年下の女性教官に今日も叱っていただけた

第3話 クラスメイトにママになっていただけた⑤

 こうして、犬として散歩させられるという本日の罰の執行が始まった。

 リリアさんが鎖を持ってズンズン進んでいくので、四足歩行の俺は半ば引きずられながら前に進む。

 ……そういえば昔、学校に入学して、同級生と放課後にお散歩デートすることを夢見ていたなぁ……。

 まさか、教官に散歩させられる日が来るとは思わなかった……。

 でもまぁ、これも一種のお散歩デートと考えられなくもない……?


「ただの散歩では犬感が出ないので、あの木に向かって立ちションをしてきてください。もちろん四つん這いで片脚を上げるスタイルで」

「くぅ~ん……」

 無理だ。こんなのお散歩デートのはずがない。

 そして犬と同じスタイルで立ちションなんかしたら、俺の人間としての尊厳が失われるのだが、どう回避すればいいんだ……。


「――えっ!? レオンちゃん!?」

 木を前にして戸惑っていると、どこからか女性の驚いた声が聞こえた。

 反射的に振り返ると、そこには目を丸めたシエラさんが立っていた。

「こ、これはどういう……!?」

 シエラさんは俺とリリアさんを交互に見て動揺している。

 確実に頭がおかしいと思われた。この状態で勘違いされないはずがない。

「ち、違うんです、これは――」

 立ち上がりざまに弁明しようとしたが、リリアさんにふくらはぎを蹴られた。


「レオンさん、犬は二足歩行しないですよ」

「……わん」

 反論することはできず、地面に両手をついた。

「よろしい。では、シエラさんに犬語で挨拶を――」

 リリアさんが命令しかけた刹那、シエラさんが一気に距離を詰めてきた。

 そして俺の前に腰を下ろし、涙目でこっちを見てくる。


「なんてことをするんですか!! かわいそうに!! レオンちゃんのことをいじめないでください!! ほらほら、ママのところおいで!!」

 シエラさんは絶叫しつつ、強引に俺の頭部を抱きしめた。

 顔全体がやわらかい感触に包まれ、一気に幸せになる。

「おーよしよし!! 怖かったねぇ~~~!!」

「シエラさん、わたしの犬に勝手に触らないでください」

 そんな暴言を吐いたリリアさんに、シエラさんが毅然と反論する。


「リリア先生こそ!! 私の赤ちゃんを犬扱いしないでください!!」

「赤ちゃん……?」

 リリアさんが困惑する。シエラさんの主張内容は「犬扱いしないでください」という部分は真っ当なのだが、「私の赤ちゃん」の部分がクレイジーすぎるんだよなぁ……。


「シエラさんが何を言っているかよくわかりませんが、レオンさんはわたしに犬扱いされて喜んでるマゾなんです」

「リリアさん!? 違いますよ!?」

「私のレオンちゃんはそんな変態じゃありません!! 私がいないと何もできないし何も考えられない無力な赤ちゃんなんですから!!」

 待ってシエラさん、それも絶対に違う。


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 その後、シエラさんの異次元すぎる主張に恐れ戦いたリリアさんは、罰の終了を宣言したのだが……。

「その首輪は駄犬の証として、常に着けていてください。寝る時だろうと外すことは許しません」

「死ぬまで着けていろと……!?」

「さすがにそこまでは言いません。レオンさんが成長し、モン娘に勝てるようになったら外すことを許可します。――ただし、無様な結果が続くようなら、拘束具を増やしますから」

 リリアさんはそう言って、無情な笑みを浮かべた。


 見た目は何の変哲もない首輪なので、事情を知らない人が見ても普通のアクセサリーだと考えるだろう。問題はシエラさんだ。この首輪がどういう意味を持っているか知っているわけで……。

 そんな不安を抱えたまま小屋に戻ると、シエラさんが飛んできた。


「レオンちゃんおかえり!! 大丈夫だった!? 今すぐその首輪を外してあげるね!!」

「あ、いや、この首輪は外すなって言われたので――」

「そんなのおかしいよ! リリア先生がそんな横暴をするなら、私はレオンちゃんによだれかけを着けたい!」

「異次元の対抗をしないでください……」


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 その後、何とかシエラさんに首輪のことを諦めてもらい、俺はサバイバル訓練を続けることになった。

 ちょうどその時、小屋のすぐ近くを巨大なイノシシが通りかかった。

「今日の晩ご飯が見つかりましたね。狩りますか」

 俺が殺気を発すると、イノシシはこちらを睨み付け、突進してきた。迎え撃つために抜刀しようとしたのだが――


「レオンちゃんはケガしたら大変だから、ママに任せて!」

 シエラさんは俺を押し止めた後、抜剣。タイミング良く跳躍して向かい来るイノシシを躱し、上空から見事な刺突を放つ。

 背中側から心臓を一突きにされたイノシシは、剣が突き刺さったまま数歩だけよろよろ歩いた後、絶命した。


「えっへん! ママはすごいでしょー!」

 シエラさんは誇らしげに言い、すぐさまイノシシの解体を始める。早くしないと肉が不味くなるからな。

 シエラさんは解体の手際がいいので、将来いい奥さんになりそうだ。結婚したい。


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 シエラさんたちは友人たちと協力してイノシシ鍋完成させ、5人で夕食を取ることになったのだが……

「レオンちゃんにはママが食べさせてあげまちゅからね~」

「いや、シエラさん。俺もう麻痺が治って自分で食べられるんですが?」

「ダメです。レオンちゃんは赤ちゃんなんだから」

「…………」

「ママの言うことを聞かないとダメだよ?」

「……ばぶぅ」

「可愛い!!」

 言葉に詰まった結果出た返事が好評を博した。もうダメかもしれない。


「ほら、ママの膝の上においで」

 シエラさんはそう言って、自身の真っ白なふとももを指差した。

 何これ最高じゃん。

 こうして俺は、自分より体が小さいシエラさんの膝に腰かけ、スプーンが近づいてくる度に口を開けるだけの存在となった。


 ちなみにシエラさんの友人3人は、気まずそうに視線を逸らしている。

 さらに夕食後、シエラさんは怪鳥の羽毛を集めてきて、壁際にフカフカのベッドを作ってくれた。俺はそこに寝かされ、歯磨きまでしてもらう。

 俺はただ寝ているだけで良く、すべてやってもらえてしまう。赤ちゃんって王様みたいだな……。


 そうこうしているうちに、周囲は完全に夜になった。たいまつを消して就寝することになり、すぐ隣にシエラさんが横たわる。

「――ふふっ。レオンちゃん、おやすみなさい」

 シエラさんは笑顔でそう言った後、仰向けで眠る俺に、全力で抱きついてきた。

 二の腕に豊満な胸が押しつけられ、脚はシエラさんの両脚で挟まれるという、ものすごい状況だった。

 添い寝時にシエラさんと密着することを期待していたが、それどころじゃなかった。彼女の体は色んなところがやわらかくて、俺の体は完全に覚醒してしまった。


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 結局、俺は一睡もできなかった。この至高の感触を味わい続けないのはもったいないと思ったのだ。

 さすがにこちらから触りにいくことはしなかったのだが、シエラさんが寝返りを打つ度にいろいろなところが押しつけられて、本当にすごかった……。

 やがて日が昇り、屋根代わりにしてある葉の隙間から朝日が差し込んでくると、シエラさんたちが起き始めた。


 俺たちは温め直した鍋の残りで朝食を済ませ、森の入口に集合した。サバイバル訓練終了である。

 今日はこれ以降の授業はないらしく、クラスメイトたちは寮に帰っていく。

 俺もそれに続こうとしたのだが、リリアさんに呼び止められた。


「レオンさんはこのまま特別授業を受けてください」

「えっ、今からですか?」

 驚いて聞き返すと、リリアさんはジト目になった。

「……レオンさん。モン娘討伐という課題において、自分が1ミリも進歩していないことを自覚していますか?」

「すみませんでした!」 


 

 インターミッション シエラの苦悩


 

 サバイバル訓練を終えて部屋に戻った私は、レオンちゃんのことを思い返してニヤニヤしました。

 昨日は記念日です。レオンちゃんが私の赤ちゃんになった記念日。


 レオンちゃんと出会った日、箸が上手く使えなかったり、授業の内容がよくわからなかったりと、可愛いところをたくさん見つけました。まさに可愛いの天才です。

 そんなレオンちゃんが麻痺で動けなくなり、私がお世話をすることになるなんて、奇跡でした。

 服を脱がせて体を拭いてあげたり、ご飯を食べさせたりできて、本当に最高でした。


 ……オシッコを手伝ってあげた時は、サイズが赤ちゃんとは違いすぎて、ビックリしましたけど。

 でも動揺が伝わってはいけないと思い、「可愛いね~」と言ってあげました。

 私の赤ちゃんは、他の子に比べておちんちんが大きい。それも個性です。ママである私が、受け入れてあげないと。


 そんなことより、リリア先生がレオンちゃんに酷い仕打ちをしていて、驚きました。しかも「レオンさんはわたしに犬扱いされて喜んでるマゾなんです」なんて、自分を正当化していました。

 レオンちゃんは、本当にマゾなのでしょうか? だとしたら、私はどうしてあげたらいいのでしょう……?

 子育ては苦悩の連続です。


 そうだ。今度、レオンちゃんに絵本を読んであげましょう。市販品ではなく、自作のものを。

 私は紙を用意し、物語を考え始めます。タイトルは……『レオンちゃんのぼうけん』に決定です。

 レオンちゃんが喜ぶ顔を思い浮かべながら、わたしはペンを走らせ始めました。