが、半数が女性だったのだ。

 みんな可愛くて、刺激が強すぎる。

 思わず目を伏せたが、そうするとミニスカートから飛び出したたくさんの美脚が視界に入った。

 眼福すぎる。誰でもいいからお付き合いしたい。


「ニヤニヤしていないで、食事を取りにいきなさい」

 リリアさんにふくらはぎを蹴られた。心を読まれたようだ。

 すれ違う女性たちに目を奪われつつ進み、食堂の中央に到達した。そこには多種多様な食事が所狭しと並んでいる。


「これ、全部食べていいんですか?」

「バイキングなんですから、当然です」

「お金は……?」

「学園関係者ならどれだけ食べても無料です」

「天国ですか?」


 たくさんの女性を眺めながら豪華な食事を取れるなんて、24時間前には想像すらできなかった状況だ。

 組織では穴蔵に男どもが集まり、臭い魔物の肉や、腐りかけの野菜ばかり食べさせられていたからな。

 本当に逃げ出して良かった……!!


 木製のトレイと皿を手に取ったものの、あまりの品数の多さに目移りしていると、1人の女子生徒がリリアさんに話しかけた。

「リリア先生、おはようございます。そちらの方が転入生ですか?」

 その女性は、食堂内にいる女性たちの中でも一際美しかった。しかも俺と目が合った瞬間、やわらかい笑みを浮かべてくれた。

 神々しすぎて直視できず、すぐに目を伏せる。


「はい、今日から転入するレオンさんです。戦闘力だけならわたしにも引けを取りません」

「リリア先生がそこまで言うなんて、すごいですね……」

「ちょうどいいので、紹介しておきましょう。レオンさん、こちらはクラス委員長のシエラさんです。挨拶してください」

 リリアさんから促されたが、あまりに眩しすぎて、顔を上げられない。


「え……えと……よろしくお願いします……」

 うつむいたままそう絞り出すのが精一杯だった。リリアさんは呆れ顔になる。

「レオンさん、声が小さいです。モゴモゴ言ってないで、ちゃんと相手の目を見て、ハキハキ話してください」

「リリア先生、いいんですよ」

 シエラさんはなだめるように言った後、また俺に笑顔を向けてくれた。


「転入初日ですから、緊張するのは当然です。気にしないでくださいね」

「……女神だ……!!」

 美少女で気遣いができるなんて最高だ。最初に知り合ったのがリリアさんだったせいで、美少女は全員口調がキツい生き物だと思っていたが――

「何か失礼なことを考えていませんか?」

 思わずニヤニヤしていたら、リリアさんに睨まれた。笑顔を消して再び下を向く。

「リリア先生、威圧しないでください。……えっと、私はクラス委員長のシエラと申します。もし何か困ったことがあれば、遠慮なく相談してくださいね」

「天使……!!」


「レオンさん、いちいちデレデレしないでください。授業まで時間がないんですから、早く朝食を取りますよ」

 リリアさんは苛立たしげに言い放った。俺は慌てて料理の前に移動する。

 本当はじっくり選びたいところだが、時間をかけるとまたどやされそうなので、目についた肉を片っ端から手掴みで取っていく。

「こらっ!!」

 リリアさんに後頭部を殴られた。


「ちゃんと箸を使って取りなさい」

 リリアさんは怒りながら、細い2本の棒を差し出してきた。

「箸……そういう食器があるって聞いたことがあります。これがそうなんですか……」

 俺がつぶやくと、リリアさんは驚いたようだ。

「箸を知らないって、原始人ですか?」

「リリア先生、文化の違いに対して、そういう言い方は良くないと思います」

 シエラさんはリリアさんをたしなめた後、俺の方に向き直った。


「箸は慣れるまでは大変だと思いますが、便利なので使ってみてください」

「どうやって使うんですか?」

「こういう風に指で挟んで動かして、食べ物をつまみ取るんです」

「なるほど……難しそうですね……」

「じゃあ、慣れるまで私がかわりに料理を取ってあげますね。どれが食べたいか言ってください」

「慈愛の女神……!!」

 思わず賞賛すると、リリアさんが睨んできた。


「シエラさん、わたしは仕事があるので、レオンさんの世話をお願いしてもいいですか?」

「わかりました。お任せください」

 シエラさんはそう言って、豊満な胸を張った。すごい迫力である。

 一方、リリアさんはサンドイッチをぱくつきながら食堂を出ていった。

 その後、シエラさんに料理選びを手伝ってもらったのだが――


「お肉ばかり食べていると栄養が偏りますよ。お魚やお野菜も食べましょう」

 と言われ、チョイスを任せたら、まるで芸術品のような鮮やかな食事が完成した。俺1人で選んでいたら、肉料理だけの茶色い皿になっていたことだろう。


 さらに、シエラさんは俺と同じテーブルに座り、箸の持ち方をレクチャーしてくれた。

 俺が何回食べ物を落としても、根気強く付き合ってくれる。

 しかし、俺がいつまでも上達しないせいで、食事は遅々として進まない。

「すみません、練習に付き合わせてしまって……」

「気にしなくていいんですよ。誰にでも初めてはあるんですから」

「無垢の天使……!!」

「それに、こうしていると、弟に箸の使い方を教えたことを思い出します」


 シエラさんは澄み渡る青空のような笑みを浮かべた。

 結婚したい……この学校に来て本当に良かった……!!

 シエラさんの温情に報いるためにも、早く箸の使い方をマスターしなければ。

 俺は箸を構え、反復練習をくり返す。


「……可愛い……育てたい……」

 悪戦苦闘する俺に向かって、シエラさんがそうつぶやいたように聞こえた。

「えっ? なんですか?」

「いえ、なんでもないです」

 シエラさんは気まずそうに言って、目を逸らした。

 きっと聞き間違いだろう。『可愛い』という言葉は、女性や小さい子どもに対して使う言葉だからな。