がらんどうイミテーションラヴァーズ
──僕らは運命を捻じ曲げる ①
「────ごめんなさい」
夏休み前日。放課後。屋上。二人きり。
出会うべき運命のたったひとりに頭を下げられて、オレの初恋は
「
顔を上げた
「わたし、今、付き合ってる人がいるから」
無情の宣告に額を撃ち抜かれる。
「知ってるよね?
「…………だれだっけ?」
「またまたー」
白線で引かれたトラックの中を、ユニフォーム姿の
五百メートル走。同じ陸上部の面々を引き離して余裕の一位。
「────アミーゴ!」
拳を掲げて歓声に応える
グラウンドにはいつのまにか「
「…………」
文武両道。
だれにでもやさしくて、だれにでも親切にする、この学校でいちばんの人気者。
オレとは真逆の人間。
人を避け、人に避けられてばかりいるオレとちがい、あいつがいるところにはいつも自然と人が集まってきて輪ができている。
特徴的な赤いソフトモヒカンスタイルが「
あいつは常に人の輪の中心にいて、オレは常にその輪を外側から傍観している。
きらびやかな青春コメディの主人公と、モニター越しの視聴者A。
「……いつから?」
「二か月前、くらいから?」
首を
二か月前といえば入学してまもない──オレが
「……なんで?」
「なんで?」
オレは自分の顔を指差す。
「…………あら、まあ」
ずいぶんとひさしぶりに向き合わされた
まるで自分以外のすべてを否定するみたいに
十五年刻み続けた眉間のシワはもはや小さな闇をたたえている。
伸び散らかった髪はボサボサ。唇カサカサ。顎ヒゲ少々。
全部、ありのままでいた結果だった。
「
「はうあっ!」
「教室でもずっとひとりで過ごしてて、なに考えてるのかさっぱりわからないし」
「はうあ……」
「あんまり、いい
「はう……」
「だれにも慕われてないみたいだし」
「……」
「
「…………」
「ごめんなさい」
そういって、
その背中に、オレは最後の望みをかけて尋ねた。
「…………じゃあ! なんであの日、オレとペアになってくれたんだよ?」
六月の雨が窓を
いつものように孤高をキメるしかなかったオレの前に現れて、彼女はペアを組んでくれた。そのときオレは思ったんだ。ああ、これが運命の出会いなんだって。
「…………
「ありのままのオレでいいって……」
「うん。それはいいんだけど……そのありのままを相手が受け入れられるかどうかは、別問題」
「…………ああ。なんだ、そういうことか」
つまり
「そういうことだから。ごめんね、
最後にもう一度謝って、
オレはがっくりとその場で崩れ落ちた。
「…………なんてこった」
この恋こそ、一生に一度の、
十五年も生きてきて、やっと、ありのままの自分を受け入れてくれる相手と出会えたと思ったのに。
オレにとっての
事実はとてもシンプルで、だからこそ残酷だった。
「…………根本からしてダメなら……
オレは自分のスペックを呪いながらふらふらと屋上を下りていく。
──思えば。あの日
彼女との恋を実らせるため、
出身校。家族構成。将来の夢。視力。聴力。靴のサイズ。通学路。好きな音楽。好きな本。愛用しているパジャマのブランド。眠るときの姿勢。寝返りの回数まで。
そこまで調べておきながら、彼女が
「…………美男美女……………………優生思想…………弱肉強食…………」
ああ、そうだ。
すくなくとも、
「…………」
わかってるんだ、本当は。
「ありのままの自分」なんてものにこだわり続けていたら、このままずっとだれにも受け入れてもらえないことくらい。
だけど今更
それにやっぱりそうやっていくつもの顔を
そんな生き方ができるとも思えない。
…………だから、もしも。
もしも自分の真相の上にべつの仮面を
「────だらあ!!」
そんなことを考えながら校内をさまよっていると、どこかで粗暴な叫び声がした。
女の子の声だった。
バリン、とか、ガシャン、とか。なにかが割れる音も一緒にきこえてくる。
「…………なんだ?」



