がらんどうイミテーションラヴァーズ
──僕らは愉快な敗北者 ④
「
そういって、彼女はクスリと笑みをこぼす。
あの日──美術室で──オレのまえで笑ってくれたときよりもたのしそうに。
「…………」
──ああ、そうだ。
そういう彼女の善性に、オレもまた
だからこそ、そんな彼女にとってのいちばんがオレじゃないことが、悔しかった。
「むごごごご!」
「あっ、悪い」
ずっと塞いだままだった
そしてギラリと反撃の牙を
「
「……」
「たった百円ちょっとのことだけど、だれかのためになにかを買うなんてオレにはできない。いろんなやつをにらみつけて生きてきたから、買ってやる相手もいないし、そういう気持ちにもなれない」
「…………わたしも、なれない」
「なあ、
「んあっ!?」
吸い込もうとした息がどこかで逆流したのか、
「な、なんだ、おまえまでいきなり親しそうにしてきて!?」
「そのほうが、
「
「でも、おまえもあいつのことを呼び捨てにしてるじゃないか」
「呼んでいいって、言われたんだ。消しゴムを拾ってくれたときに」
「どんな会話だよ、それ」
「……ありがとうって言えないわたしに……軽々しく感謝の言葉を口にしたくないわたしに、名前を呼んでいいって。だからこうたろーって呼んだ。それをお礼の代わりとして受け取ってくれて、
「へえ」
だから
だけどふつうは小さな善行にも一々『ありがとう』を求められる。
だからみんな大事な『ありがとう』を安売りする。
そういうことができる人間になっていく。
そんな「ふつう」になれない
恩着せがましいと思わせたりせずに、善意を正しく善行として機能させる力を持っている。
たしかに〝困っている人を見つけたら必ず助ける〟だけの力を持っているように思える。
並みの人間には
「じゃあ、オレもその手順を踏むよ」
オレは
だからその第一歩として、
「
恥ずかしそうに視線を
「…………
けれど、本物の
たぶん、
なんとも単純で、裏表のないやつだ。
「じゃあ、
「あんなやつ……!」
と、吐き捨てかけた言葉をぐっと
「…………わたしは、
「オレは
互いに自分を指差してたしかめ合い、続いて相手を指差してたしかめる。
「おまえは、
「おまえは、
そうして見つめ合うこと、数秒。
「…………くくっ」
「…………ガハッ」
オレたちはどちらからともなく吹き出して、滑稽さに腹を抱えた。
がさつで。粗暴で。品がなくて。好きな相手の前でだけ縮こまって。そんな
オレたちの現状は、そんな感じだ。
きっと今が目標に対しての最低地点。
今がドン底なら、あとは上がっていくだけだ。
そう思うとなんだかやれそうな気がして。オレたちは互いの眉間に刻まれたシワをぐみぃーっと伸ばして笑い合う。
こうして、オレたちの夏休みが始まった。



