メイクアガール

第一章 AUGMENTATION ④

 画面をのぞくと、そこには「くにくーん」と声をあげながら手を振る女の子の姿があった。帽子にエプロンというちを見て、そういえば邦人のアルバイト先はファミレスだったなと思い出す。

 顔を上げると、邦人はなにやら目を閉じてうっとりした顔をしていた。


「な? かわいいだろ? 髪がさらさらでさぁ、いい匂いがするんだ」

「ああ、それは自分の遺伝子にない免疫を持った相手を探すための生物のシステムで、君の彼女も──」

「うるせぇうるせぇ! とにかく! 俺は今彼女のおかげでパワーアップしたんだよ!」


 現象の説明を遮って、邦人は声をあげた。

 いつもなら、よくわからない、で済ませたのだが。

 今日はが、妙に気になった。


「……パワーアップってどんな?」

「バイト先の仕事を倍の速度でこなせるようになった」

「倍の速度……? それは本当にすごいね」


 恐るべき効率性だ。免疫の遺伝的距離が遠い異性同士を近接した職場に配置することで作業効率を倍にできるとしたら、飲食店のアルバイトには革命が起きるだろう。


「彼女ができる前とできた後の俺は別人さ。だから明、お前も彼女作ってみろよ。世界が変わるぜ?」


 いや飲食店における人員配置の最適化は僕の専門じゃないから。

 そう言おうとした、そのとき。

 なにかが僕の中で、う音がした。

 別人。

 世界が変わる。

 彼女で、パワーアップ。

 それは何度も僕のなかで反響し、その波紋はやがてひとつのアイディアを浮かび上がらせる。


「明……?」

「帰る」


 気がつくと、僕は立ち上がって走り出していた。

 邦人がなにか言っていたが、そんなことは関係なかった。

 僕はまっすぐにラボを目指す。


「彼女でパワーアップ──」


 見つけた。

 見つけたぞ。

 僕が研究者としてパワーアップする方法を。

 もし、アルバイトの作業効率を倍にするほどの力があるのなら。

 研究者としての僕の力だって、大きく高めてくれるはずだ。

 シンプルにしてユニークでダイナミックなソリューション。

 そう。

 僕は、彼女を作ればよかったんだ!