がらんどうイミテーションラヴァーズ
──僕らは愉快な敗北者 ①
「…………」
「…………」
互いが
「…………なんだよ、それ」
「『学校でいちばんの人気者』『だれにでもやさしい』はいいとして。『困っている人を見つけると必ず助ける』『どんな勝負にも負けない』とか、主人公かよ!」
「だからわたしは
……こいつ、ちゃんと自分のレベルをわかってるのか?
すくなくともオレから見た今の
そんなやつがこんな、十五年間ずっと勇者を続けてきたみたいなステータスのやつと一緒に旅ができるわけがない。
「『だけどわたしだけには弱味をみせてほしい』って、これに至ってはただの願望じゃん!」
「いずれそうなる」
「今の話をしてるんだ!」
理想を肥大化させてはいけない。
いきすぎた設定は現実から
そうしたらオレは
オレは悪い部分も含めて、
「ここまで善性を表立たさせてるってことは、
「
「本物ねえ……」
本物なんて──ありのまま生きている優等生なんて、オレは
自分を偽らず、善意の仮面を
「やさしさ」はその裏に必ず醜い打算を隠していることを、オレはこの十五年で繰り返し学んでしまっている。
「あの妙な人気も、よくわからない口癖も、オレにはいろんな仮面を
「おまえこそ」
「
「
品行方正。清廉潔白。才色兼備。趣味は一生懸命がんばっている人を応援すること。常に周りを気遣い、配慮し、だれかを思って笑い、だれかを思って泣くことができる人間。どこにもまちがっているところなんてない。
「こんなのはウソッぱちだ!」
「あいつは他人を気にかけたり、心からなにかを応援できるような人間じゃない。そういう自分を演じてるだけだ。
「おまえなあ……ちゃんと
「ぐぬぬ……!」
「なにか
「見てないだけだ。人が見てないところであいつは悪いことばっかりしてるんだ。そんな気がする」
「それはない。
「うわあ、キモ!」
オレの心はすっかり傷だらけだけど、もうその場で崩れ落ちたりしない。
これからなにをすべきか、ちゃんと見据えているから。
「ここで話してても
オレがそういうと、今までずっと
彼女はバットを落とすと、胸の前にもってきた両手を組んで、重ねて、擦り合わせる。
そうしてもじもじと
「…………会いにいくのか?
「
「…………
「平気なわけあるか」
できることならもうしばらく
いや、まあ、会いたいんだけど。どんな顔をして話せばいいのかわからない。なにを話せばいいのかわからない。それを考えるために一か月くらい使いたい。
でも、そういうわけにもいかない。
「明日から夏休みだ。そしたらいろいろ予定も合わせづらくなっちまう。今がいちばん、二人に会いやすいときなんだ」
だからオレは今日、
今日なら暇なやつも用事があるやつもとっとと出払って、余計な邪魔が入らないと思ったから。だれにも茶々を入れられることなく素直な気持ちを打ち明けて、夏休みは二人で最高の思い出を作ろうとか考えてたんだ。
まあ、
「オレだってまた顔を合わせて傷つくのが怖い。傷を思い出すのが怖い。でも、一か月後の幸せな自分を思い描けば耐えられる」
「一か月後?」
「ずっと他人に成り代わるのに時間を割いてても意味ないだろ? オレたちが望んでいるのは成り代わること自体じゃなくて、そうして『運命』の恋を
「たしかに」
「だから、この夏が勝負なんだ」
一か月。この夏休みは、自分を変えるために四苦八苦する時間になるだろう。
だけどその日々を乗り越えることさえできれば幸せになれる──なら、オレはどんなに傷ついたっていい。
必ず
「おまえもオレじゃなくて、本物の
†
美術室をあとにしてグラウンドに向かうと、駐輪場のまえに植えられた木々のほうからたのしそうな談笑がきこえてくる。
見れば、木陰に腰を下ろした
どうやらちょうど休憩中らしい。
休憩中も「
「いけるか?」
そう尋ねると、さっきまで隣にいたはずの
「ふぐっ……!?」
急にグイと後ろから制服を引っ張られて首が締まる。
慌ててねじ込んだ指で襟を引きもどすと、背中にごつんと衝撃。
「…………なにしてんだよ?」



