年下の女性教官に今日も叱っていただけた
第2話 勇者訓練校でも折檻していただけた⑥
「……あれ~? 今って何回目でしたっけ~?」
しばらく上下運動を続けていたところで、リリアさんがわざとらしい声を出した。
「わからなくなっちゃったので、最初から数え直しますね~。い~ち、に~い」
と、楽しげにカウントを始めるリリアさん。
嫌がらせのつもりでやっているのかもしれないが、俺にとってはご褒美以外の何物でもなかった。
「……99、100」
さすがに腕の筋肉が限界に近づいてきたところで、腕立て伏せ100回を達成した。
リリアさんが転ばないよう、ゆっくり床に倒れ込む。
「……なんかレオンさん、満足げな顔をしていますね」
立ち上がったリリアさんは俺の顔を覗き込み、非難するようにつぶやいた。
「い、いえ、嬉しいなんてことは……」
しかし、余韻が凄すぎて笑顔をやめられない。
「普通、教官にこんなことをされたら怒りを覚えるものです。なのに、そんなに嬉しそうにするなんて……。やはりレオンさんはマゾヒストなんですね」
「ち、違います……!!」
断じて俺はマゾなんかじゃない……!
でも、だとしたらこの高揚感はいったい何なんだ……?
「うちのクラスの女子たち、レオンさんがスライムにすら勝てないマゾだとわかったら、どんな反応するんでしょうね」
「――っ!?」
「ふふっ。バラされたら困りますよねぇ? 黙っていてほしかったら、二度とわたしを怒らせないことですね」
リリアさんはそう言って楽しげに笑う。
「とりあえず、今日のところはこの辺で勘弁してあげます」
「はい……色々な意味でありがとうございました……」
「明日以降も毎日、このくらいの時間に特別授業を行いますから」
「――えっ」
「何か問題でも?」
「えっと、できれば放課後は、シエラさんと一緒に授業の復習をしたいと思っていたんですが……」
「却下。レオンさんはモン娘への耐性をつけることが急務ですから」
「そ、そんな……」
あまりに無慈悲な決定に愕然としていると、リリアさんに睨まれた。
「一応言っておきますが、わたしは結構忙しいんですからね。あなた1人のために時間を割いているんですから、感謝してください」
……言われてみれば、たしかにそうだ。リリアさんが受け持つクラスには、30人くらいの生徒がいた。それなのに、俺だけが特別扱いされているのだ。
「……あの、リリアさん。なんで俺のために特別授業をしてくれるんですか?」
「は? あなたがゴミだからでしょう?」
「いえ、それはそうなんですけど、なんでそんなゴミに手間をかけてくれるのかと思って……。スライムさんとの闘いに何度も付き合ってくれたり、服を脱いでくれたり……」
俺が質問すると、リリアさんは嘆息した。
「そんなこと、言うまでもないでしょう。あなたに突出した才能があるからです。ドラゴンを一撃で倒したのを見た時、わたしは思ったんです。あなたはいつか、魔王を倒せる逸材かもしれないと」
「ま、魔王を……!?」
「魔王討伐は、人類の悲願です。そのためだったら、服を脱ぐくらい、何でもありません」
リリアさんは真剣な表情で、まっすぐに俺を見据えた。
お世辞を言っているような感じは、まったくしない。
「えっ、じゃあ、次は下着も――」
「脱ぐわけないでしょうがっ!!」
リリアさんは叫びつつ、俺の頬をぶん殴った。
「……とにかく、あなたはわたしがこれまで見てきた生徒の中で、最も才能があります。だから、モン娘に殺されるなんていう無様な死に方、絶対に許しません」
リリアさんはそう言って、俺の額にデコピンを食らわせた。
頬と額を押さえながら、俺は感動していた。誰かに期待されるなんて、生まれて初めてだったからだ。
俺は今日から、この人のために頑張ろうと思った。
そして1日も早く特別授業から解放され、シエラさんと甘い時間を過ごせるようにならなければ……!
インターミッション リリアの苦悩①
わたしは教員用のお風呂に浸かりながら、レオンさんの生態について考える。
ドラゴンを一撃で殺せるが、女性が苦手すぎる。あと座学が嫌いで、授業中はずっとクラスメイトを品定めしている。
最高の要素と最低の要素がレオンさんを構成していて、頭が痛くなってくる。
……それにしても、レオンさんはあの強さを手に入れるために、どれほど努力したのだろうか。
この学校に誘った時、訓練にトラウマを持っているような様子を見せた。きっと壮絶な過去があるのだろう。
女性に耐性がないのも、そんな環境のせいなのかもしれない。本人を責めるわけにはいかない……と思いつつも、やっぱりイライラしてしまう。
だって、スライムのモン娘に負けるなんて。
まったく。せっかくのお風呂だというのに、ぜんぜんリラックスできない。
湯の中に沈む自分の体を見る。我ながら官能的なプロポーションだと思う。
なのにレオンさんは、わたしの下着姿を見た直後に、スライムのモン娘に魅了されやがった。
そして、「リリアさんに見せてもらったのは下着までだったので」と言いやがったのだ。
そこまで言うなら、生まれたままの姿を見せてやろうか?
想像するだけで恥ずかしくなってくるが、少しの間なら我慢できる。
でも、あの男は一度裸を見たくらいじゃ、女性への免疫はできない気がする。
それならいっそ、もっとすごいことを……?
いや、さすがにそれはやりすぎだろう。そもそも、わたしだって未経験だし……。
――ああ、もう。1人で何を考えているんだ、わたしは。
そういえば、明日はちょっと特殊な授業の日だ。レオンさんはちゃんと乗り切れるだろうか。