エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す
エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す ④
時刻は深夜十一時。
階下の住人から反応がないか、ヘッドフォンを外して耳をすます。
何も聞こえないことに胸をなで下ろすと、再び頭からヘッドフォンをかぶりディスプレイへと意識を戻す。
画面に映っているのは、まだ生きている仲間の視点だ。
このラウンドはもう自分は倒されてしまったから、次のラウンドになるまで操作はできない。
すると突然、ヘッドフォンから罵声が聞こえてきた。
「……またか」
これまでの経験上、この空気になった時に勝った
しばらくプレイを続けたものの、予想通りラウンドを立て続けに取られ、試合にも負けた。
「……もう一試合ぐらい、やってもいいかな」
どうせ明日も重要な仕事はない。
論文不正の事件があってから、会社での
研究部門からも異動となって、今は完全に
ヴェインストライクは、現在世界で最もプレイヤー人口が多いeスポーツタイトルだ。
数年前にリリースされて以来、プレイ人口を爆発的に伸ばし続け、今や世界の総プレイヤー数が三億人を超える。
ヴェインストライクのオンライン対戦には、『ランクマッチ』と『アンレート』の二つのモードがある。ランクマッチはプレイヤーランクの変動があり、競技性の高いモード。アンレートはプレイヤーランクとは関係なく、カジュアルにプレイができる。
ヴェインストライクでは、五人のプレイヤーがそれぞれ異なる役割を
チームは攻撃サイドからスタートし、科学研究施設がテーマのマップで戦うことになった。マップは複雑に
サーバーに接続するとすぐに、女の子の声が聞こえてきた。
「おねがいします」
声に少しノイズが乗っているのが気になるが、それよりも、女の子の名前に目がいった。
女の子の名前は、LIN。
女の子が挨拶する声に応じて、男の声が
「おねがいしまーす」
と軽い調子で続いた。残りの二人のプレイヤーも男性で、似たように少しふざけた口調で挨拶をする。
「おねがいします」
と言ったが、その直後に一人の男性プレイヤーが言葉を発した。
「女の子二人もいるじゃん、ラッキー」
試合が始まり、
三人の男性プレイヤーは、おそらく仲間だ。そして、プレイのレベルも非常に高い。
というか、うますぎる。明らかに、
ほぼ間違いなく、これはスマーフだ。
スマーフとは、本来の実力よりも低いランクでプレイするために、低ランクのサブアカウントを使用する行為を指す。別名、『初心者狩り』。
ヴェインストライクは人気ゲームであるが故に、このような迷惑行為も少なくない。アカウントは簡単に作り直せるため、一部のプレイヤーは何度も新しいアカウントを作成し、意図的に低ランクのプレイヤーを圧倒する。運営も対策に努めてはいるが、これを完全に防ぐことは難しい。
ゲームが進むにつれて、男性たちが
「ねえ、ランクいくつ?」
「声かわいいね」
「おい、無視すんなよ」
と言葉が飛び交う。
ヴェインストライクでは味方プレイヤーに直接攻撃はできない。
そのため妨害できることは限られており、極論、自分で敵を全員倒せば試合には勝てる。
ただ問題は、敵にも非常に強いプレイヤーがいることだ。もしかしたら、敵にもスマーフプレイヤーがいるかもしれない。最近、
試合が進むにつれ、男性たちも敵の強さに気づき始めた。すると、「おい、真面目にやれよ」とか「弱えんだよ」と、
──もう、この試合はダメだ。ミュートしてしまおうか。
この子は最初からずっと、懸命に戦っている。きっと、真面目な子なんだろう。
そう思った時、
「LINさん、右から五秒後に敵が来ると思う」
「え……どうしてわかるんですか?」
その直後、
「あ、ごめんなさい……」
女の子は応戦したものの、敵を倒すことはできず、逆に倒されてしまった。
「おいおい、なんか真面目にやりはじめたぞー」
「あはは、運が良かったのに弱すぎたねえ。ねえねえ、君ら年いくつ?」
ヴェインストライクでは、先に十三ラウンド先取したチームが勝利となる。
「次は左側から回って進行しよう。ほとんど敵がいないと思う」
「う、うん」
少女は
「あ! ご、ごめんなさい」
だが、実力差がありすぎた。
次々とラウンドを取られていって、とうとうマッチポイントになった。あと一ラウンド取られたらゲーム終了だ。
「次はさっきとは逆から来ると思う」
先ほどまでは必ずあった、少女からの応答がこない。
それどころか、キャラが動いていない。
……戦意を失ったか。
少女の反応がなくなったのを見て、男たちがはやしたてる。
「おーい、諦めるにはまだ早いんじゃないのー」
よかった、まだ諦めていない。
ただ、その後ろ姿に
「あれ、まだいたの? おーい、なんか言えよ」
男たちは気づいていない。だが、
少女は、
直後、ログに敵プレイヤーが次々と倒れていく表示が出る。
「お? やるじゃん! まぐれまぐれ!」
「すごいねー!」
男たちが騒ぐ一方で、LINのプレイを見ていた
まぐれ?
すごい?



