年下の女性教官に今日も叱っていただけた2

第1話 美少女たちに一緒に遭難していただけた②

 当然のように、シエラさんはスライムさん討伐への同行を快諾してくれた。

 準備を整えた後、俺たち4人は馬車に揺られ、勇者訓練校からだいぶ南方にある漁村にやって来た。


「海だ~! めっちゃキレ~!」

 目を輝かせたフィオナさんが馬車から飛び出していった。

 フィオナさんは海辺で写真機を構え、太陽を反射してキラキラ輝く水面や、上空を優雅に旋回する鳥たちを撮影している。


「フィオナさん。観光に来たんじゃないですよ」

 リリアさんは一喝した後、どこかに向かって歩き出した。フィオナさんは「は~い」と適当な返事をし、走って付いていく。

 やがてたどり着いた船着場には、リリアさんが手配した小舟と、漁に使う道具などがしまってあるボロ小屋があった。この小屋は自由に使っていいらしく、中で水着鎧に着替えたら、すぐさま出航するそうだ。


 この小舟で、水着鎧の美少女たちとクルージング……。改めて、なんと素晴らしいシチュエーションなのだろうかと思う。逃げ去ったスライムさんに感謝である。

 こっそりニヤニヤしている俺をその場に残し、リリアさんたち3人はボロ小屋に入っていった。

 今からこの中で3人が全裸になるのだと考えると興奮する。

 俺は小屋の周囲を何度も回り、どこかの壁に穴が開いていないかを念入りにチェックした。

 頼む……! どんな小さな穴でもいいんだ……! もういっそ、刀で穴を開けてしまおうか……!


 だがボロ小屋の壁に穴は開いておらず、着替えを覗けないまま、3人が小屋から出てきてしまった。

 慌ててドアの前に移動したのだが、なぜか3人は、小屋に入った時とまったく同じ服装だった。

 水着鎧姿が見られると期待していたのに、いったいなぜ……!

「舟に乗っている間ずっとレオンさんが視姦してくると予想されたので、水着鎧は服の中に着込むことにしました」

 リリアさんが勝ち誇ったように宣言した。肩を落とした俺を見て、してやったりと言いたげである。


「し、視姦なんてしませんよ……!」

 一応反論してみたが、我ながら説得力がなさ過ぎる。実際はリリアさんたちを順番にガン見していただろうし――

「見て見てレオンっち! ほらっ!」

 フィオナさんが突然、制服のスカートをめくり上げた。

 その下には当然水着鎧を装着していたのだが、隠されている面積は下着とほぼ変わらず、ふとももの付け根付近まで見えている。


 俺は反射的に、数日前に2人で迷宮に入った際、フィオナさんのアソコを見てしまったことを思い出した。

 あの時もフィオナさんはスカートをたくし上げていて、今よりもっと凄いものが……。

「ちょっ! ガン見しすぎだから!」

 フィオナさんはすぐさまスカートを元に戻し、照れたように下腹部を押さえた。


「無言で見つめんなし! もっと普通に照れるとか、歓声上げるとかってリアクションしろよ!」

「す、すみません……」

 思わず前屈みになりながら謝罪した。

 そんな俺たちを、リリアさんが冷ややかに睨みつけてくる。

「レオンさん、遊んでないで早く水着鎧に着替えてください」

 そう指摘され、俺はハッとした。


「……すみません。水中用の装備を持ってきませんでした」

「――はいっ? わたし学校で、準備するように言いましたよね?」

「完全に忘れていました。3人の水着鎧姿が見られることで頭がいっぱいで……」

「クラーケンに海中に引きずり込まれて無惨に捕食されればいいのに」

「恐ろしいことを言わないでください」

「で、どうするんですか? まさか全裸で闘うと?」

「制服の上だけ脱いだらいけるんじゃないですかね?」

「勝手にしてください。溺れても知りませんから」

「心配無用です。勇者訓練校に入る前は、よく服を着たまま川に突き落とされていたので、着衣水泳は得意ですから」

「サラッと悲しい過去を告白しないでください」


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 その後、俺は上半身裸になり、リリアさんが手配していた木造の小舟に乗り込んだ。

 2組のオールを使って、2人1組が交代で漕いで目的地を目指す。

 まずは俺とシエラさんが漕ぐことになった。


「レオンちゃんは赤ちゃんだから、ママが2人分漕いであげるからね!」

「シエラさん、今そういうのはいいので、真面目にやってください」

 リリアさんは注意した後、フィオナさんの方に向き直った。

「接近してくる魔物がいないか、漕いでいない2人は常に海中を警戒することにしましょう」

「りょうか〜い」


「レオンさん、シエラさん。万一に備えて、なるべく陸の近くを進むようにしてください。とはいえ座礁する危険もありますので、あまり近づきすぎないように」

「難しい注文ですが、善処します」

 俺はオールを動かしながら答えた。前の組織にいた頃、何度も舟を漕がされたので、ある程度は心得がある。

「何事もなく島にたどり着ければいいんですが……」

 リリアさんは周囲を睨みつけながらつぶやいた。


「でもさ、海で魔物と闘わなかったら、中に水着鎧着た意味なくない?」

「意味がないということはないです。服を脱がずに済みますしね」

 リリアさんが事もなげに言ったのを聞き、俺は祈った。

 頼むクラーケン、絶対にこの舟を襲ってくれ。

 などと不謹慎なことを考えていると、海中に巨大な影が現れた。


「――注意してください!」

 リリアさんが注意喚起した直後、海中から白い魔物が姿を現した。

 それは巨大なイカだった。前情報で聞いていたクラーケンである。神様が俺の願いを叶えてしまったのだ。

 ただし、クラーケンの大きさは、俺が思い描いていた倍以上だった。こんな小舟なんか簡単に握り潰せそうなサイズである。


「皆さん! 撃退しますよ!」

 リリアさんの掛け声を受け、俺はオールを置いて立ち上がり、臨戦態勢になった。

 女性陣は手早く服を脱ぎ捨て、水着鎧姿になって剣を構える。

 俺は3人の艶姿をチラチラ盗み見つつ、前方から舟に迫り来るクラーケンの触手を次々に切断する。


 ――4人がかりなら、何とかしのげそうだな。

 最初はそんな目算をしたのだが、触手1本1本が数メートルの長さがあり、斬っても斬っても終わらない。

 しかも少し掴まれただけで、舟の一部が大きく軋む。少しでも対処が遅れれば、大穴を開けられそうだ。


「――面倒くせぇ!」

 俺は船頭を蹴り、クラーケン本体を目掛けて跳躍。海面から出ている両目を目掛け、刀を水平に薙いだ。

 クラーケンは大きく身を震わせ、舟から触手を放して海底に逃げていった。俺はしばらく立ち泳ぎしていたが、戻ってくる様子はなかった。

 後に残ったのは舟に引っ付いた無数の触手と、水着鎧姿になった美少女たちだった。

 さて、舟に戻って、たっぷり鑑賞させてもらうとしよう――


 などと不謹慎なことを考えた直後、背後の海面が急に盛り上がった。

 邪悪な気配を感じて振り返ると、そこには新たなクラーケンが出現していた。

 しかも、2体同時に。

 あまりのことに、4人全員の動きが止まる。


 これは――終わった感がある。

「舟を捨てます! 全員、海中に退避!」

 リリアさんが叫んだ刹那、クラーケンたちが一斉に舟に襲いかかった。四方八方から触手が伸びてきて舟を搦め捕り、力尽くで沈めようとしてきたのだ。

 リリアさんとシエラさんは武器だけを持って、海に飛び込んだ。

 しかしフィオナさんは舟に残って写真機で連写している。

 クラーケンの力は凄まじく、すぐに舟の一部が砕け、中に海水がなだれ込み始めた。


「フィオナさん! 何してるんですか!」

「さーせん! 今逃げます!」

 さすがに限界だと感じたらしく、フィオナさんは防水の袋に写真機をしまって、海に飛び込んだ。

 直後、轟音と共に舟が破壊された。間一髪で難を逃れたのだ。

 とはいえ、まだ安心はできない。一刻も早く、一番近い島に上陸しなければ。


 2体のクラーケンは舟の残骸を奪い合っている。中には食料が置きっ放しなので、それを狙っているのかもしれない。

 とはいえ、俺たちが狙われるのは時間の問題だろう。

 しかし、一番近くにある島までは、少なく見積もっても200メートルはある。武器を所持したまま泳いで逃げて、クラーケンたちから逃げ切れる気がしないが――

「超ヤバい! ウチあんま速く泳げないんだけど!」

 フィオナさんが必死に水をかきつつ、悲鳴を上げた。

 これは彼ピ(仮)として、看過できない事態だ。


 というわけで俺は、遠泳よりも勝率の高い勝負を挑むことにした。

「リリアさん! あのデカいイカ、ちょっと刺し身にしてきます!」

 宣言した直後、舟の残骸に夢中のクラーケンに背後から斬りかかった。

「レオンさん!?」

 リリアさんは俺の判断に驚いたようだが、すぐに意を汲んでくれたようで、こちらに向かって泳ぎ出した。

 俺はクラーケンを輪切りにするべく、胴体を何度も斬りつける。触手が何本も纏わりついてくるが、力尽くで攻撃を続ける。


 やがて片方のクラーケンの動きが鈍ってきた。

 続いてもう1体も相手しなければならないが、無数の触手が俺の全身に絡みついており、かなり動きを制限されている。

「――せいっ!」

 さすがにヤバいと思っていると、リリアさんがクラーケンを刺突した。

 さらにシエラさんとフィオナさんもクラーケンの巨体にしがみつき、剣を振るっている。


「このイカ! レオンちゃんを離しなさい!」

「超ムカつく! コイツのせいで写真機が壊れそうなんだけど! でも舟をぶっ壊してるところは超迫力あったから、たぶんいい写真撮れた!」

「フィオナさん! 襲われている最中に写真を撮らないでください!」

「ごめんねリリアせんせー! でも無事だったから結果オーライっしょ!」

「あなたという人は……!!」

 リリアさんは説教を開始したそうだったが、そんな場合ではないと考えたのだろう。クラーケンに怒りをぶつけるかのように、無言で何度も剣を振るっている。


 3人の奮闘により、クラーケンの抵抗がだいぶ弱まった。おかげで触手を引き剥がす余裕ができ、かなり体が軽くなった。

「だああああっ!!」

 俺は渾身の力で刀を振り下ろし、クラーケンの胴体を切断した。

 クラーケンは2体とも力を失い、海底に沈んでいった。


「やったねレオンっち! てかさ、クラーケンを倒そうとしたのって、もしかしてウチが泳ぎ苦手だから?」

「一応そうです」

「超うれしい! ありがとねレオンっち!」

 フィオナさんは喜びを爆発させ、今にも抱き着いてきそうなテンションだった。

「――フィオナさん、喜ぶのは後にしましょう。他の魔物と遭遇する前に、島に上陸しなければなりません」

 リリアさんが冷静に言い、喜びに水を差した。

 しかし、それはこの上なく正論である。俺たちは武器を落とさぬように体に固定した後、陸地に向かって泳ぎ始めた。


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