神様のメモ帳
1 ⑥
「ふん。
「いや、そんな具体的な目はしてないけど」
「ほんとうに?」
「うん」
「しかし、なにか言いたげだ。遠慮なく
……絶望?
とくべつ訊きたいことがあるわけじゃなかった。僕はただ、のべつ
「食事とか……どうしてんの。いつもあんなの食べてるわけ?」
アリスは丸い目をさらに丸くする。
「そんな
「……食事は大切だと思うけど」
「ふむ。もっともだ。きみは変わっているな。
アリスは目を細めて僕を見た。
「栄養補給ならドクターペッパーだけでじゅうぶんなのだよ。しかしマスターがうるさいので、たまに野菜を頼んで食べている」
「だから背が伸びないんだよ……」
「背が高い方が優良であるというきみのその
「いや、ごめんなさい」
「じゃあ、生活はミンさんのお世話になってるわけ」
アリスは
「失敬な。ニート
「え、え、でもニートなんでしょ」無職のことじゃないのか?
「きみはニートというものを根本的に誤解しているようだね。NEETの二文字目のEはEmployment、つまり雇用職だ。個人事業主には
当人の考え方。
「……生き
「ヒロに言わせればそうなるな。あるいはツルゲーネフはそれを幻滅と呼ぶかもしれない。ドストエフスキーは
なにを言ってるのかさっぱりわからなかったけど、こんなパジャマ
「疑いの目だね。いいだろう。もうすぐここに一人の男がやってきてぼくに仕事を依頼する。それを聞けばきみもぼくが職業探偵であることを認めるだろうさ」
「……え?」
そのとき、タイミングをはかったかのように、チャイムが鳴った。僕は
「出てくれたまえ」
「僕が?」
「たまにはぼくの事務所も青ランプ以外の歓迎があってもいいと思っていたところだよ」
玄関まで行ってドアを開いた僕は、その向こうに立っていた三人の男を見て固まった。真ん中は、
「だれだ、おまえ。アリスは?」
狼が言った。僕がその視線に射すくめられ、
「やあ、四代目。入ってくれたまえ」
四代目と呼ばれたその男は、後ろの二人に「ここで待ってろ」と言うと、僕を押しのけて部屋に入った。ドアがばたんと閉じて二人が僕の視界から消える。閉まる直前の一瞬、にらまれたような気がした。僕の手はまだノブに張り付いて震えていた。
「ナルミ、ドクターペッパーをもう一本持ってきてくれたまえ」
アリスの声で、ようやく僕はドアから手を引き
「おい、だれだこのガキは。仕事の話だっつったろうが」
アリスに
「え」
まさかドアの外であの熊並みのボディガード二人と仲良く話が終わるのを待てとおっしゃる。かんべんしてください。
「それは高校生の形をした置物だと思って気兼ねなく話してくれたまえよ四代目」
「おいアリス、ふざけんなよ
「大丈夫、ナルミは今日づけでぼくの助手になった。口の堅さは保証する」
いつ助手になったんだ聞いてないぞ。
「そういう問題じゃねえ」
「どうしてもというのなら、きみの業界は
四代目はしばらく苦々しい顔をして、ベッドの支柱を
たしかに、さっぱりわからなかった。知らない固有名詞がいっぱい。意味のわからない動詞がいっぱい。かろうじて意味がとれたのは『見つけ次第殺す』とかそういう、あんまり聞きたくない言葉ばかりだった。
「ふむ」
アリスは四代目の話を一通り聞くと、ドクターペッパーの二本目を飲み干した。
「わかった。ナルミ、今の話は理解できたかい?」
僕はあわててぶんぶんと首を振る。
「そうかい。簡単に言えばこの
「てめえなに解説してんだよ意味ねえじゃねえか!」四代目が切れた。当たり前だ。僕はちょっと安心していた。よかった、ちゃんと突っ込む人もいるんだ……。「てめえもなに
「うん。今日のぼくは朝からたいそう
あれもこれもわざとだったのかこのパジャマ
「繰り下がりで四代目にお
アリスは毛布の上に両脚を投げ出してにっこりと笑う。それで僕も(たぶん四代目も)
「で、仕事は受けんのか」
「引き受けたよ。任せてくれたまえ」
「



