年下の女性教官に今日も叱っていただけた
第2話 勇者訓練校でも折檻していただけた③
やがて昼休みの時間が終わり、俺はシエラさんと一緒に校舎の外に出た。午後は実技の授業があるのだ。
「では、これから魔物の討伐訓練を行います」
学園の敷地内にある闘技場の入口に集合したところで、リリアさんがそう告げた。
「レオンさんにはまだ説明していませんでしたが、この学校では実戦訓練用の魔物を檻に入れて飼育しています。魔物にはランクがあって、闘技場で単独討伐できると、次のランクの魔物と闘えるようになります。といっても、ドラゴンを一撃で倒したレオンさんが手こずる魔物はいないと思いますが」
リリアさんがそう口にした瞬間、周囲でどよめきが起きた。
「ドラゴンを一撃で……⁉︎」「ハッタリじゃないのか……?」「でも、リリア先生が転入させたわけだし……」
クラスメイトたちの視線が俺に集まる。何か言わなければ……。
「……あの時はドラゴンがリリアさんに注目していて、不意打ちが成功しただけです。単独討伐だと、運が悪ければ負けますよ」
と、謙遜したつもりだったのだが、さらに周囲のざわめきが大きくなる。
「いや、普通1人でドラゴンに挑まないって……」「しかも運が悪くなければ勝てるのか……」
女性たちが俺に熱視線を送ってくる。ものすごく照れるが、メチャクチャ嬉しい。
もしかしたら、俺のことを尊敬した女性とお近づきになれるかもしれないな……!!
いや、俺にはシエラさんという心に決めた女性がいるのだが……!!
一方、リリアさんは不満そうに俺を睨んでいる。
「ではレオンさん。今この学園で飼育している最高ランクの魔物に挑戦してみてもらえますか?」
リリアさんから提案された俺は、二つ返事で引き受けた。そしてリリアさんに先導され、砂が敷き詰められた第1アリーナの中央に移動する。
しばらくすると、目の前の鉄柵が上がり、ケンタウルスが姿を現した。
体長は優に3メートルを超えており、その腕の太さは俺の胴体くらいある。
「グオオオオ!!」
ケンタウルスは雄叫びを上げ、こちらに向かって猛然と駆け出した。
ケンタウルスには知能があり、人語を扱えるはずだが、俺と対話する気はないようだ。
筋骨隆々の十指が間近に迫る。もし捕まれば、瞬きする間に骨を折られ、取り返しが付かないケガを負うだろう。
だが、俺は逃げない。敵に向かって走り出すと同時に、一気に体勢を低くする。下に潜り込めば、手が届かないと予想したのだ。
するとケンタウルスはこちらの狙いを察したらしく、地面を蹴って跳び上がり、前足で俺を踏み潰そうとしてきた。
しかし、それは悪手だ。俺は上空に向かって居合い斬りを放つ。
刹那、ケンタウルスの前足2本が切断された。
直後、返し刀で胴体を真っ二つにする。
腹から臓物がまろび出て、ケンタウルスの運命は決定した。
着地と同時に地面に突っ伏し、喘ぎながら俺を睨んでくる。
これ以上は苦しまないよう、首を刎ねてやった。
「――レオンさん、お見事でした」
すぐ近くで待機していたリリアさんが微笑みを浮かべ、納剣した。
「万一の際は助けに入ろうと思っていましたが、杞憂でしたね」
「割と若いケンタウルスでしたからね」
刀に付いた血を拭いつつ答えた。おそらくこいつはこれまで、正面から向かってくる命知らずと闘った経験がなかったのだろう。
しばらくすると、クラスメイトたちが近くに集まってきた。俺のことを小声で噂したり、ケンタウルスの死体を物珍しげに覗き込んだりしている。
するとリリアさんは俺の正面に立ち、口を開く。
「レオンさん。あなたをこのクラスの『教官補佐』に任命します」
「――えっ⁉︎」「マジかよ!!」
俺がリアクションするより早く、周囲から驚き声が上がった。
「転入初日に任命なんて、あり得るのか……⁉︎」「さっきの闘いを見たら、順当でしょ」「リリア先生の補佐……羨ましい……‼︎」
よくわからないが、すごいことらしい。俺は質問する。
「教官補佐って何ですか?」
「その名の通り、わたしを補佐する役割を持つ生徒のことです。基本的には、クラスで最も優れた生徒を任命します。本来は討伐成績や筆記試験の点数から総合的に判断するのですが、現状あなたを超える逸材はいないと考えていますので」
リリアさんがそう断言した瞬間、みんなから歓声が上がり、一瞬遅れて拍手が起きた。
周囲を見回すと、同じクラスの女性たちが俺に羨望の眼差しを向けていた。
ヤバい、これはマジでいけるかもしれない。大人のお店に行かなくても、女性の胸を揉めるかも……。
思わずニヤけ、下を向いて頭を掻く。
するとリリアさんが俺との距離を詰めてきて、耳元でささやいた。
「あまり調子に乗らないでくださいね。教官補佐は名誉ある役職に見えて、実際はただの雑用係ですから」
「――えっ、そうなんですか?」
「当然です。昼夜を問わずこき使いますから、覚悟しておいてください」
リリアさんはそう言って、得意げに笑うのだった。