年下の女性教官に今日も叱っていただけた
第4話 勇者を目指すギャルと野宿させていただけた④
「――きゃあっ!!」
入浴中だったフィオナさんは、俺の姿を認めるなり両手で恥ずかしい部分を隠し、お湯の中に身を沈めた。
「レオンっち変態!! さっさと出てけっ!!」
一方、リリアさんは体を隠しているものの、まっすぐ立ったまま、俺の背後に広がる闇を睨み付けている。
もしかするとドラゴンが迫ってきているのかもしれないが、一糸纏わぬ姿のリリアさんから目が離せない。
もっとも、明かりは月光とたいまつだけなので、大体の体形ぐらいしかわからないのだが。
などと前方を注視していた刹那、背後で再び爆発が起きた。
そして木々が燃え上がる中、先程のドラゴンが姿を現す。
「3人まとめて消し炭にしてやるわ!! やるわよドラゴンちゃん!!」
「グオオオオ!!」
ドラゴン使いの呼びかけに応じるように、ドラゴンが咆吼した。
さすがの俺もリリアさんたちに背を向け、刀を拾って身構える。
「俺が相手している間に、服を着てください」
ドラゴンとの闘いは、小さなミスがすべて死に直結する。たとえ一瞬たりとも、気を緩めてはダメだ。
とはいえ、背後で着衣中のリリアさんたちが気になりすぎて、いまいち身が入らないのだが――
「レオンさんのことだからわたしたちの裸が気になっているんでしょうが、今は闘いに集中してください! ドラゴンを倒したら好きなだけ見せてあげますから!」
すべてお見通しなリリアさんが発破をかけてきた。
一瞬遅れてその発言内容を理解し、驚愕する。
好きなだけ見せてもらえるだと……⁉︎
だとしたら、こんなところで死ぬわけにはいかない!!
俺は全力で地面を蹴り、木々の合間に飛び込んで身を隠した。
ドラゴンと正面からやり合うのは自殺行為なので、まずは付け入る隙を作らなければ。
もし今ドラゴンがリリアさんとフィオナさんを狙ったら、俺は守りに戻らざるを得ない。しかし、十中八九そうはならないだろう。あのドラゴン使いは、不意打ちしてきた俺にドラゴンを一撃で殺されたトラウマがある。視界から消えたら、何をされるかわからないという恐怖を抱くはずだ。
「――ドラゴンちゃん! あの男を追いなさい! 絶対に見失わないで!」
この命令を受け、ドラゴンはその巨体をこちらに向けて走り出した。想定通りだ。
俺は生い茂る木々を避けながら山道を駆ける。
まずはリリアさんたちから距離を取り、2人の安全を確保しよう。そのためには、適度な距離を保ちつつ、ドラゴンを引きつけなければ。
とはいえ、1人でドラゴンと闘うのは得策ではない。リリアさんが駆けつけてくれたら、挟み撃ちにできるんだが――
策略を巡らせている最中、追いすがるドラゴンが火焔の息を吐き、自身の前方にある木々を焼き払った。
俺は何度も走る方向を変え、常に自分とドラゴンの間に木々があるように調整する。
そうして逃亡を続けていると、ドラゴンが吐く炎によって燃える範囲が段々狭まっていることに気がついた。もしかすると、連続して撃つと威力が弱まるのかもしれない。
――それなら話は早い。
俺はドラゴンが火を吐き終えると同時に方向転換し、燃え盛る大木の真横を駆け抜け、ドラゴンとの距離を一気に詰める。
爆煙に紛れたので、すぐには気づかれなかった。
「――っ⁉︎ ドラゴンちゃん気をつけて!!」
反撃に転じたことを察したようだが、今更遅い。
火焔を吐き終えたドラゴンの真下に到達したところで地面を蹴り、跳躍。右の眼球を目がけ、刀を水平に薙いだ。
「グオオオオオ‼︎」
ドラゴンが雄叫びを上げ、体を大きく仰け反らせる。
これで右側に死角ができた。一度身を隠してもいいし、このまま左目を狙って勝負を決めてもいいが――
思案している最中、向こうからリリアさんが駆けてくるのが見えた。であれば、俺が注意を引きつけておいた方がいいな。
背後に回り込もうとすれば、リリアさんの存在に気づかれるかもしれない。巨体の下に潜り込むことを決め、駆け出した。
すると怒り狂ったドラゴンは俺を目掛け、右腕を振り下ろした。
咄嗟に方向転換して飛び退くと、一瞬前まで俺がいた地面が砕け散った。接近し過ぎるのは危険だ。1秒でも早く裸を見たくて、決着を急いだことを反省した。
ドラゴンは残った左目で俺を睨み、大きく息を吸う。
反射的に大木の後ろに飛び込んだ直後、火焔が放たれた。
大木が焼き尽くされる中、高熱に耐えていると、急に火焔の放出が止まった。
様子を窺うと、リリアさんがドラゴンの背中に飛び乗り、剣で斬りつけていた。
さらに背中を駆け上がり、ドラゴン使いに迫る。
「――ドラゴンちゃん! ヤバそうだから撤退して!」
ドラゴン使いは絶叫しつつ、リリアさんに鞭を喰らわせて振り落とした。
直後、ドラゴンが羽ばたいて上空に飛び去っていく。
今から木に登っても追いつけないだろう。取り逃がしてしまったのだ。
ドラゴンを倒せなかった……。つまり、好きなだけリリアさんの裸を拝ませてもらえるという約束も、一緒に飛び去ってしまったわけだ……。