学園キノ
キノの旅第四部・学園編第一話 「キノ颯爽登場!」─Here Comes KINO─ ⑦
エルメスが大声で叫びました。木乃は相変わらず机に突っ伏して寝ています。
ちなみにその教室にはもう誰もいません。
開けっ放しの前後扉と、乱れた机の並びに床に散らばった教科書とノート。連続する爆発音と校舎の揺れに、みんなとっくに慌てて
「起きろってばさー! やっと敵が出たんだよ! 木乃! 変身して戦うの!」
「……うう。分かってるよ……」
木乃が突っ伏したままつぶやきました。
「起きた?」
「だからまだ食べるって……どんどん持ってこい……別腹だって……。フッ……。肉まん」
寝言でした。
「…………。ぴぴぴぴっ! ぴぴぴぴっ! ぴぴぴぴっ!」
エルメスが必死の努力をしているとき、学校内では化け物が一匹
人型ではありますが、その身の丈は三メートルはあるでしょう。毒々しい
化け物は一階メインロビーで火の玉を吐き、学園創設者の銅像が
「ひいっ!」
「
悲鳴より大きな声がしました。馬鹿はどっちでしょう。
化け物が、声のした方へ──ロビー
「まったく! 変身ヒーローが寝過ごす? フツー?」
エルメスが
「えっと、本当に行くの?」
「怒るよ」
「えー。普通の女子高生は戦わない」
木乃が
「普通の女子高生は授業中よだれ垂らして満漢全席の夢を見ながら寝ない」
「うっ……」
「いいから戦う! そんなことじゃ
エルメスが
「直んないなー、もう」
突っ伏していたので変に跳ねています。
「ちょっとトイレ寄っていい?」
「いいから戦う!」
悲鳴があまりに断続的に聞こえ、それが一階のロビーからだと容易に知れましたので、木乃はそちらに向かいます。廊下は
ロビー手前に到着。木乃が焦げ跡のついた
「あ」
「木乃、あの化け物をやっつけるんだ! 変身だよ!」
エルメスが言いましたが、木乃は一つ提案します。
「ちょっと待って。あの生徒会の四人がボロボロにされてからにしようよ」
「そういうの子供に与える
「しょうがないから……、やろうかな……、やるのかな……、まったく……」
木乃が本当に乗り気でない顔で言った後、エルメスがぽつり。
「ヒーローはご飯おごってもらえるよ」
「いっちょやりますかぁ!」
木乃が
木乃は右腰のホルスターから、モデルガンを抜きました。プラスチック製のそれを高々と掲げ、ハンマーをカチリと上げて、
「 !」
(↑あなたの思いついた変身のかけ声を書き込んでください)
引き金を引きました。ハンマーが落ちました。キャップ火薬が
後はまあ、くるくる体がまわったり、光のシルエットで裸ギリギリだったり、足下から手先まで、光の帯が衣装になったりするわけですがそのへんは適当に想像におまかせします。
そして
「変身終了だ! 今から木乃は、〝
エルメスが叫びました。謎の美少女ガンファイターライダー・キノ(以下キノ)は、
そう、今のキノは、
「うそ? 変わってないよ!」
セーラー服を着て、腰にポーチがいくつかとホルスターがついたベルトを巻いて、右手にリヴォルバーを持っていました。前髪は跳ねています。
「──って、全然変わってないよ! まんまだよ! 変身してないよ!」
キノが慌てて言いました。相変わらず腰にぶら下がっているエルメスが、落ち着いた
「いや、変わってるよ──。まずそのモデルガンが本物の銃、〝ビッグカノン ~
「もういい。だいたいこんな格好で戦ったらわたしだってバレバレじゃん?」
「大丈夫」
「何が?」
「変身しているから
そんな
「私達を助けに来てくれたんだね!
「学園に出る化け物を倒して! 謎のガンファイターライダー・キノ!」
「ああ! 助かったよ! 謎のガンファイター・キノ!」
「戦ってね! 謎のキノ!」
言いたい放題言って、四人は去っていきました。後には化け物一匹と、
「〝謎のキノ〟ゆーな」
ぼやいた謎のキノが一人残されました。エルメスが言います。
「ホラね。変身って古今東西そういうものさ」
「……帰っていい?」
「ダメ。ほら、相手が待ってるよ」
ぐるるるるると不気味に
「あ……」
その足の指先に、
「まさか……」
「そのまさかだね、キノ。あのときのフラれっ子だよ。



