エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す
エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す ②
そうこうしているうちに、三人は会場まで到着した。
関係者席に着くと、先に来ていた日本人男性が
「さすが
母は「あの人にそんな人気があるんですか……」と言うが、実感が湧いていないようだった。
しばらく待っていると英語でのアナウンスが始まり、会場がざわつく。
昨夜、
ウォームアップはすぐに終わり、あっという間に試合が始まった。
試合が始まるまでは
巨大モニターでは、両プレイヤーの視点が目まぐるしく動いていた。
「お父さん勝った!」
突然隣で
ステージ上では、父がヘッドフォンを外して相手選手と握手をしている。
「すごい……世界ランク上位のプレイヤー相手に圧勝ですよ!」
興奮している男から声をかけられ、母は戸惑っている。
「え、えっと……そんなにすごいんですか?」
「ええ、この調子でいけばあのポルシェを持ち帰れますよ」
男は、副賞として会場に展示してあるポルシェを指差して笑う。
父は、前に詰めかけている観客にサインをしていたが、しばらくするとステージ裏へと戻って行った。
控え室のドアを開けて入ってきた
だが、その後に腕を組んで首を
「全然ダメだったな。もっと楽に勝てたよ」
母は「もう、勝ったんだからいいじゃない」と
試合に勝った時の父はいつもこうだった。
負けた時の方がよほどさっぱりした顔をしているような気がする。
「相手の人、最後に少し動き方を変えてきてた」
「そうなんだよ、油断して追い上げをくらった。
父に褒められ、
父の近くにいた
母が「あと何試合すれば優勝なの?」と父に尋ねる。
「勝ち続けたらあと五試合かな。負けたらそこで終わりだ」
「お父さんなら絶対勝てる!」
アメリカ滞在の日程は変わらないのだから、早く終わってもらったほうが旅行の期間が多くなる。
もちろんそんなことは口に出さない。
父が、ゲームの世界大会出場を目指して会社を辞めた時は驚いた。母は最後まで反対したが、最終的には父に押し切られる形で納得したようだった。
幸い、普段の生活に困窮するということはなかった。
ただ、父の職業を知った時の友人たちの反応はさまざまだった。ゲームを仕事にしている両親など、どこにもいなかったからだ。
男子から「遊んでるだけじゃん」と笑われた日の夜は悔しくて眠れなかった。
遊んでるだけと言われたことが悔しかったのではない。
言い返せない自分が悔しかったのだ。
翌朝、父に男子から学校で言われたことを伝えると、父は笑いながら、
「確かに、楽しく遊んでるだけだな」
と言った。父の答えは
「それを仕事にしているんだ。めちゃくちゃ
今日も、父はステージ上で楽しそうにゲームをしていた。
だから
翌日も午前中から父の試合があった。
父は朝早くから起きて、体調も上々のようだった。会場に別々に向かった昨日とは異なり、
父と
父は軽く話してすぐに立ち去ろうとした。試合前に余計なことが起きるのは避けたかったのだろう。男はノートパソコンを持っており、なにか手伝いを求めている様子だった。
父が立ち去ろうとすると、外国人の男は
見慣れぬ大柄な男に外国語で声をかけられ、
操作自体はすぐに終わり、男は笑顔で去っていった。
後ろ姿を見送りながら、
「お父さん、あの人なんだったの?」
「ああ、俺の設定ファイルがほしいって頼まれてな。まあ、これぐらいいいよな」
普段なら試合前には頼みに応じない父も、
「ごめんなさい」
と謝ると、父は笑って「いいんだよ」と言って
父の試合はお昼前に設定されており、まだ少し時間があった。
控え室では、父がパソコンに向かってウォームアップをしている。
父は彼らと何やら深刻そうに言葉を交わしていたが、徐々に声の調子が荒くなっていった。
「ねえ、あれ何の話?」
「わからないけど……チートがどうこうって」
と母が心配そうに答えた。
男たちが部屋を頻繁に出入りしている中で、部屋の中には次第に重苦しい空気が漂っていった。しばらくすると、リーダーのような人間が再び姿を現して、父と数分間言葉を交わした。その間、父の表情は硬いままだった。
そのまま、男たちは部屋から出て行った。
しかし、その笑顔にはどこか普段とは異なる影があったように



