年下の女性教官に今日も叱っていただけた
第4話 勇者を目指すギャルと野宿させていただけた⑤
戦闘後、ドラゴンが起こした火災はどんどん勢力を増していき、森の木々を燃やし尽くしていった。
しかし、俺たちにはどうすることもできない。なるべく早く鎮火することを祈るしかないのだ。
「ドラゴンは仕留め損ねましたが、レオンさんが大ケガを負わせたので、しばらくは大人しくしているはずです。一度学園に戻りましょう」
リリアさんが淡々と告げた。火竜との戦闘時に火災が起きるのはよくあることなので、割り切っているのだろう。
「……それにしても……」
フィオナさんと合流するため、先ほどの拠点を目指して走っていると、リリアさんが俺をまじまじ見つめてきた。
「ドラゴンに追われている状況で弱点を見出す冷静さ。そこから攻撃に転じられる勇敢さ。闇夜でも正確な攻撃を繰り出す戦闘センス……。レオンさんは女好きの変態で気色悪いマゾヒストなことを除けば完璧なのに……」
「いやいや、そのマイナスポイントは全部誤解ですから」
「ふーん……。ところで、最初のドラゴンの攻撃は上空で発生したようですが、いったい何があったんですか?」
「それは……木に登ったら、ドラゴンと遭遇して……」
「なんで木に登っていたんですか?」
「えっとですね、ドラゴンの気配を察知して――」
「それならなぜ、刀を持って登らなかったんですか?」
「……すみませんでした!」
俺は女好きの変態だと認める他なかった。
S S S
その後、俺たちはフィオナさんと合流し、麓を目指して歩き出したのだが――
「マジ最悪。お風呂覗かれるし、ドラゴンの写真撮れなかったし」
フィオナさんからの苦情が止まらなかった。
「故意に覗いたわけじゃありません。ドラゴンと遭遇して、ここに置いていた刀がないとどうしようもなかっただけですから」
「でも、ウチらの裸見て興奮したんでしょ」
「……あの時はそれどころじゃありませんでした」
「いやいや、ガン見してたよ。ね、リリアせんせー?」
「間違いありません。レオンさんから熱視線を感じて、ものすごく不快でした」
「申し訳ありませんでした……」
真っ暗でほとんど何も見えなかったのにと思いつつ頭を下げると、フィオナさんにも睨まれた。
「許してほしかったら、慰謝料を払って」
「……えっとですね、お詫びの気持ちはあるんですが、あいにく俺は一文無しで――」
と言葉を選んでいる途中で、ドラゴンの死体を売って得たお金をリリアさんに預けていることを思い出した。
「あ、そうだ。リリアさ――」
「レオンさんから預かっているお金はすべて没収することに決めました」
「なっ、なぜ――」
「ジロジロ見られたことに対する慰謝料です」
「異論はありませんでした」
むしろあの金額で済んで良かったと思うべきである。
「というわけで、フィオナさんに支払うお金はありませんでした」
「はぁ? ないなら体で払ってもらうことになるけど?」
フィオナさんが不穏なことを言い出した。
もし俺たちが男女逆だったら、このセリフを聞いてエッチなことを想像していただろう。
しかし、俺は男だ。「体で払う」と言われた場合、「肉体労働をしろ」という意味に決まっている。
「いいですよ。何をすればいいんですか?」
「まず、ウチの彼ピになって」
「……彼ピ?」
「恋人ってこと」
「――はいっ!?」
思いもよらない提案すぎて、意味がわからなかった。
まさか、フィオナさんは俺に惚れているのか……!?
「レオンっちは初日にケンタウルスを単独討伐して、教官補佐になったじゃん? 女子はみんな、かなり注目してるんだよね。だからレオンっちが彼ピになったら、クラス中の女子にマウント取れるの」
「すごく不純な動機ですね……」
「別にいいじゃん。それに、ウチが彼女になったら、レオンっちにもメリットあるんだし」
「メリット……」
思わずフィオナさんの胸元に視線を落とす。
シエラさんには及ばないが、かなり発育はいい方のようだ。
もしフィオナさんと付き合うことができたら、これを好き放題できるのか……!!
などと胸を弾ませていると、フィオナさんは眉間にしわを寄せ、ゴミ虫を見るような目つきになった。
「キモッ。何考えてるか丸わかりなんだけど」
「す、すみません……」
「メリットっていうのは、モン娘のこと。前にどっかで、『恋人がいる男性はモン娘に魅了されづらくなる』って聞いたことあるの。好きピがいれば、モン娘ごときに惑わされなくなるってことっしょ」
「……なるほど」
たしかに、彼女を作ってイチャイチャすれば、女性に対する免疫はできるだろう。
「ウチ普通に可愛いし、本気出したらレオンっちを落とせると思うんだよね。女性に慣れてなくて、チョロそうだし」
「……免疫がないので、惚れっぽいという自覚はあります」
「でしょ? モン娘より断然人間の女性の方がいいって、ウチがわからせてあげる!」
「よ、よろしくお願いします」
「じゃあ今日からレオンっちはウチの彼ピ(仮)ってことで。あくまで彼ピ(仮)だから、肉体的な接触は禁止ね」
フィオナさんはそう言って、小悪魔のような笑みを浮かべた。
「リリアせんせーも、別にいいですよね?」
「……当校は自由恋愛を認めていますから、わたしに許可を取る必要はありません」
突然質問されたリリアさんが、眉間にしわを寄せながら答えた。
「ちなみに、俺は彼ピになるだけで、体で払ったことになるんですか?」
「あー、それはちょっと違うかな。レオンっちには、ウチと色んな所にデートに行ってほしいんだよね」
「デート、ですか」
「うん。まぁ、詳しいことは2人きりの時に説明するよ」
フィオナさんはどこか気まずそうに言った。心なしか、リリアさんの視線を気にしているようだ。
もしかして、他人に言えないような場所にデートに行くつもりなのか?『肉体的な接触は禁止』というのはリリアさんの手前言っただけで、俺は大人の階段を上ることになるのか? そうなのか?
期待に胸と股間が膨らみまくる。
こうして俺は、ドラゴンとの戦闘中にお風呂を覗いたことにより、フィオナさんのズッ友から彼ピ(仮)にクラスチェンジしたのだった。
インターミッション リリアの苦悩②
学校に向かう馬車に揺られながら、わたしは今日のことを思い返す。
具体的には、すぐそこで無様な寝顔を晒しているレオンさんに、お風呂を覗かれたことを。
暗かったからほとんど見えなかったとは思うが、思い出すだけで体が熱くなる。お風呂のすぐ横でたいまつが燃えていたので、もしレオンさんの視力が異常に良かった場合は、見えてしまっていた可能性がある。
それにしてもあの時は、ドラゴンが背後に迫っているレオンさんが一歩も動こうとしなくて、愕然とした。文字通り命がけで、わたしの裸を見ようとしていたのだから。
いくら何でも性欲が強すぎる。一歩間違えれば死んでいたというのに。
その後もわたしの裸が気になっていたようだから、思わず「ドラゴンを倒したら好きなだけ見せてあげます」と言ってしまった。レオンさんの命を守るために必死だったのだ。
レオンさんがドラゴンを引きつけて移動した後、勢いで大変なことを言ってしまったと、本気で悔やんだ。
でも、そのご褒美の効果もあったのか、レオンさんのドラゴンとの戦闘は見事だった。わたしもあんな闘いができたらと、羨ましく思う。
天がレオンさんにまともな人間性を与えなかったことが、悔やまれてならない。
だけど結局、ドラゴンは取り逃がしてしまった。そのおかげで裸を見せなくて良くなったので、喜び3、悔しさ7くらいの複雑な心境だった。
その後、レオンさんがフィオナさんの彼ピ(仮)という意味不明な存在になった。
フィオナさんはわたしに交際の許可を求めてきたが、そもそも教官にそんな権限はない。
それに、レオンさんがフィオナさんと男女の関係になり、モン娘に対する耐性ができることは、わたしにとって望ましいはず。
……でも、このモヤモヤする気持ちは、いったい何なのか……。