年下の女性教官に今日も叱っていただけた

第6話 女性教官に芸を仕込んでいただけた②

 思わず聞き返した俺に、リリアさんが説明する。

「レオンさんがスライムのモン娘の裸で毎回興奮するのは、人間の女性を知らないからというのが一番大きいと思います。下品な言い方になってしまいますが、何度か性交すれば、耐性ができる可能性が高いです」


「な、なるほど……。……なんか、女性を利用するみたいで、少し抵抗がありますね」

「好き同士なら問題ないでしょう。そもそも、打算が一切ない恋愛など、存在しないのですから」

「そうなんですか!?」

「当然です。パートナーが強ければ生存率が上がる。パートナーが裕福なら子どもをたくさん作れる。そういう計算をするのは人間の宿命なのです。なぜなら、わたしたちの遺伝子に組み込まれているのですから」


「……難しくて、正直よくわからないです」

「要するに、わたしたちは本能的に優れたパートナーを求めている。そしてレオンさんは強いし、顔も悪くないので、女性に好かれる可能性が高い。放っておけば、そのうち誰かと結ばれて女性に対する免疫ができるだろうというわけです」

「だといいんですが……」


「もしレオンさんの顔面が終わっているゴミだったら、童貞喪失の方法を考えなければならないところでしたがね」

「大人のお店に行くとか……?」

「そうですね。ただ、そういうお店での性交はリスクが高いので、あまりオススメはしません。惚れ込んだ女性を独占するために借金を重ねた人や、危険な薬草を勧められて人生が破滅した人を何人も知っていますし」

「怖い世界……」

「魔物と同じくらい、人間は恐ろしい生き物ですから。……なので、もしレオンさんがいつまでも童貞であれば、わたしの体を教材として差し出すことを検討する必要があると考えています」


 そう告げられた瞬間、世界が止まった気がした。

 思わず、リリアさんの下着姿を思い出す。

「マ、マジですか?」

「本気です」

「ひょっとして、これまでも生徒の筆下ろしをしてあげた経験が……?」

「そんなわけないでしょうが。……そこまでしようと考えたのは、レオンさんがずば抜けて優秀だからです」

 リリアさんは少し恥ずかしそうに言った。


「前にも言いましたが、あなたはいつか、魔王を倒せる逸材だと思っています。人類の悲願を達成するためなら、わたしの体くらい安いものです」

「いや、安くはないと思いますけど」

「魔王が放った魔物によって、毎日何人が死んでいると思うんですか。それらの命に比べたら、安いです」

 リリアさんはまっすぐに俺を見据え、話を続ける。


「……少し、昔話をさせてください。わたしは幼い頃に両親を魔物に殺されました。

 親がいなかったせいで、幼少期は苦労しました。毎日空腹でしたし、今生きているのが不思議なくらい劣悪な環境で育ちました。

 魔王と魔物を恨まない日はありません。何度、魔王をこの手で討ち取る夢を見たことか。

 自分で言うのも何ですが、わたしには類い希なる才能がありました。もし幼少期からちゃんとした教育を受け、ちゃんと栄養のあるものを食べていれば、勇者として大成していたかもしれません。

 ですが、今のわたしは教官止まり。成長期に栄養を取らなかったせいで身長が低く、筋肉量も少ないからです。

 わたしは自分の夢を、生徒たちに託しています。そしてレオンさんは、最も可能性がある。女性に対する免疫をつけるためだったら、少しくらい恥ずかしくても、我慢できます。それでわたしのような不幸な子どもを1人でも減らせるのなら」


「リリアさん……」

 話を聞き、俺はこれまで、自分のことしか考えていなかったと痛感した。

 それに、魔王討伐なんてスケールが大きすぎて、どうせ無理だろうと決めつけていた。

 でも、リリアさんは俺のことを信じてくれている。

 ならば、俺もリリアさんを信頼する努力をしなければ。


「――リリアさん。お願いがあります」

 そう呼びかけると、リリアさんは目を泳がせた。

 そしてたっぷり5秒ほど逡巡した後、ゆっくり口を開く。


「……なんですか」

「もう一度、俺に芸を仕込んでください」

「仕方ないで――はいっ?」

 了承しかけたリリアさんが、なぜか途中で聞き返してきた。


「えっ……お願いって、そっちですか?」

「ん? そっちって、他に何があるんですか?」

「わたしはてっきり……いえ、何でもないです」

 リリアさんは顔を真っ赤にし、下を向いて黙り込んでしまった。


「えっ、なんですか? 気になるから教えてください」

「黙りなさいゴミクズ。これ以上わたしの時間を無駄にするなら唇を縫い合わせますよ」

 突然リリアさんが早口で怒ってきた。

 この人が怒るポイントがわからない……。


「それで、なぜ芸を仕込まれたいと考えたんですか?」

「……リリアさんのことを、信じたいと思ったんです。それから、期待に応えるために、最大限の努力をしたいと」

 俺がそう答えると、リリアさんは満足げに笑った。


「レオンさんは終わっているゴミだと常々思っていますが、毎回最後の最後にちょっとだけ光る部分が見つかるんですよね」

「それ、褒めていますか?」

「どれだけポジティブだったら褒めていると誤解できるんですか。レオンさんの頭は本当におめでたいですね」


         S         S         S


 気持ちを新たにした俺は、リリアさんと共に第1アリーナに戻り、再びキマイラと対峙することになった。

 鉄柵を跳ね上げると、キマイラが進み出てきた。低い唸り声を発し、今にも俺に飛びかからんとしている。


「『抜刀』『前進』」

 命令を受けて刀を抜き、前方に鎮座するキマイラに向かって歩を進め始める。

 逃げてはダメだ。反応してはダメだ。恐怖を持ってはダメだ。

 自分の意志は持つな――

 やがて、キマイラの射程圏内に入った。


「『跳躍』『袈裟斬り』」

「うおおおお!」

 俺はリリアさんを信じ、地面を蹴りつつ刀を振り上げた。

 巨大な爪が眼前に迫る。だが恐怖は無視し、刀を振り下ろすことだけに集中する。

 今の俺は、与えられた命令を遂行するだけの憐れな人形なのだ。


「うらぁっ!!」

 斜めに斬り下ろした刹那、キマイラの顔面から鮮血が飛び散った。

 しかし、深手を負わせたものの、絶命させるには至っていない。


「『刺突』」

 追撃の命が下り、いったん刀を引いた後、一気に腕を伸ばした。

 俺の攻撃はキマイラの左目を捉え、そのまま深々と突き刺さる。

 数瞬後には切っ先が脳に到達したようで、キマイラの巨体が動かなくなり、ゆっくりと地に伏した。


「――リリアさん! やりましたよ!」

「……第1段階は突破、という感じですね」

 てっきり褒めてもらえると思ったのに、リリアさんは無表情で淡々と言った。


「喜ぶのは早いです。まだ命令への反応が遅く、頭で考えている感じがします。命令が鼓膜に届いた瞬間に体が自動で動くところまで、たっぷり芸を仕込まなければなりません」

 リリアさんは鞭を握りしめながら、薄く笑った。


         S         S         S


 その後、俺は闘技場でひたすら『投擲』や『伏せ』や『土下座』など、様々な命令を覚えさせられた。

 一部戦闘には関係ない命令もあったのだが、すぐさま指示に従わないと鞭で叩かれるので、訓練開始から3時間が経った頃には脊髄反射的に動けるようになっていた。

 要するに、自分で考えたら負けなのである。


「ここまで思い通りに動かせるなんて……レオンさんは本当に面白いオモチャですね」

 俺の動きが完璧になったところで、リリアさんが嘲笑してきた。


「『おすわり』『お手』」

 俺はすぐさま腰を落とし、リリアさんが差し出した手に右手を重ねた。


「『土下座』」

 リリアさんが言い終わる前に両手を揃えつつ正座。そのまま地面に額をこすりつけた。


「ふふっ。これならスライムのモン娘にも負けないでしょう。明日が楽しみです」

 小バカにされているだけかと思ったが、誇らしい気持ちもあるようだ。俺は少しだけ嬉しくなった。

 こうして、俺とリリアさんの信頼が深まったのだった。