年下の女性教官に今日も叱っていただけた2

第1話 美少女たちに一緒に遭難していただけた①

 男はなぜ、女性の裸を見たいと思うのだろうか?

 見たからといって、腹が膨れるわけでも、強くなれるわけでも、疲れが取れるわけでもない。むしろ疲れてしまう可能性まである。なのになぜか本能が求めてしまう。

 しかも、その欲求が尽きることはない。

 しかし、俺のように交際相手がいない男にとって、女性の裸は、そう簡単に見られるものではない。

 一応フィオナさんという美少女の彼ピ(仮)ということにはなっているが、体の関係になるのは簡単じゃなさそうだし……。


 だから俺は、このマグマのように燃え滾る欲望を、代用品でごまかすしかない。

 たとえば裸婦画だ。世の中には、かなり精密に描かれているものもあると聞く。

 だが俺にはそんなものを買う金はないし、どこで売っているのかもよくわからない。

 では、大人のお店に行くのはどうか。

 しばらく思案してみたものの、実行に移せそうにない。そういう場所はよくわからないし、なんか怖い。そもそもお金もない。

 しかも、お店の中には違法なところもあって、客として入っただけで捕まるという話を聞いたこともある。


 などと色々考えた結果、俺にとって一番簡単で身近な代用品は、モン娘ではないかという結論に達した。

 これは間違いなく合法だし、訓練にもなる。

 モン娘に見とれたせいで何度か死にかけたし、今後も殺されかける予感はあるが、きっとリリアさんが助けてくれるだろう。


 しかし、一つ大きな問題がある。闘うたびに俺を楽しませてくれたスライムさんは、先日急に翼を生やし、どこかへ飛び立ってしまったのだ。

 となると、他のモン娘を相手にするしかない。今日リリアさんに会ったら、次の訓練について質問してみるとしよう。

 もちろん、女性の裸が見たいという下心は隠した上で。


 ――朝6時半にベッドの中でそう決心した俺だったが、放課後まで待ちきれなくなった。そして悩んだ挙句、朝7時に教官室を訪ねてみることにした。

 ノックしてからドアを開けると、紺色を基調とした教官服に身を包んだリリアさんが立っていた。

 リリアさんがこちらを振り返り、長い銀髪が揺れる。ああ、今日もお美しい。

「――レオンさん。どんな下らない用事でここに来たんですか?」

 目が合ってすぐに嫌そうな顔をされた。

 我ながら、リリアさんからの信用がなさすぎる。

 だが、そういう扱いをされるのが心地よいと感じてしまう自分もいる。

 さて、どうしようか。この状況で次に闘うモン娘の話をしたら、下心を見抜かれてしまう気がするが……。


「とはいえ、ちょうど良いところに来てくれました。実は先ほど、ここから南方にある漁村にて、新種のモン娘が目撃されたという報告を受けたんです」

「新種ですか?」

 渡りに船とはこのことだ。もしかすると神様が、俺のエロい気持ちを応援してくれているのかもしれない。


「具体的にどんなモン娘なんですか?」

「目撃者は海辺で釣りをしていた男性だったんですが、『スライムのモン娘が、青いドレスの一部を翼に変形させて飛んでいくのを見た』とのことです」

「えっ! それって、スライムさんっぽくないですか?」

「というか、あのスライムとしか考えられません。レオンさん以外にスライムのモン娘に連敗して経験値を与えてしまう愚か者がいるとは思えませんから」

「で、ですよね……。それで、スライムさんは今その漁村に?」

「いいえ、少し離れた島に降り立ったようです」

「そうなんですか」


「野放しにしておけません。小舟を手配しましたので、今から討伐に向かいましょう」

「えっ、今すぐですか?」

「当然です。もしあのスライムが何らかの被害を出した場合、わたしたちの責任ということになってしまうのですから」

「それはそうですね……。でも、今日の授業はどうするんですか?」

「掲示板に臨時休校という知らせを出しておきました。わたしが戻ってくるまでは各自自習を――」

「リリアせんせー!」

 突如として教官室のドアが開き、室内に明るい声が響き渡った。

 その声の主はフィオナさんだった。長いピンク髪の美少女で、制服を着崩して肩が露出している。


「……フィオナさん。教官室に入る時はまずノックをしてください」

「あ、ごめんごめん。でさ、臨時休校ってことは、また討伐依頼が来たの?」

 フィオナさんは適当に謝りつつ、砕けた口調で質問した。

 2人は教官と生徒という関係性なのだが、フィオナさんが敬語を使っているところは見たことがない。


「いえ、依頼が来たわけではありません。先日レオンさんが逃がしてしまった魔物が目撃されたので、討伐しに行くんです」

「レオンっちが逃がした?」

「俺1人が悪いわけでもないと思うんですが……」

 控えめに自己主張した後、事情を説明し始める。


「俺はモン娘が苦手で、訓練用のスライムのモン娘と闘っていたことは前に話しましたよね? 俺が連敗しまくったせいで、そのモン娘はかなりレベルアップして、飛行能力を持ってしまったんです」

「えっ!? つまり空飛ぶスライムってこと!? 何それ超見たい!! 写真撮りたい!!」

 フィオナさんは目を輝かせながら、リリアさんに迫っていった。

 一方、リリアさんは嘆息して答える。

「一緒に来てもいいですよ。手配した舟は4人まで乗れるはずですし」

「やったー!」


「リリアさん、やけにすんなり受け入れましたね」

「実は、少し事情があるんです。スライムのモン娘が目撃された漁村の近海では、ここ数年クラーケンが目撃されていまして」

「クラーケンって、巨大なイカっぽい怪物ですよね?」

「そうです。体長は様々ですが、中には優に30メートルを超えていて、舟を握り潰せるものもいるのだとか。そのせいで漁師が漁に出られず、困っているそうです」

「つまり、クラーケンに遭遇した場合に備えて、戦闘員を確保しておきたいってことですか」

「はい。漕ぎ手を雇おうとしたんですが、クラーケンを恐れて断られてしまったので、舟は自分たちで漕がなければなりませんし」

「何それ楽しそ~! クラーケンも超見たい!」

 漕ぎ手として労働させられる上、巨大な怪物と遭遇するかもしれないという話なのに、フィオナさんはこの上なく前向きだった。


「それでは、フィオナさんも準備してきてください。クラーケンと闘う際に海に入るかもしれないので、水中戦用の装備を持ってくるように」

 ――っ!!

 水中戦用の装備だと……!!

「もしや2人とも、水着鎧を装備するってことですか?」

「そういうことです」

「よしっ!」

「レオンさんは本当、単純というか、欲望に忠実というか……」


 またしてもリリアさんに呆れられてしまったが、今から信頼回復するのは不可能だと思うので、気にするのはやめる。

「ところでリリアさん。手配した舟は4人まで乗れるんですよね? それなら、シエラさんも誘ってみませんか?」

「却下」

「なんでですか! 戦闘員も漕ぎ手も、多い方がいいじゃないですか!」

「まったくもってその通りなんですが、シエラさんが加わるとレオンさんがさらに喜びそうなので、嫌です」

「俺に意地悪するために3人で行って、全滅したら責任を取れるんですか?」

「水着鎧姿を見たいだけなのに正論を言わないでください。……仕方ないですね。シエラさんも誘ってみてください」

「行ってきます!」


 すぐさま教官室を飛び出した俺は、シエラさんを捜し求めて、学校中を走り回ることになった。

 教室、女子寮、食堂などをしらみつぶしに捜して回った結果、闘技場でシエラさんを発見した。

 制服姿のシエラさんが、砂が敷き詰められた第1アリーナで、3体のゴブリンに囲まれていた。友人たちが見守る中、実践訓練しているようだ。


 ゴブリンたちは棍棒を振り上げ、シエラさんを目掛けて一斉に飛びかかる。

「――ハァッ!!」

 剣を正眼に構えていたシエラさんは、鋭いかけ声と共に素早く前進。飛び上がったゴブリン1体の喉元を正確に貫いた。

 すぐに剣を振り抜き、金色に輝く長い髪と共に体を反転させ、次のターゲットを真っ直ぐに見据える。

「ヤァッ!!」

 2体目のゴブリンも一撃で斬り捨てたのだが、最後の1体の棍棒が眼前に迫っている。

「――クッ!!」

 ゴブリンが振り下ろした棍棒が、シエラさんの左肩を強かに打った。

 しかしシエラさんは動じず、血に塗れた剣を水平に薙ぐ。

「ぐえぇぇっ!」

 ゴブリンは汚い断末魔の叫びを上げ、絶命した。


「――ありがとうございました!」

 シエラさんは納剣した後、目を瞑って両手を合わせ、ゴブリンたちの死体に向かって頭を下げた。

 思わず見惚れてしまう所作だった。

 黙祷が終わったところを見計らって、シエラさんに近づいていく。

「あら、レオンちゃん」

「シエラさん、ゴブリンに殴られた左肩、大丈夫ですか?」

「もちろん!『母は強し』です!」

 シエラさんの強さの秘密は、ねつ造されたものだった。


 思い込みってすごいなと思っていると、シエラさんの友人3人が近づいてきた。

「やったねシエラ! まさかもう、ゴブリン3体を単独討伐できるようになるなんて!」

「シエラってここ最近、気合いの入り方がすごいよね」

「そうそう。レオンさんを赤ちゃんにした頃からかな」

 3人から賞賛されたシエラさんは、自信満々に大きな胸を張る。

「私はシングルマザーとして、1人でレオンちゃんを育て上げないといけないからね! 早くこの学校を卒業して、たくさん稼げるようになってみせるから!」

「……あ、ありがとうございます……」

 シエラさんは俺を育てるという、謎のモチベーションで頑張っていた。

 勇者ってそういう動機で目指すものなのか……?


         S         S         S