年下の女性教官に今日も叱っていただけた2

第2話 美少女たちと一緒に牢屋に入れていただけた②

 リリアさんはエヴァンジェシカさんの方に向き直り、睨みつける。

「とにかく、いくら言われようとも、わたしたちはこの島から出ていきます」

「それは困るわ。さっきも言ったけど、この島の人口は少し前に激減してしまったの。存続するためには、外部の人間を取り込むしかないのよ」

「存続できないなら、全員で島を出ればいいじゃないですか」

「ワタシたちはこの島を愛しているの。捨てて出ていくなんて考えられないわ」

「そのために、わたしたちに犠牲になれと?」

「快適な生活は保障します。もっとも、石コロは男だから、島の外より少しだけ暮らしづらいかもしれないけど」

「石コロのことはどうでもいいですが、わたしは縛り付けられるのが嫌なんです」

 2人とも、俺の扱いが雑である。


「やれやれ、リリアは強情ね。シエラはどうなの? ずっとこの狭い牢屋で暮らしたい?」

「私のことはどうでもいいので、レオンちゃんに酷いことをするのはやめてほしいです。まだ赤ちゃんなんですから」

「話が通じないわね!!」

 エヴァンジェシカさんが怒鳴った。

 たぶんシエラさんは、反抗的なリリアさんより厄介だと思われている気がする。


「もういいわ。アナタたちは一晩ここで過ごしなさい」

 エヴァンジェシカさんはそう言い捨て、洞窟から出ていってしまった。

 牢屋内が静寂に包まれる。

「ちなみに、この鉄格子が壊せないかは試してみましたか?」

 俺が質問すると、リリアさんは肩をすくめた。


「当然です。わたしの腕力ではビクともしませんでした。足枷に付いている鉄球をぶつけ続ければいつか壊せるかもしれませんが、脱獄しようとしていることが音でバレるでしょうしね」

「なるほど……」

 一応俺も鉄格子を掴んで力を込めてみたが、ほんの少し歪むだけで、引きちぎるのは絶対に不可能そうだ。


「となると、エヴァンジェシカさんに出してもらうか、こっそり鍵を手に入れるしかなさそうですね」

 何とかフィオナさんと連絡が取れればいいんだが……。

「……それでは、今後について考えるとしましょう。今のわたしたちに一番必要なものは、当然ながら牢屋と足枷の鍵です。

 次に情報です。勇者訓練校に戻るために舟が必要なのか、それとも徒歩で戻れるのかを調査しなければなりません」


「あの……リリアさん。そのためにも、いったんこの島の風習に納得したことにして、ここから出してもらいませんか?」

「わたしに嘘をつけと?」

「嘘も方便ですよ」

 俺がそう言うと、リリアさんは押し黙った。


「……仕方ないですね。演技だとバレるかもしれませんが、改心したふりをしてみます」

「よろしくお願いします」

「とはいえ、いきなり改心したと言っても不審がられるのでは?」

「じゃあ、一晩ここで過ごして、考えが変わったということにしてはどうでしょうか? このまま牢屋で過ごすくらいなら、島民になっていい暮らしがしたいと思った、みたいな」

「……わかりました」


 こうして俺は、水着鎧姿の2人と、狭い部屋で一晩一緒に過ごすことになった。

 まずは食事を済ませることになり、3人で分け合って食べる。

「ちなみになんですけど、トイレってどうすればいいんですか?」

 ふと疑問に思った俺が質問した瞬間、リリアさんの表情が凍り付いた。

 そして、牢屋の隅にポツンと置かれている赤褐色の壺を指差した。おそらく陶器で、大きさは成人男性の頭くらいだろうか。


「……そこにある壺を使うように言われました。その時はわたしとシエラさんだけだからと思いましたが……」

「な、なるほど」

「今、不適切なことを考えましたね?」

 ウジ虫でも見るような冷たい視線を向けられた。

 顔に出ないようにしたかったのだが、頬が緩むのを食い止められなかったのだ。


「でも、俺たち3人が牢屋に留まることになったのは、リリアさんが反抗したせいじゃないですか……!!」

「……たしかにそうですね。わかりました、わたしも覚悟を決めます」

「ゴクリ……!!」

「もしトイレを使いたくなったら、石コロの目を潰します」

「俺を犠牲にする覚悟!?」

「あと音も聞かれたくないので、鼓膜を破こうと思います」

「それだと臭いがわかってしまいますけど、大丈夫ですか? 鼻も一緒に潰した方がいいのでは?」

「情景をリアルに想像したとしか考えられない反応をしないでください。気色悪すぎて鳥肌が立ちました」

「す、すみません……」


「そういえば、この島の女尊男卑って、どのレベルなんですかね? 女性が男を殺しても許されるのでしょうか?」

「さっきまで批判していた島の風習を利用しようとしないでください」

 お願いしつつ、俺は考える。まさかこの状況で、本当に俺を殺そうとしたり、目を潰したりすることはないだろう。……たぶん。

 ということは遅かれ早かれ、リリアさんとシエラさんのものすごい姿を目の当たりにできるわけで……!!


「差し当たって、わたしたちにできることはなさそうです。ここから出ることができた時に備え、睡眠を取って体力回復に努めることにしましょう」

 リリアさんからそう提案され、俺たちは川の字になって眠ることになった。俺が鉄格子側で、真ん中がシエラさん、一番奥がリリアさんである。


 一応は目を瞑ってみるが、すぐ横に水着鎧姿の美少女がいる状況で眠れるわけがない。こんなチャンスは二度とないかもしれないんだし、いったん寝たふりをして、しばらくしたら2人の寝姿を盗み見ることにしよう。

 だが、10分ほど経ってこっそり上半身を起こすと、リリアさんが素早く起き上がった。

 すやすやと眠るシエラさんの向こうに、鬼の形相でこちらを睨みつけるリリアさんがいる。


「――おい、石コロ」

「な、なんでしょうか?」

「わたしたちが寝静まったところで何をするつもりだったんですか?」

 疑われまくっていた。明らかに俺がしようと思っていた以上のことを目論んでいたと勘違いされている。

 しかし、前科がありすぎて弁明できる気がしない。


「ち、違うんです。ただ寝姿を拝ませてもらおうと思っただけで、2人の体に指一本触れるつもりは毛頭なくてですね……!!」

「でも出来心で触るかもしれませんよね?」

「その可能性は限りなくゼロに等しいです!!」

「本当ですか? わたしもシエラさんも、普段とは違う水着鎧姿ですよ? しかも寝入っていて、ちょっとくらい触ってもバレません。本当に自分の欲望を律することができると言い切れますか?」

「そう言われるとちょっと自信が……って、なんで俺を性犯罪者に仕立て上げようとしてくるんですか!?」

「普段の行いが悪すぎるからです」

「それは自覚していますけど……」

 素直に認めると、リリアさんは嘆息した。

「石コロには、最初からこう命令するべきでした。――『寝ろ』」


         S         S         S


 どこからか水音が聞こえてきて、俺の意識は覚醒した。

 目を開けると、洞窟内は夕日に照らされ、真っ赤に染まっていた。リリアさんに眠らされてから、どのくらい時間が経ったのだろうか。


 何も考えずに起き上がると、リリアさんが牢屋の隅でオシッコをしていた。


 熟睡しているシエラさんの向こうで、水着鎧の下を外したリリアさんが、陶器の壺を下腹部に当てていたのだ。

 衝撃的すぎて、これが現実だとは思えなかった。