年下の女性教官に今日も叱っていただけた
第4話 勇者を目指すギャルと野宿させていただけた③
「……わたしがいない間に、いったい何があったんですか」
唐突にリリアさんの声が聞こえ、俺とフィオナさんは驚愕した。
話に夢中になっていて、リリアさんの接近に気づかなかったのだ。
「あ! リリアせんせー! ウチらズッ友になったよ!」
「えっ……? この半裸の変態とですか……?」
リリアさんは驚愕しているが、俺をこんな格好にしたのは彼女自身である。
「そんなことよりリリアさん、さすがに俺のことを放置しすぎ――」
「黙りなさい」
苦情を言い終える前に叱られた。
「急用ができて、レオンさんに拘っている余裕がなかったのです」
「……急用なら仕方ないですね」
すぐさま調子を合わせると、リリアさんは咳払いをした。
「具体的には、ドラゴンの討伐を依頼され、その準備をしていたのです。これからすぐに出発します」
「えっ、今からですか? もうすぐ夜ですよ?」
「魔物の襲撃に、昼も夜も関係ありませんから」
「な、なるほど……。それも教官の仕事なんですか?」
「はい。近隣地域に強力な魔物が出現した際、討伐依頼をされることがあるんです。先日のドラゴンもそうして依頼されたものでした」
「大変なんですね……」
「ちなみに、教官は学生の中から適任者を選び出し、パーティを組んでもいいことになっています」
「そうなんですか? でも、この前のドラゴンとは1人で闘っていましたよね?」
「それはうちのクラスに、役に立ちそうな学生がいなかったからです。半端な戦力は足枷になる可能性が高いですから」
「あー、それで……」
作戦の立て方によっては戦力が低い人を活用する方法もあるが、相手がドラゴンとなると話は別だ。一つ間違えば即死する危険もあるからな。
「というわけでレオンさん。教官補佐として、わたしの討伐任務に同行してください」
「――えっ?」
「レオンさんは特殊な条件下でなければ、わたし以上の戦力になりますからね。もちろん拒否権はありません」
「は、はい……」
「えー! レオンっちばっかりズルーい!」
しばらく静かにしていたフィオナさんが、急に大声を出した。
「ウチも生でドラゴン見たーい! リリアせんせー、ウチもついてっていいっしょ?」
「ダメです」
「え~! ドラゴンの写真撮りたーい! 邪魔しないから~! 遠くから見学するだけ~!」
「……仕方ないですね。死んでも知りませんよ?」
「はーい!」
リリアさんが物騒な確認をし、フィオナさんは笑顔で同意した。
フィオナさんの戦闘レベルがどの程度かは知らないが、ドラゴンとの戦闘を見ることはいい経験になると判断したのだろうか。
「馬車を手配しているので、すぐに支度してください」
「はーい! ウチ、いったん寮に行って、すぐに戻ってきまーす!」
フィオナさんは太陽のような笑顔で言い、弾むような足取りで去っていった。
「あの……リリアさん。そろそろ鎖を外してもらえませんか?」
恐る恐る問いかけると、リリアさんは侮蔑するような視線を向けてきた。
「面倒くさいですね……」
「いや、縛ったのはリリアさんですからね……?」
S S S
ようやく鎖から解放された俺はすぐさま服を着て、リリアさんが手配した馬車に乗り込んだ。忙しなさすぎる……。
馬車の荷台は大人8人が横になれるくらいの広さで、乗客は俺たち3人だけなのだが――
「あ! 予備の鞭見っけ! レオンっちお馬さんごっこしよ! 四つん這いになって!」
さすがに騒ぎすぎだと、俺は両手を床につきながら思った。
「ヒヒーン」
馬っぽい鳴き声を出すと、フィオナさんは嬉々として俺の上に跨った。
「走れ! レオンっち!」
フィオナさんは嬉しそうに叫び、俺の尻に鞭を打ちつけた。打撃音が鳴り響き、尻に鋭い痛みが走る。
なんという理不尽かつ屈辱的な状況だろうか。しかし不思議と、嫌だという気持ちは一切起きなかった。
俺は四つん這いのまま、荷台の中を歩き回る。体が揺れるたび、フィオナさんのやわらかいお尻が背中に当たって幸せになった。
「……2人とも、動き回られると鬱陶しいんですが」
リリアさんが殺気の籠った声音で注意してきた。眼光が鋭すぎて、スライムくらいなら殺せそうだ。
「でもさリリアせんせー、着くまでヒマじゃん」
「レオンさんに跨がっても時間の有効活用にはならないので、今すぐやめてください。ヒマを潰したいと言うなら、到着までの間、授業をしましょう。教科書の内容はすべて頭に入っているので――」
「あ、ウチ到着まで寝るので大丈夫で~す!」
フィオナさんはそそくさと俺の体から降り、寝転がって寝たふりを始めたのだった。
S S S
それから2時間ほど馬車に揺られ、ドラゴンの目撃情報があった山の麓に到着した。
ここから先は道が険しくなるので馬車では進めず、自分の足で登らなければならない。
「野宿に適した場所を見つけたら、夜明けまで休むことにしましょう」
リリアさんはそう言い、たいまつに火をつけた。すでに日は落ちており、探索は難しいと判断したのだろう。
たいまつと月明かりを頼りに、急な山道を進む。
しばらく登ると、水の音が聞こえてきた。近くの地面を調べてみると、お湯が滲み出て溜まっているところを見つけた。
「温泉が自噴しているようですね。有毒なガスは溜まっていないようです。ここに拠点を作ることにしましょう」
リリアさんの提案に異論はなかった。俺たちは枯れ木を集め、火を起こす。
「ねぇねぇリリアせんせー、野湯に入りたくない? あそこ掘ったら入れそうじゃね?」
フィオナさんが滲み出てくるお湯を指差しながら言った。
「そうですね。レオンさん、お願いできますか?」
「お任せください!」
野湯は混浴と相場が決まっていると聞いたことがあるので、いくらでも地面を掘ってやる。
「言っておきますが、入浴は男女別ですよ」
「……わかっています」
世の中はそんなに甘くなかった。
S S S
気落ちしつつも、近くにあった岩を運んで囲いを作り、木を削って作ったスコップで地面を掘り始めた。
すると湧き出すお湯の量がみるみる増えていき、1時間ほどで大人2人が悠々入れそうな野湯が完成した。
「俺は後でいいので、お2人が先にどうぞ」
「レオンっち、覗いちゃダメだよ?」
「変なことをしたら殺します」
2人から釘を刺されたが、正直この2人の入浴シーンには命をかけられる。
俺は少し離れた場所に移動した後、木に登りはじめた。
もちろんこれは近くにドラゴンが潜んでいないか調べるためであり、上空から覗くことを目的にしたわけではない。
ただ、ドラゴンを索敵している最中に、さっきの野湯が偶然視界に入ってしまう可能性は否定できない。
期待に胸を膨らませつつ、なるべく音を立てずに大木を登っていく。
そして大木の頂点に達したところで、空を飛ぶ火竜と目が合った。
しかもその背には、フードを被ったドラゴン使いが乗っている。
「――えっ⁉︎ なんで⁉︎」
俺の姿を認めたドラゴン使いは驚愕し、悲鳴に近い声を出した。
「アンタが武装解除したら不意打ちしようと思ってたのに、どうして気づいたの⁉︎」
この疑問に対し、俺は動揺を隠して返答する。
「お前の考えなんか、すべてお見通しだからだ!」
啖呵を切った俺は、ただの偶然であることがバレる前に斬りかかろうとする。
――が、刀を持ってきていないことを思い出した。木を登るのに邪魔だったのだ。
素手で闘う? いや、無理に決まっている。
「……ちょ、ちょっと待っていろ!」
急いで刀を取ってこようとしたが、ドラゴン使いに大人しく待機している義理はない。
「ドラゴンちゃん! 火焔の息をお見舞いしなさい!」
ドラゴンが口を開いたので、俺は慌てて飛び退いた。
直後、吐き出された爆炎によって木々の先端が消し飛び、空が真っ赤に染まる。
飛び降りるのが1秒遅れていたら、俺は消し炭になっていただろう。
時おり木の枝を踏んで落下スピードを緩和しつつ、拠点に戻る。一刻も早く刀を手に入れなければ――
だが拠点に戻った瞬間、全裸のリリアさんとフィオナさんが視界に飛び込んできた。
おそらく、さっきの爆発で異常を察し、服を着ようとしていたのだろう。2人とも野湯の中で立ち上がっており、月明かりによって裸体の輪郭が浮かび上がっている。