エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す
エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す ③
「さっき控え室で
「それが、チートがどうこうって」
母が答えると、「え? それって……」と男の顔が曇る。
「いえ、でも、結局は問題なかったみたいです。勘違いだったみたいで」
男は少し
昨日と同じように父が対戦相手と一緒に登場すると、再び会場は歓声に包まれた。
遠くから見る父の表情は落ち着いているように見えた。
「お父さん、大丈夫かな」
「大丈夫、お父さんなら絶対勝てる」
ウォームアップが終わると、すぐに試合が始まった。
今は、ラウンド開始前の準備期間だ。
父がプレイするゲームでは、各ラウンドの開始直後に一つだけ好きな武器や防具を買って、自分の装備として使用できる。初期装備は弱いため、強い武器または防具のどちらかを買うのが鉄則だ。
ラウンドが開始すると、ふと、会場がざわついていることに気づく。
前方のディスプレイには、信じられない光景が広がっていた。
ラウンドが始まっても、父が操作するキャラクターは手ぶらだった。
装備の購入を忘れてしまったのだ。
プロの世界では考えられないミス。
遠くに座る父の顔が、一瞬曇ったような気がした。
結局、そのラウンドで父の操作キャラクターは無防備なまま敵に襲われ、あっけなく倒されてしまった。
会場が静かにざわついている。昨日までのざわつきとは、別種のものだった。
「
周囲の日本人から、困惑の声が上がる。
母は、不安げにキョロキョロと周りを見ている。
バタン、と扉が閉まる音が聞こえた。
広々とした会議室に座り、昨夜の夢を思い出していた
隣には、
そのうちの一人は、
三人の男たちはそのまま何も言わず、長机を挟んで
重苦しい表情をした三人の男が、黙って座っている。
「このメールを見てほしい」
沈黙を破ったのは、中央に座る
自分のデスクで昼ごはんを食べ終え、午後の仕事に取り掛かろうとした
会議室のスクリーンに映し出された文面を読みながら、不快感が
「……この差出人は?」
「わからない。匿名の差出人だ。知っての通り、この論文は君たちに主導してもらった仕事だ。何か心当たりは?」
まだ実用化には遠いが、会社では花形の部署だ。
スクリーンに映されているメールには、
その論文に、不正がある。
この告発者は、大量の証拠とともに、そう告げている。
この同期社員は、首都圏の有名大学出身者が大半を占める
「自分は……何も知りません」
と同期社員が答えた。
このまま自分が何も言わないと、間違いなく自分も疑われるだろう。
その手は、震えていた。
そういえば、この同期は最近結婚し、奥さんは妊娠中だった。
「──私も、何も知りません」
いつの間にか、
横目で、同期が
「不正と指摘されている箇所は、妥当だと思います。ギリギリ、ミスと言える範囲かもしれませんが、全てのミスが私たちに都合の
「それは私だって見たらわかる。そのミスがどうやって入り込んだのか、わからないか?」
「もちろん私たちの誰か、ではあると思います。ただ、どの段階で間違ったかは……。私たち二人以外にも、多数のエンジニアと共同で作業していたので」
製品ではあり得ないが、研究開発だと、必ずしも全ての変更をログに残さないことはある。今回も、論文発表を急いでいたことからそのケースだった。
「つまり、間違いなく不正ではあるものの、誰がいつ入れ込んだかわからないってことか」
上司の隣にいる男が「なんてことだ」とつぶやく。それにつづけて大きなため息も。
──どうして自分は、何も知らないなんて言ったのだろう。
なのに、それを言わないなんて。
犯人がわからない場合、この責任はきっと、関係者全員が広く負うことになるだろう。
昨夜、久しぶりに見た幼い頃の夢の内容が、改めて
***
暗い部屋の一角に、液晶ディスプレイが光っていた。
部屋にはキーボードの音がカタカタと鳴り響き、時おりマウスのクリック音が混じる。
ディスプレイの光に照らされて、
画面内に人影が現れた。相手はまだ
瞬間、
だが、ターゲットが倒れることはなかった。
危険を感じた時は既に遅い。
「ああもう、また負けた! なんで後ろから撃ってる時ほど当たらないのよ!」



