男女の友情は成立する?夏目咲良の青春疑似録
Ⅱ 犬塚雲雀は求愛する葦である ⑥
咲良の手をガシッと握ると、興奮に頬を染めながらずずいと迫ってくる。
「この学校、演劇部なんてあったんだ~っ! すご~い、知らなかった~っ!」
「そ、そうね。まだ創部したばかりだし、部員は二年生ばかりよ」
「やりたあ~い! 咲良ちゃん、誘ってくれて嬉しいかも~っ!」
「そ、そう。それはよかったわ……」
昨日の弥太郎たちとの会話は何なのだ……というほどの食いつきっぷりであった。
やはり変に尻込みせずに、普通に誘ってしまえばよかったではないか。
(てか、一気に距離感が近くなったわね。咲良ちゃんて……)
あまりに容易くミッションは完了してしまった。
……それで気が緩んだのがよくなかった。
「まあ、私は正式な部員ってわけじゃないんだけど。部長は進学クラスの犬塚くんだから、詳しい話はそっちに……」
――と、つい雲雀の名前を出してしまった瞬間。
「…………」
「とりあえず放課後……ん?」
なぜか紅葉の返事がなくなったと思って、振り返ると……。
「……っ!? ど、どうしたの?」
紅葉の笑顔が、ものすごく引きつっていた。
先ほどまで後光のように降り注いでいた陽キャオーラは鳴りを潜め、瞳からは生気が失われている。
咲良が言葉をかけると、ビクッとして乾いた笑い声を漏らした。
「あ、あはは。えっと……わたし、やっぱりやめとこうかな~って……」
「え? あ、演劇部に入るの?」
「うん……せっかく誘ってくれたのにごめんね~……」
「……う、ううん。大丈夫」
そして幽霊のように、すすすと教室へと戻っていった。
それを見送って……咲良は自分の失敗を悟る。
(あいつ、何をやらかしたの……?)
そこでようやく……。
咲良はこのミッションが、一筋縄ではいかないことを悟るのであった。



