バッカーノ! The Rolling Bootlegs
『1日目』 ③
少年がどうやってこいつを追っ払おうかと考えていると、再び自分を呼ぶ声が。エドワードの時とは正反対の、優しく、落ちついた声。
「フィーロ、こんな所にいたんですか」
先ほどエドワードが現れた場所、大通りとの境目に立っていたのは、
「ここの
何が
しかしその笑い顔が見えると、入れ替わりにエドワードの
「お前は……」
「マイザーさん! あ…すみません、ちょっとゴタゴタに巻き込まれてしまったもので…」
フィーロの態度が、警部補であるエドワードに対する時と正反対のものとなる。
一方エドワードは
「マイザー・アヴァーロ……これはこれは、『マルティージョ・ファミリー』の『
緊張を含んだエドワードの声に対し、マイザーは気の抜けるような笑顔で
「えーと……あぁ、エドワード警部補殿ではありませんか。今日はまた一段と
明らかに不機嫌な男に対して随分と
「……ふん…
「いえいえ。今のうちでないと『警部補殿』とは言えませんからね」
「……?」
「来週頃からは、エドワード『捜査官殿』になるらしいじゃないですか」
それを聞いた警部補の目は大きく見開かれ、数回口をぱくつかせた後に返事を返す。
「な…んのことだ…」
「おや、私の
エドワードの目が
若い警部補は情報の
「…ともあれだフィーロ、よく覚えておけ。今更お前が誰かに金を恵んだところで、周りには
突然話を振られたフィーロは、一瞬
「知るか。ポーズだろうが自己満足だろうが、
「お前の
「…そういう意味では、共同募金とか慈善団体への寄付ってえのは良くできたシステムだよな。どんな金が誰の元に回ったのか、確認しようがない」
フィーロは、『汚れた金』という部分を特に否定しなかった。
「もっとも、普段は寄付なんかしないがな」
「またそれか……今日はお前にとって何だってんだ?」
エドワードが尋ねたところで、マイザーが割って入った。
「フィーロ、そろそろ行きましょう。…もうよろしいですかね、警部補殿?」
「……あ、ああ……」
「あ…すいませんマイザーさん、お待たせしちゃって」
その場を去ろうとする二人の背を見て、若い警部補は考えた。
組織の有能な若者と、幹部の上役の一人。特別な日。
ある事を思いつき、少年の背中に声をかけた。
「フィーロ、お前まさか……」
少年の歩みが止まる。背は向こう…大通りの方に向けたままだ。
「…まさか…幹部か? …昇進するのか? 『
自分もこの町に住んで長い。フィーロが『組織』の中で有能であった事は認めるが、幹部に昇進するには若すぎる。
しかし、幹部になるには特別な儀式があると聞いた事があった。そして、普段決して目にする事の無い大幹部と、
「なあ…そうなのか?」
少年は答えない。しかし否定もしない。黙ったまま再び歩き出そうとする。
エドワードはその態度を肯定と受け取った。酒場でホラ話を聞いた時のような
「本当か? 本当に幹部になるのか? お前が? お前みたいなガキがか?
二人は無視して歩き出す。それに構わず、エドワードが笑いながら続ける。
「それともなんだ、女みてえな顔だと思ってたけどよ……………一体何人の幹部と寝れば、そんなに手際良く出世できるんだ?」
足が静かに止まる。
少し
「警部補殿」
しかし、先に振り返っていたのはマイザーの方だった。
あくまでにこやかな顔のままで、警部補に向かって淡々と告げる。
「それ以上は、我々への
エドワードの笑いが
マイザーは
しかしこの
(殺される)
何か一言でも『組織』やフィーロに関する単語を口にした途端、自分は目の前の男に殺されるだろう。相手の声の奥にある冷淡な感情を感じ、そう確信できた。
何がそう思わせるかといえば、あの目だ。目の奥から、何か得体の知れないものが入り込んで来るような……そんな恐ろしい何かを感じさせるのだ。
エドワードが口を閉じ、
「……確かに、我々は喰われるだけの組織かもしれませんが……」
一瞬間を置いて、
「せいぜい、毒にやられないようにお気をつけて……」
くそったれが、やっぱり立ち聞きしてやがったのか。
エドワードはそう思ったが、口にまでは出すことが出来なかった。脂汗の感触が、背中にまで感じられ始める。
いまだに警部補を



