年下の女性教官に今日も叱っていただけた2

第5話 クラスメイトに母性を爆発させていただけた①

 俺は洞窟の入口付近で仰向けになり、鉄格子越しにリリアさんたち3人を眺めながら、朝を待つことになった。

 たいまつに照らされた天井を見ながら、果たしてエヴァンジェシカさんがどんな決断を下すのかを想像する。明日から俺はどこかに閉じ込められるのか、それとも許してもらえるのか……。


 などと考えても仕方がないので、フィオナさんの入浴シーンや、エヴァンジェシカさんの裸を思い返す。

 本当に素晴らしい1日だったと、心の底から思う。仮に今日死んだとしても悔いはない。

 ――と、そこで、誰かの足音が近づいてくるのが聞こえた。

 入口に注目していると、エヴァンジェシカさんが姿を現した。1人だけのようだ。

 右手にはたいまつが、左手には石の棍棒が握られている。


「これから石コロをなぶり殺しにするわ」

 開口一番そう宣言したエヴァンジェシカさんの目は据わっていた。比喩ではなく、本気で息の根を止めるつもりだ。

 ごめんなさい神様。ついさっき考えた『仮に今日死んだとしても悔いはない』というのは大嘘です。本当は童貞のまま死にたくないです。


「ちょっと待ってください。俺をどうするかは、明日の朝まで考えてみるって言っていましたよね?」

「それはエルミノーラたちを遠ざけるために言った嘘よ。殺してしまえば、『有能な駒になる』なんて馬鹿馬鹿しいことを言わなくなるでしょ?」

 エヴァンジェシカさんはたいまつを床に置き、続ける。


「頭を潰すのは最後よ。まずは手足を先端から順番に潰していくの。――それとも、最初は股間がいいかしら?」

 エヴァンジェシカさんは右手で石の棍棒を握り締め、地面に這いつくばる俺の全身を品定めするように見回す。

「石コロ、どこを潰されるのが一番嫌? どうやったら一番苦しんでくれるの?」

 その一挙手一投足から殺意を感じる。もはや説得するのは不可能だろう。

 何とか手錠を外そうとするが、キツくしまっており、どうしようもない。しかも手錠は鎖で背中側に固定されており、抵抗するのは難しいだろう。

 畜生……!! 下着姿のエルミノーラさんたちに魅了されなければ、こんなことには……!!


「――待ってください。レオンさんはわたしの操り人形です。廃棄されるのを黙って見ているわけにはいきません」

 リリアさんが鉄格子の向こうで鋭く言った。

「わたしたちへの要求があれば、可能な限り聞きます。だからレオンさんを殺さないでください。その人はいつか魔王を倒せるかもしれない逸材なんです」

「リリアさん……!!」


「ハッ! 魔王なんてどうでもいいのよ! それともリリア、石コロを助ける代わりに、島中の男の相手をして毎年子どもを産めって言われたら産むの?」

「やります!」

 リリアさんは即答した。

 その表情には、一片の迷いもない。


「この島の発展に必要だというなら従います! だからどうか、レオンさんを殺すというのは思い止まってください!」

 この説得を聞き、俺は泣きそうになった。リリアさんが俺のために、そこまでしてくれるなんて……!!

 しかし、エヴァンジェシカさんは興味なさそうに鼻を鳴らす。

「ふん、断るわ。ワタシにとって島の発展なんかどうでもいいの。そんなことより、石コロに惨たらしく死んでほしいのよ」


 エヴァンジェシカさんは冷たく言い放ち、両手で石の棍棒を握り締める。

「さぁ、悲痛な叫びを上げてちょうだい!」

 石の棍棒が天高く掲げられる。

 もう、ダメだ……!!


「――レオンちゃんっ!!」


 突然、シエラさんが地の底から生じたような雄叫びを上げた。

 そちらに視線を送った刹那、俺は信じられないものを目撃した。


 シエラさんが両手で鉄格子を掴んだかと思うと、圧倒的な腕力で変形させたのだ。

 死を目前にした脳が見せた都合のいい幻覚かと思ったが、違った。鉄格子は間違いなく歪み、その隙間からシエラさんが飛び出してきたのだから。


 シエラさんはそのままこちらに突進してきて、俺の体を抱え上げた。

「――嘘でしょ!? 鉄格子を素手で曲げたっていうの!?」

 驚愕するエヴァンジェシカさん。それにシエラさんが答える。


「ママっていうのは、赤ちゃんのためなら本来の何百倍ものパワーを出せるものなのよ!」


 ――シエラさん!!

 いや、ママ!!


「そ、そんなバカなことが……!!」

「リリア先生。私はこのまま、レオンちゃんを抱えて逃げます」

「ええ。わたしたちもすぐに追いかけます」

 見れば、リリアさんたちも鉄格子の隙間から外に出てこようとしている。


 エヴァンジェシカさんは、俺たちとリリアさん、どっちに対処すべきかを決めかねているようだ。

 直後、シエラさんは俺を抱えたまま洞窟の外に向かって走り出した。

 外に見張りは1人もいなかった。シエラさんは急斜面を駆け下り、背が高い木々の間をすり抜けるように走り続ける。


 やがて洞穴を見つけ、その中に俺をゆっくり下ろした。

「――ここまで来れば、大丈夫でしょう」

 月明かりがかすかに差し込む森の中で、シエラさんが微笑んだ。

 かと思うと、俺の両手を背中に固定している器具に掴みかかる。

「ふ~んっ! ふんぬぅぅっ! ……ダメ。この鎖は壊せそうにない」

 何度か引っ張った後、シエラさんは諦めるように言った。


「さっき鉄格子を曲げられたのは、火事場の馬鹿力ってヤツだったみたい。ごめんね」

「い、いえ。ここまで運んでもらっただけで十分ですよ。まさかあの鉄格子を素手で曲げられるとは思いませんでした」

「私もビックリしたよ。あの時はママが覚醒したのかな?」

「そんな力が……」

 とはいえ、本当に覚醒したとしか考えられない状況ではあった。


「リリア先生とフィオナさんは脱出できたかな……」

 俺の正面に腰を下ろしたシエラさんが、心配そうにつぶやいた。

「わかりません。様子を見に行くと捕まるかもしれませんし、下手に動けないですよね……」

「ひとまず今日はもう寝ようか。明日になったらリリア先生たちを捜しつつ、手錠と足枷を何とかできないか考えよう。あとは食料も調達しないといけないね」

 こうして、俺たちは洞穴で並んで眠ることになった。

 しかし、本気で死を覚悟した影響か、ぜんぜん眠れる気がしない。


 それから30分以上経ったところで、俺は尿意を覚え、自力で起き上がった。

 だが、洞穴から出ていこうとしたところで、シエラさんが起き上がった。

「もしかして、トイレに行きたいの?」

「えっ、なんでわかったんですか?」

「ママは全部お見通しなんだよ」

 シエラさんは得意げに笑った。


「手錠された状態で、どうやって下着を下ろすつもりなの?」

「それは……気合いで……」

「大丈夫。ママに任せて」

「…………」

 遠慮しようにも、他にパンツを下ろす手段が思いつかない。それに、シエラさんには前にもオシッコを手伝ってもらっているし……。

 俺は諦めの境地になり、シエラさんに同行してもらうことを決めた。