男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。I ‐Time to Play‐〈上〉
第一章 「四月十日・僕は彼女と出会った」 ②
「運動は
愛犬について楽しそうに語る声を聞きながら、僕は〝馬刺し女子〟がどんな顔をしているのか知りたくなって、ゆっくりと
そして、見上げた。
そこには、とても背が高くて、とても髪の長い
身長は、百七十センチくらいだろうか? 女子にしては、間違いなく背の高い方に入る。
決して太っているわけではないが、
髪は黒くて、ストレートで長さが
色白で、かなり目鼻立ちがハッキリしていた。
セルフレームの
彼女が仮に小説のキャラクターだとしたら──、描写はこれくらいか。
恵まれた体型と顔立ちと、地味な
僕は思った。
彼女は、美少女だ。
いつかそのうち〝使わせて〟もらおう。
僕は、犬を飼っていればあんなバカなミスはしなかっただろうかと思いながら、それを聞いた。あまりに近いので、似鳥が僕を見ることはなかった。もし見られたら、僕は目を
似鳥は適度なところで犬自慢を終えて、写真が見たい人はスマートフォンに入っているからあとでどうぞと、見事すぎるアピールをした。
これなら──、
犬好きなら男子女子関係なく、彼女に話しかけることができる。そこから、話すきっかけを
彼女は最後に、これから二年間よろしくお願いしますと付け加えた。
長い髪を背もたれの向こうに逃がしながら、ゆっくりとイスに座る。
その際、目の前の僕と近距離で、そして初めて目が合った。
僕は視線を逸らそうとして、できなかった。
「ひっ!」
彼女が、それまでのにこやかな表情を
まるで、絶対に見てはいけないものを見たかのような対応だった。
そこまでを見届けてしまった僕は、ゆっくりと前を向いて、心の中で
初日からこれなら、復学なんてしない方がよかったんじゃないかと思いながら。
だから──、
「
その
四月十日。つまり、始業式から三日後の木曜日のこと。
僕は、特急列車の車内にいた。
今住んでいる町から、三時間近くかけて都心へ向かう特急列車。その自由席車両の最後列、左側の窓側の席に、僕は座っていた。
夕方に始発駅を出発したばかりの列車はまだガラガラで、誰かが僕の隣に座る必要などまったくないはずだった。
だから僕は、誰だか分からないがその声の意味にまず驚いた。そして、読んでいたプリントアウト原稿から顔を上げて、それが毎日後ろの席に座っている似鳥であることに気づいて、さらに驚いた。
「や! こんにちは」
「…………」
僕は何も言えずに、通路に立つ背の高い彼女の
似鳥は当然制服ではなく、僕はあまり
似鳥は、僕が彼女自身を忘れている可能性を考えたのか、
「えっと、同じクラスの、似鳥
そんな自己紹介をした。
「あ……、は、はい──」
僕は、ようやく、どうにか返事をした。そして、ゆっくりと言う。
「それは、分かってます」
そこまでは分かっていた。分からないのは、どうして僕に話しかけてきたかだ。
似鳥は、くすっと笑いながら、
「ん? 敬語? 年上なのに?」
「あ、いや……。なんでもない。似鳥さん」
「〝さん〟付け? 年上なのに?」
「…………」
僕は一度息を吸って、心を落ち着かせてから、
「いいや……、えっと、〝似鳥〟で、いい?」
なるべく平静を
「もちろん。で、座っていいの?」
そのとき僕は、リュックを
リュックの口を大きく開けっ放しだったので、手を伸ばしてファスナーを閉じながら、
「えっと、別にいいけれど……、なんで、ここなの? まだ、あちこち
僕は、思ったことを
失礼だったかもしれないが、正直な気持ちだった。どうして
学校が始まってから四日
僕は、〝年上同級生〟としてみんなから
僕も同じように、無理に話しかけて無視、または逃げられたらどうしようと思ってしまい、結局はコミュニケーションを取れずにいた。もともと誰かと会話するのが
座りたいという人に対して、〝他が空いているよ?〟とは、我ながらずいぶんな質問だった。僕は、彼女が腹を立ててもしょうがないと思いながら答えを待ったが、
「ちょっと、話がしたくて」
彼女は、笑顔というわけではないが、怒っているようでもない表情でそう言った。
「えっと……、どんな?」
僕は、リュックを自分の
「ありがと」
似鳥は両手を使い、長い髪をうなじの後ろで
肩が触れあうほど近い距離で、似鳥は左を向いた。そして僕の目を真っ直ぐに見て、
「お仕事に関係した話をしたくて」
「はい? 誰の?」
「〝誰の?〟 ──私達の」
「……?」
意味が分からなかった。高校生が二人して、なんの仕事の話をするのか。僕は、リュックを足元に置いた。
そして、
「ごめん。何を言ってるのか、サッパリ分からない」
正直に言った。
すると
「そっか……。てっきり、気づいているのかと思っていた」
「…………。何に?」
「私のことに」
「…………」



