よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1-
第一章 薄紅が切り取る領域で ④
「うん! 科学捜査で使う、血液があると光る反応だよね」
さすが元科学部。話が早くて助かる。
「そう。血液がかなり微量でも検出できるのが面白くて。証拠隠滅を図る犯人役と証拠を見つける鑑識役に分かれて捜査ゲームをやったりしたんだ。結局、予想通りに鑑識側が圧勝したけどな。俺たちはあれで触媒反応の素晴らしさを思い知った」
俺は鑑識役だった。犯人役の
気がつけば、
──いけない、しゃべりすぎてしまった。
一般人の前でこれをやると、こうした反応を引き起こすことがほとんどだ。ミニトマトのシンフォニーについて話したときは、
「ごめん、聞き流して」
俺が言うと、
「あっ、ううん、そうじゃなくって──」
そうじゃなくてどうなのかは、
「おやおやデルタ、まったく油断ならないぜ。デキる男は手が早いなあ!」
「あ、えっと……
前の席ならまだしも、ほとんど教室の反対側の席に座る
「……おう。すごいな
「一応ね。でも
「ま、そりゃあ、天下の
なんて言いながら、
「えっ、私ってそんなに有名なの?」
「もちのろんさ。有象無象の山の中にこうやって美しい桜が一本咲き誇ってたら、誰でも気になっちゃうものですよ。なあ、デルタ」
俺に
話を合わせたりしないぞ、という意思表示で俺はミニトマトを頰張る。
俺が答えないのを見て、
「あの、
話を
しかしよりにもよってこの男が喜びそうな話題であった。
「お! いいこと
「ええ? デルタが本名なの……?」
絶対に
「そう。
「人を勝手に殺すな」
まったく、いい加減なことをぺらぺらと……。
そうこうしているうちに予鈴が鳴る。
急いで弁当の残りを平らげている間に、昼休みは終わってしまった。
「大事件があったらしいぜ」
「それは大変だな、早く帰ろう」
靴を履き替え、昇降口を出る。授業も終わり、後は帰るだけだ。
「おいおい、帰っちゃダメだ。悪かったって。昼休みのこと、まだ怒ってるのか?」
「俺はあれくらいで怒ったりはしない。でも
「いやあ、そうだよなあ。失敗した。『
「脳内桜色は元々じゃないか」
「まあ確かに、脳細胞の白とヘモグロビンの赤で、脳みそって薄紅色に近そうだよな」
本当に、くだらないところで弁の立つ男だ。
「反省しろよ」
「安心してくれ。だる
割と反省していたようでほっとする。
「……で、大事件って?」
俺が
「裏山にな、桜が二本、生えてるんだ」
「裏山?」
振り返る。校舎越しに、少し高台となった森が見える。
「そうそ、裏山。ここからは見えないけど、とにかく桜が二本あるんだぜ。隣り合って生えていて、
「よかったな」
「よかっただろ。で、この桜、なんと今が見頃だとか」
なるほど、見にいこうという話か。
「割と遅咲きの種類なんだな」
「だな。で、その桜には伝説がある──非常に興味深い伝説だ」
「二本の桜がな、花の咲く時期、それはそれはきれいなハートマークを作るんだそうだ。で、それを見た男女は──なんと必ず結ばれる」
「男女限定なのか? この令和の時代に」
茶々を入れると、
「うーん、それは言葉の
「
「ま、そういうことだ」
楽しそうな返事を受けて、俺はあえて少しの沈黙を挟む。
「……それは、告白と捉えていいのか」
「ばっ……そりゃ、デルタは大事な親友だけどさ……べ、別に俺はデルタのこと、そういうふうに思ったりとか……してるわけじゃないんだぜ?」
ということで裏山へ行くことになった。
校門を出ると、下っていくイチョウ並木の向こうに街の中心部が見える。そのさらに向こうには海。明るい太陽が波をちらちらと光らせていた。今日は天気が崩れる予報だったが、まだしばらくはもちそうだ。
並木道を下らず、学校の裏手へ向かう脇道に入っていく。細い道だが舗装されていた。敷地が山に囲まれているから、グラウンドの方へ何かを搬入するときにはこの道を使うのだろう。
「でも疑わしいよな。見れば必ず結ばれるなんて、ちょっと探せば簡単に反例が見つかりそうなものじゃないか?」
俺の指摘に、
「まあな、確かに必ずってのは言いすぎかもしれない。でもここ一九年間、毎年一組は成功例があるって話だ。すげえだろ?」
「そんな



