営業課の美人同期とご飯を食べるだけの日常
営業課の美人同期とご飯を食べるだけの日常 ⑥
気持ちを切り替えて大粒のいちごを頰張る。甘さの中にもほんの少しの酸味、いいいちごだ。ゆっくりと
せっかくだからと豆を
あいつからのご
そういえば読みたい新刊が出ていたのに最近は忙しくてご無沙汰だったな。
ソファにクッションを敷くと音楽をかける。クラシックからテクノまで、雑食な俺はいつもランダムに曲を流す。
積読の中から適当に一冊手に取ると、俺はページを開いた。
◆ ◇ ◆ ◇
週が明けて水曜日。普段ならば週の中で一番絶望を味わう日である。
どうして水曜を休みにしないのか。五日間の労働に対して二日の休みは釣り合いが取れないだろうが。
しかし今日の俺は気分がいい。
社内カレンダーに事務課の人間が予定を入れるのは珍しいが、今日に限っては縦に五人全員に色がついている。
課長の相澤さんが「水曜日は事務課飲み会、仕事持ってきたらわかってるな?」と他の課に
定時直前に営業から帰ってきてそのまま資料をぶん投げてくる
営業→事務→企画→経理と流れる処理のうち、事務→企画部分を俺と先輩の小峰さん、あとは別支社の何人かで回してるの本当におかしい。
それを全部チェックしてる相澤さんも相当おかしい。
だが今日に限ってはそれもない。後輩たちも早く18時にならないかと時計をチラチラ見ている。
先週よりも確実に暖かくなった外の風を受けて予約した居酒屋に向かう。
課内の飲み会なんて無礼講もいいところだから上座とか下座とかそういうのはいいよ、なんて相澤さんは言うけど、ここで学ぶと後々楽だってことで。
後輩二人を引き連れて店へ入る。予約していた鹿見です、と伝える。
ふとあの食欲モンスターの顔がチラつくが、今日に限っては大丈夫だろう。なんせ会社からはほど遠い駅にある居酒屋なんだから。
「それでは改めまして。地獄の残業週間、お疲れ様でした!」
いつもは厳しめの相澤さんが満面の笑みで
「乾杯!」
「「「「乾杯!!!」」」」
俺たち平社員の
ここはちょっとだけお高い居酒屋である。ちゃんとした所に行こうかと相澤さんに提案したところ、後輩たち二人が気持ちよく飲めるように割と入りやすいところにして欲しい、とのことだった。
やはり人格者は違う。自分の食べたいものをチャットで送り付けてくるだけの人間と器の大きさが違うことを思い知らされる。
さて、目の前に運ばれてきたのはサラダとつきだしの酢の物だった。
体育会系の鈴谷君はせっせとサラダを取り分けている。えらいな。
小峰さんのグラスが空くや
「今回もお疲れ様、鹿見君」
「ありがとうございます、皆さんのおかげで何とか乗り切れましたね……」
「おい鹿見! お前この前俺のこと置いて帰っただろ!」
既に顔が赤い小峰さんが乱入してくる。
「いやあれは仕方ないでしょ! 突然先輩寝るんですもん」
「しかも丁寧に爆音の目覚ましまで置いて帰りやがって!」
「あ、やっぱりあれうるさいですよね」
きょとんとしている後輩に、以前あの爆音目覚ましを使った時の動画を見せる。
けたたましく鳴り響く目覚ましに彼らはびっくりしている。
ビールを口に運び、
酢と
これはわざわざ家とは逆方向の電車に乗って来る価値がある。
それにしても沢山食べて飲んだな……。バインダーに挟まれたレシートを見て思う。小峰さんなんか春海さんに言われるがままずっとおかわりしてたもんな。
さて、お店にお金を払うと個室に戻る。まぁ案の定
鈴谷君と小峰さんは机で寝息をたてている。小峰さんに関しては言い逃れできないが、鈴谷君はここまでの疲れが出たのだろう。
春海さんも他の人のペースに釣られてかなり飲んでいたからかフラフラである。ぽわぽわとした雰囲気を振りまきながらも、どこか手元がおぼつかない。
相澤さんはと言えば、
どうしてこうなった……。手を頭に当てる。
「鹿見君、悪いんだけど春海さんを送ってあげてくれない?」
「え゙っ……女性の相澤さんの方が良くないですか?」
「私はこのバカ二人をタクシーにぶち込んでくわ。家の方向同じだし。春海さんと鹿見君も同じ方向でしょ? あ、これタクシー代ね」
ひらひらと一万円札を渡されては断れない。
「わかりました。駅でタクシー拾って帰ります」
「それじゃ、今日は幹事ありがとう。この残業週間も鹿見君のおかげで乗り切れたわ、これは本当」
こういうことをそつ無く言ってのける、そしてそれが嫌味に聞こえないところが相澤さんのいいところだ。
「恐縮です……」
「くれぐれも春海さんの家に上がり込んだりしないように!」
それだけ言い残すと二人を
店から出た俺はフラフラの春海さんをなんとか支えながら駅へ向かう。長いポニーテールが本物の尻尾みたいに揺れている。
「わたし〜鹿見先輩のこと尊敬してるんですよ〜」
彼女から出ているぽわぽわの雰囲気は収まらない。
「いつも私と鈴谷君のこと気にかけてくれますし、今日だってこうやって、っと、」
倒れそうになる彼女の腕を
すぐに
「鹿見先輩って彼女さんとかいるんですか〜?」
「いや、いないよ」
「学生時代とかはいなかったんですか?」
「まぁ昔いたことはあるけど、当分はいないかな」
彼女か。今は食欲モンスターの世話があるしな。こういう話の時、あいつが頭に浮かんできてしまうのを認めたくない。
ポケットでスマホが震える。恐らく大型連休に一緒に飲む学生時代の友人だろう。店やメンツでも決まったか。
「ほら春海さん、そろそろ駅だしタクシー探すよ」
「えへへ、そうですね〜また飲みに行きましょうね〜」
「そうだね。また忙しくない時に行こう」
「約束ですよ〜
そう言うと彼女の焦点が定まり始める。歩き方も心なしかしっかりしている。
時刻は21時、水曜日とはいえ駅前には人が多い。キャッチのお兄様方からの誘いを断りつつもタクシー停留所に足を進める。
「そういえば鹿見さんって私と家近いんですか?」



