世界最強の魔法使い。だけどぼっち先生は弟子に青春を教わります
第4話 楽しい獄中生活 ②
「うん! 私、フレデリカ先生とホームパーティーしてみたい!」
「ああああああああああああああああああ!!」
突然、フレデリカ先生がライオンのごとき咆哮を放った。あまりにらしくない行動だったので、一瞬夢かと思ってしまった。
ど、どうしたの? ふとした拍子に黒歴史を思い出して悶えてしまったとか? ちなみに私はそういうことよくあるよ。
「あ、あなたは……いつもいつもそうですわ! 私のことなんてまったく眼中にない!」
予想外の言い分だった。
「ええ!? そんなことないよっ」
「では何故私に恥辱を与えようとするんですの!? ホームパーティーだなんて、馬鹿にしているとしか思えないでしょ!?」
「違うの! 私はフレデリカ先生と、その……」
言葉が詰まる。でも勇気を振り絞り、
「と、友達になりたいと思ってるだけなのっ!」
言った。言ってしまった。
これこそ黒歴史一直線の発言だ……。
過去、私はちょっと優しくしてくれた子に対して、TPOをわきまえずに「友達になってください」とお願いしたことがあった。
答えはもちろん×。
私の魔法使いとしての力が普通の範疇を逸脱していたため、怖がられてしまったのだ。あの時のことを思い出すと、今でも絶叫して走り回りたくなってくる……。
だけど、今回はちょっと話が別だ。
私と同等、いやいや、それ以上の力を持つフレデリカ先生なら、あるいは……。
「ああああああああああああああああああ!!」
「うわあ!?」
ところが、フレデリカ先生は再びTPOをわきまえない絶叫をあげた。髪をぐしゃぐしゃに掻きむしり、地団駄を踏みまくる。そのまま拒絶も承諾もせずに走り去ってしまった。
何だったんだろう、いったい……。
最近のフレデリカ先生、ちょっと変だよね? 悩みごとでもあるのかな? 何か力になってあげられればいいんだけど。
「セレネ様! こんなところにいたんですか!」
フレデリカ先生のことで頭がいっぱいになっていた時、ミルテがひょっこり現れた。いつものスーツ姿だけれど、いつもらしくない焦りの表情を浮かべている。
「どうしたの? 買い物に行ってたはずじゃ」
「いやそれがですね、帰ってきたら研究室が爆発してたんですよ!」
「え?」
この子は何を言ってるの?
「メローナさんが研究室で暴れたとか何とか! ほらセレネ様、パーティーで遊び惚けている場合じゃないですって!」
「ま、待ってよっ」
私はわけが分からないままミルテに引っ張られていった。
◇
「ああああああああああああああああああ!!」
思わずフレデリカ先生みたいに絶叫してしまった。目の前に広がっているのは、嵐が過ぎ去ったのかと思うくらいボロボロになってしまった研究室の惨状だ。
黒焦げになった床や天井、散らばった本、引っ繰り返ったベッド……。
4、5人の警備員さんが行き交い、魔法で色々と現場検証をしていた。
この様子だと、最近私が研究している【黒歴史のフラッシュバック率を抑制する魔法】の研究データも吹っ飛んでしまったに違いない。
あれ、魔法陣を組み上げるのに苦労したんだけどね……。
「うわ、セレネ先生!? 何ですかこれ……!?」
「こげくさい……このにおい、苦手」
イリアさんとプラミさんがやって来た。
私は無気力に笑うことしかできない。
「あはは……なんか知らないうちに爆発してたの……」
「意味が分かりません!」
「よしよし。そんな日もあるよ」
プラミさんが頭を撫でてくれた。イリアさんが「普通はないですっ」とツッコミを入れる。確かに普通じゃない。私は近場にいた警備員さんに声をかけてみた。
「あの、ここで何があったんですか……?」
「ああ、リアージュ先生ですか」
警備員さんは、舌打ち(!?)をして私を見下ろした。
「困りますねえ、ちゃんと学生を監督していただかなくちゃ。研究室って言ったって、別にあなたの私物じゃないんですよ? 学院が貸しているだけなんですよ?」
「そ、それはそうですけどっ……」
私はミルテの背に隠れながら、
「メローナさんがやったって本当なんですか……?」
「ええ。先ほど逮捕して牢獄にぶち込みましたよ」
「逮捕……!? ついに……!?」
「しょうがないでしょ。暴れるんですもん」
警備員さんが語るところによれば、こうである。
朝、研究棟の一角で大きな音が聞こえたらしい。不審に思って急行してみたら、メローナさんが魔法をぶっ放し、私の研究室を破壊していたのだという。で、メローナさんはそのまま取り押さえられてしまったと。
「ま、そういうわけですわ。事件性はありませんが、研究室はしっかり元に戻しておいてくださいね」
調査が終わったのか、警備員さんたちはぞろぞろと部屋を出て行った。私は呆然とそれを見送ることしかできない。
「逮捕って……警察に連行されたってことかな?」
ミルテが「いえ」と首を振り、
「学院の懲罰房に入れられているだけですよ。ろくに調査もされずに投獄されたところを見ると、普段の素行が影響していそうですねえ……」
私がいない間に何があったのだろうか。
今日はメイプルスター賞の授賞式があるため、講義は全休だった。マスターも学生も、ほとんど学院には来ていない。目撃者の数は限られそうだ。
イリアさんが「ふむ」と腕を組み、
「……メローナさんの動機が分かりませんね。セレネ先生の部屋をめちゃくちゃにする理由はないと思うのですが」
「破壊衝動が出ちゃったとか? わたしの『セレネ先生襲いたい衝動』みたいな感じで」
「いえ。あの人は意外と真面目ですよ」
「セレネ先生を脅してるイメージあるけど……」
「まあそれは事実ですが、土日もきちんと学院に来て勉強してますし」
私もそのことは承知していた。
意外なことだけれど、メローナさんは魔法に対する熱意がすごいのだ。講義がない時でも体育館やグラウンドで鍛錬に励んでいるらしい。魔法の教材がたくさんある私の研究室を爆破するとは思えなかった。
「……ちなみに、2人はどうして学院に来たの?」
「もちろん自習です。シルバーランクで卒業しなくてはいけませんから」
「わたしも。魔力制御の資料を探そうと思って」
うちの弟子たちは優秀だ。もう少し落ち着きのある子たちなら最高だったのに……。それはさておき。
「え、えっと……何があったのか突き止める必要があるよね? メローナさんが理由もなくこんなことするわけがないもん」
「というか、メローナさんの実力ではこれだけの爆発魔法を使うことはできないんじゃ? これって中級レベルの威力ですよね?」
「まあ、研究室に爆発物を持ち込んだ可能性も否定できませんけどねえ」
「ミルテ、ヘンなこと言わないでよ。爆発物なんてもっとありえないったら。とにかくメローナさんに話を聞いてみよう」
そこでプラミさんが口を開いた。
「メロちゃんは牢獄にいるんだよね? わたしも行ってみたい」
「私も同伴します。セレネ先生だけでは心配ですから」
イリアさん、私のこと子供だと思ってない?
いや、私のほうが年下か……じゃあ子供だ……。
それはおいといて、2人を牢獄に連れていくわけにはいかなかった。
「それがね、牢獄はマスターと警備員さんしか入ることができないの。学生が自由に出入りできちゃったら、物資の不正持ち込みとか、色々と不都合なことが起きるかもしれないからって……」
「そうですか。歯痒いですね……」
「だから私だけで行ってくるよ。メローナさん、寂しがってるだろうしね」
そこでミルテが腕を組み、
「……セレネ様、この部屋はどうします?」
「あ」
「このままってわけにはいかないでしょう? 修復魔法で片付けておきましょうか?」
「そうだね。ミルテに頼もうかな――」
「ちょっと待ってください!」



