営業課の美人同期とご飯を食べるだけの日常
営業課の美人同期とご飯を食べるだけの日常 ②
仕事はできるが、上の確認をとらずに動いたり周りを置いて先走ったりとパワープレイが多く、その調整に駆り出されること何百回という感じだ。
「どうだ鹿見、缶ビールで乾杯しとくか?」
そう言うとどこからか取り出した銀色のやつを見せびらかしてくる。
「絶対明日に響きますって、この残業週間乗り越えたらどっかで一杯行きましょ。後輩二人も誘って。というか仕事中ですよ」
後輩も誘うというのが決め手になったのかすごすごと帰り支度を始める先輩。
もう準備ができている俺はスマホを見る。そういえば冷蔵庫に昨日の残りの肉じゃががあったはずだ。
「鹿見帰るぞ〜!」
電気のスイッチに手をかけた先輩からお呼びがかかる。
「今行きます!」
二人並んで会社を出る。振り返ると営業課は一課も二課も電気がついている。そういえば今週末に大型案件のプレゼンがあるんだっけか。
営業課全体を一課二課ごちゃまぜに二分して大手2社にそれぞれ商談するんだっけか。こういう時の連帯感ってすごいよなぁ。
「そういえばあの案件次の金曜じゃねぇか。これ休日出勤だぞ」
休日出勤……? 聞いたことない言葉だな……。
「うわ、忘れてました。でも案件どっちかでも取れたら今期どころか今年度安泰ですよ」
「それもそうだな、今週、というか来週まで馬車馬のように働く覚悟で今日は寝るぞ」
最寄り駅から家までの道のりでスマホがブーッと震える。何となく来る気はしてたよ。
通知を見ると予想通り残業モンスターこと秋津からだった。
『おーなーかーすーいーたー! 残業!』
『俺もさっき退勤した。今日も遅いか?』
『あと1時間で帰る! 今決めた!』
『まぁ頑張れよ、お前らにかかってんだから。俺たちの給料は』
『頑張るから今日家行っていい? 晩ご飯作って欲しいな〜』
『だめです。俺明日早い。んじゃおやすみ』
返信は見ずにスマホを
入社して数ヶ月して気が付いたが、秋津と俺は同じマンションに住んでいる。俺が7階であいつが11階だ。
やはり営業と事務、家賃にも差が出てやがる。まだ新卒で酒の席に慣れていなかった頃、あいつが潰れてタクシーに相乗りした際に発覚したのだ。
数年前のことを思い出しながら自室の扉に鍵を差し込む。鍵についたクラゲのキーホルダーが揺れている。
自動で
昨日の残りの肉じゃがを取り出す。さてどうしてやろうか。
『おーいまだ家ついてないでしょ!』
『返信しなさいよ!!』
『あーあ、鹿見くんのつくった晩ご飯が食べたいなぁ』
『絶対食べる』
『あんたの家に直帰するから覚悟しなさい』
この調子だとあと20、30分で帰ってくるな。残業が確定してる週にソファで寝たくないんだよなぁ。
別に付き合ってないんだから家に来るのが嫌なら止めればいいんだが、高校生の頃からこいつには甘くしてしまう。こう、捨て猫をほっとけない的な?
スマホをBluetoothで接続したスピーカーから気持ちばかりの音楽を流す。何もなしで料理するのも寂しいし。
深皿に入った肉じゃがをレンジにシュート。コロッケのタネはびしょびしょだとまとまらないから水分を飛ばす。数分後、ピーッとレンジが仕事終了の合図を出す。
この音出したら俺も仕事終わりってことになって退勤できないだろうか。
レンジから取りだした熱々の肉じゃがを冷ましているうちに油を準備する。なぜこんな夜中に揚げ物を作ってるんだ俺は……。
ふと我に返るが、残業モンスターが頭に浮かんで
彼女とは学生時代からの友人だ。……「からの」というのは語弊があるか。高校生の時は確かによく話していたが、大学進学を経て疎遠になっていたのだ。
会うのは年に一度開催されれば多いくらいの同窓会くらい。
その時も少し話して昔を
それがまさか同じ会社に勤めることになるとは、露ほども考えていなかった。
少し冷めて触れるようになった肉じゃがをフォークで潰していく。このまま食べたい欲求に駆られるが、なんとか自制心を保って無心に潰していく。
いい具合になったタネをまとめると
成形したタネを油に投入すると、ぱちぱち音を立てながら揚がっていく。
肉じゃがたちをゆっくり見ていたいが、そんな暇はない。
冷凍ご飯を二つ、レンジにぶち込んでスイッチを押す。む、ドアの外に気配が。
インターフォンも鳴らさずにガチャガチャと合鍵を差し込んで堂々と入ってくる。
「ただいま! おつかれ私!」
「あぁおかえり残業モンスター、手洗ってこい」
「残業美人と呼びなさい! 私の分もあるの? 晩ご飯!」
最後のところで常識人な彼女は
「お前が無茶言うのはいつものことだろ、今日はコロッケな」
「わーい、ありがと! 鹿見くん素敵! 結婚しよ!」
「しないが。」
るんるんと鼻歌をうたいながら洗面所へと歩いていく秋津。
テーブルにレタスとトマトのサラダとドレッシング、揚げたてのコロッケ、白ご飯を並べる。勝手知ったる我が家の食器棚を開けて、秋津はお箸やコップを持ってくる。
こいつ、自分の家よりうちでご飯食べてる回数の方が多いんじゃないか? 俺のプライバシーはどこへ。
「「いただきます」」
手を合わせるや
「私も食べる〜」
そう言うとコロッケを小さく切って口へ運ぶ。
「じゅわざくで
「おい、俺も残業してんだから適当に何か買って自分の家で食べろよ」
「いいじゃん、いつものことだし〜」
「いつものことなのがおかしいんだって」
「あ、そうだ。もうお
「いいわけないだろ。明日早いんだって。家に帰ってくれ……だいたい着替えとかどうするんだよ」
「え〜〜〜〜〜! あんたは知らないだろうけど、私この部屋に着替え一式どころか三日分くらい置いてるわよ」
「は……? いつのまに……!」
遅めの晩ご飯を食べ終わる。
「私。帰らないもん」
まぁこうなるよな。お
「明日も仕事だろ? 自分の家で寝とけって」
「でもでも〜、もう
仕方ない、あんまりやりたくなかったがここは……。
彼女に近づいて抱きかかえるように腕を伸ばす。
顔を埋めた自分の腕からちらっと瞳をのぞかせると、しぶしぶ彼女は
おうち帰るのイヤイヤ期に入り、クッションを抱きしめて離さない秋津をなんとか追い立てて一人の時間を獲得する。
もう慣れてしまった二人分の食器を洗うと、シャワーを浴びるべく
もはや腐れ縁と呼んでも差し支えないこの奇妙な友人関係が、このままずっと続くと思っていたのだ。
そう、少なくとも俺の方は。
カラスの行水、着替えると俺は即ベッドにダイブする。明日からの残業祭りに思いを



