年下の女性教官に今日も叱っていただけた

第2話 勇者訓練校でも折檻していただけた②

 ようやく朝食を食べ終わった頃には、授業開始直前になっていた。シエラさんに案内され、1年生の教室に足を踏み入れる。

 そこには30人ほどの学生が集まっており、約半数が女性だった。彼女たちは一斉に俺を見て、何かを囁き合っている。

「レオンくんは、あの厳しいリリア先生が編入を即決したって噂ですからね。みんな興味津々なんです」

 シエラさんがそう教えてくれた。たしかにリリアさんは俺の意思を完全に無視して即決したな……。


 ともあれ、教室中の女性たちに噂されているというのは、かなり気分がいい。

 席は自由とのことなので、シエラさんと並んで最前列に並んで座る。

 これまで入ったことがない空間、味わったことのない空気。すぐ隣にシエラさんがいるという事実も手伝って、胸が高鳴った。


 それから間もなく、リリアさんが教室に入ってきた。

 その瞬間、ざわめきが一斉に収まった。

「皆さん、おはようございます。まずは転入生を紹介します。レオンさん、前に出て挨拶してください」

 そう促されて立ち上がり、周囲を見回すとクラス中の女性が俺を見ていた。


「……レオンです……よろしくお願いします……」

 思わず目を逸らし、蚊の鳴くような声で告げると、リリアさんはため息をついた。

 いたたまれなくなってすぐさま席に着くと、シエラさんが優しく頭をなでてくれる。

「大丈夫ですよ。このクラスはみんな優しいので、何も心配はいりません」

 ……暖かい……。凍えきった体が、春の訪れによって雪解けを迎えた気分だった。


 一方、リリアさんは不機嫌そうに俺を睨んだ後、教科書を投げてよこした。そしてすぐに授業を始める。

 受け取った教科書によると、1時間目は『回復薬学』という授業らしい。薬草の素材や、煎じ方について学ぶ学問のようだ。

 俺にとって薬草はそのまま飲むものなので、効力を高めたり、苦味を軽減したりする方法が確立されていることに驚いた。


 リリアさんは陽光(ようこう)草(そう)という薬草について解説している。だが専門用語が多くて、内容が半分も頭に入ってこない。

 それはそれとして、授業をするリリアさんが美しすぎる。しかも教官なので、いくらガン見しても問題ないというのが素晴らしい。


 さらに、横を見ると真面目にノートを取るシエラさんがいる。横顔も天使だ。

 俺は完全にシエラさんに惚れた。彼女が同じクラスにいるなら、どんなにツラいことがあっても耐えられる自信がある。

 というわけで授業はそっちのけで、リリアさんとシエラさんを交互に盗み見し続ける。この学校は最高だ。


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 1時間目の授業終了後すぐ、リリアさんに廊下に呼び出された。

 そして廊下に出た瞬間、全力で足を踏まれる。

「授業中にわたしやシエラさんを品定めするのはやめてください」

 リリアさんはガチギレしていた。どうやら授業中は怒りを抑えていたようだ。


「品定めしていたつもりはないんですが……」

「じゃあ授業を聞いていましたよね? 陽光草の生息場所と採取に適した時期、煎じ方を答えてください」

「…………何一つわかりません」

「足の甲を踏み抜きますね」

 宣言直後、リリアさんは俺の左足を潰そうとしてきた。反射的に足を引いて避ける。


「品定めしてすみませんでした……」

「次やったら殺しますから」

 リリアさんはドスの利いた低い声で言い、教室に入っていった。

 俺は廊下で5秒ほど待ってから、さっきまで座っていた席に戻る。


「あの……リリア先生の怒鳴り声が聞こえてきましたが、どうかしたんですか……?」

 隣に座るシエラさんが躊躇いがちに質問してきた。心配してくれているようだが、事実をそのまま伝えるわけにはいかない。


「その……授業に集中できていないことを叱られまして……」

「そうだったんですか。私で良ければ教えますので、わからないところがあったら聞いてください。何か不安なことはありますか?」

「不安というか、知らない単語が多くて、授業内容が頭に入ってこなくて……」

「そうだったんですね。じゃあわからなかったところをメモしておいてください。昼休みや放課後に教えられる範囲で教えますので」

「ありがとうございます……!」


 こうして俺は心を入れ替え、わからないながらもちゃんと授業を聞くようになった。

 言われた通り理解できなかった部分をメモし、リリアさんとシエラさんを見る時間は2割くらい減らした。さらに、シエラさんを盗み見る時は教科書で顔を隠し、リリアさんに視線がバレないよう工夫した。


 ちなみに、2時間目は魔物に対して使う麻痺薬や睡眠薬について学ぶ『毒薬学』、3時間目は魔物の生態や生息域を学ぶ『魔物学』、4時間目はこの王国について学ぶ『歴史学』だった。

 組織で受けたしごきは嫌だったが、座学も同じくらい苦痛である。とはいえ同じ空間に美少女がいるというだけで、こっちの方が1億倍は楽しいのだが。


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 午前の授業終了後、食堂で昼食を取りながら、シエラさんにどこがわからなかったかを報告した。全部で30個以上あったのだが彼女は嫌な顔一つせず、午後の授業が始まる時間ギリギリまで俺の質問に答えてくれた。


「ありがとうございます。シエラさんのおかげで、かなり賢くなりました」

「いえいえ、私の拙い説明で良ければ、いつでも質問してください」

 天使すぎて感謝しかない。今すぐ結婚したい。