かつてゲームクリエイターを目指してた俺、会社を辞めてギャルJKの社畜になる。
第1章 アラサーリーマン、ギャルJKの社畜になる。 ③
「僕に声をかけてくれたのはうれしい。でも、こういうのって、普通、ゲーム専門のエンジニアに頼むもんじゃないかな。ネットとか探せばすぐに見つかると思う。さっきも言ったけど、僕の主戦場は業務系だし、ソシャゲのプログラムとかシステムは難易度が高いし……」
と、彼女が蒼真に人差し指をつきつけ、
「いえっ! 専門なんて大きな問題じゃないです! それにお願いするなら、あの『風の砂漠と飛行機乗りの少女』を作った、そーまさん以外には考えられなくて!」
思わず顔を両手で覆った。
なんでこの少女は、結局、同人ゲームですら完成させられなかった、こんなヘボエンジニアにこだわるんだ?
世の中には専門のエンジニアがたくさんいるから、そっちの方に頼むのが普通だ。
というか、ある程度、ゲームとかエンタメに触れたことがあるなら、そんなことはわかっていそうなものだ。やっぱり陽キャの見た目だし、実はあんまりそっちの方には興味が無くて、ソシャゲは
やはり、そこらへんはちゃんと突っ込んでおいたほうがいいだろう。
「……それじゃあ、二つ目の質問、いいかな?」
「はいっ!」
蒼真は、慎重に言葉を選びながら尋ねる。
「ええと、ゲームアプリをヒットさせるのって、すごく難しいと思うんだけど、そこらへんどう考えているのかな……? 僕はゲーム系は表面的なことしか知らないんだけど、ソシャゲの開発には人気のあるクリエイターをたくさん集めた上で、加えて、数億円の開発費が必要だってきいたことがある。それでも、大ヒットを飛ばせるってほんの一握りだとか」
だけど、彼女はなぜか自信満々な表情を見せた。
「それなら多分、大丈夫です! これ、見て下さい!」
取り出してきたスマホのディスプレイに表示されていたのは、SNSの画面。
かわいい女の子のキャラクターがアイコンのアカウントで、オリジナルのイラストが投稿されている。
「フォロワー数のところに、注目してくださいっ!」
表示されている数字は、三十五万人。
「…………?」
彼女が胸を張り、得意げに言う。
「自慢じゃないけど、これでも、あたし、結構人気がある絵師だと思うの!」
「……はい?」
意味がわからず戸惑っていると、彼女が画面と自分の鼻を交互に指さして言った。
「これ、あたしのアカウントなんです」
「…………へ?」
「それで、これはあたしが描いたもので……」
そう言いながら、彼女が指で画面をスクロールさせると、美麗なイラストが次々に現れる。
イルカの背に乗った少女が、海に沈んだ高層ビル街の中を、魚の群れと一緒に水中散歩している。
白銀に光り輝く
夕日が沈みつつある浜辺を、セーラー服の少女が涙を流しながら
そのどのイラストも、いいねやリツイート数は、一万近くに達している。
蒼真はディスプレイから、満面に笑みを浮かべている少女に視線を移して困惑してしまう。
これらのイラストを描いているのが、この子……?
同人ゲーム制作から離れて久しく、最近のイラストレーターのことはあまり詳しくはない。だけど、三十五万とかいうフォロワー数からすると、相当な有名人、すなわち、俗に言われる『神絵師』とかいうやつなのでは……?
まじか……。
「あと、シナリオの方も、今度アニメ化が決まった売れっ子ライトノベル作家にお願いしているから、そーまさんが言う、人気クリエイターを集めるという条件は満たしています!」
「……なる……、ほど……」
蒼真は大きく再度深呼吸をする。
ちょっと理解が追いつかなくなってきた。
彼女のいう話が本当なら、今、この場は、神絵師が自分のゲームを作るために、かつてプレイしたゲームの制作者をスカウトしている、という一応はまともに見える構図にはなる。
「クリエイターさんについてはわかったけど、でも、開発資金の方は……?」
「はい、それについても問題ありません。あたしの貯金だけじゃ到底、足りませんけど、お金を出してくれる会社さんがあるんです。以前、ゲームのイラストを描いたときからお取引のあるところです」
「はあ……」
「あ、言っておきますけど、あやしいところじゃないですよ! そこの役員さんから、あたしの主宰する制作チームに開発資金を出すから、とにかく面白いゲームを作ってほしいって頼まれて……。あっ……」
彼女はそこでなにかに気づいたらしく、
「チームの紹介がまだでした! これ、あたしの名刺です。どうぞ!」
渡された名刺には、ゴスロリ服を着た女の子の
『クリエイティブユニット・スカイワークス 代表・
「これって、会社なの?」
「ううん。まだ、会社にはしていないんです。だけど、商業のお仕事を受けているから、同人サークルというわけでもなくて」
個人事業主として仕事を受けている、ということかな、と混乱する頭で考えていると、彼女が両手を差し出してくる。
「そーまさんの名刺もくださいっ!」
「え……?」
さすがにためらう。渡すとしたら会社の名刺になるけど、半分ストーカーみたいな彼女に渡したら、一体なにをされることか。とはいえ、ビジネスマナーとして、返さないわけにもいかないし、と結局、彼女に自分の名刺を渡す。
彼女は名刺を天井にかざしながら、うれしそうに言う。
「えへへー、『そーま』さんの名前、天海蒼真さん、って言うんですね! 本名と同じですし、これからも、そーまさん、って呼んでもいいですか?」
「かまわないけど……」
「ありがとうございます!」
彼女はにへら、と笑う。
「それで、蒼真さん、お仕事、いつからはじめましょうか?」
「……いや、待って。いつ、僕が仕事を受けるって言った?」
「ん? 逆に、今のあたしの説明で、受けない理由ってありますか? 有名なクリエイターをそろえて、開発資金もあるんです! ちゃんと、報酬もお支払いします!」
「………………」
思わず額に手をやる。
百歩譲って、神絵師
「いや、そもそも、僕は会社員だから手伝うのは無理だよ?」
「平日の夜とか、土日とか出来ますよね!? その場合は、報酬も割り増しでお支払いしますし!
「えっと、週末も出勤することもあるし、休みであっても、会社から呼び出されることが多いし、そもそも副業は禁止だし」
第一、そんなうさんくさい話に乗る人なんていないよ、という言葉は相手を傷つけると思って飲み込む。
と、光莉は眉間に
「そんなにずっと働いて……、もしかして、そーまさんは、社畜さんなんですか!」
「…………ぐっ!?」
「会社に忠誠を誓ってしまって、それ以外のことが考えられなくなるっていう社畜さんですか!?」
否定できない。
インフラ系の仕事をしている以上、二十四時間三百六十五日、なにかあったら今日みたいに即応しなければいけないからだ。
蒼真が固まっているうちに、彼女は腕組みをして少し考え込んだかと思うと、ぱっ、と顔を上げて、真剣な表情で言った。
「それなら、いい案があります。……そーまさん、あたしの社畜になってください!」
「…………はい?」
なにを言われたかわからず、ぽかんとしてしまった。



