最強の悪役が往く ~実力至上主義の一族に転生した俺は、世界最強の剣士へと至る~
一章:荒神のリリス ⑦
名前を呼ばれたノルンは、入室許可をもらったと判断し、ドアノブを
ノルンはルキウスが使っているテーブルの前で歩みを止めると、
「こんばんは、お父様。突然の訪問、申し訳ございません」
「構わん。お前なら許す」
「ありがとうございます」
ノルンはお礼を言ってから頭を上げた。再び、透明感のあるノルンの瞳が、ルキウスの瞳とぶつかる。
「それより何の用だ? お前がわざわざ自分から書斎に来るのは珍しいな」
「ルカのことです」
「ルカ? ……お前も話を耳にしたのか」
「はい。何でも、最年少でオーラを覚醒させたとか」
「似ているが、オーラとは異なる力だ。カムレンの
「カムレン? そんな人、ウチにいます?」
平然とノルンは言った。心底不思議そうな顔で。
「覚えていないか……まあ無理もない。今のところカムレンの才能は、中の上といったところだ」
「なるほど。でしたら、
もうノルンはカムレンのことを忘れてしまった。彼女にとって、最上級の才能を持たない者は等しくゴミか虫、もしくは石ころだ。誰も路上に落ちてる石ころの名前なんて気にしない。そもそも石ころに名前はいらない。だから、名前を
まさに才能至上主義を掲げるサルバトーレ公爵家を象徴するかのようなノルンの態度に、父親であるルキウスは機嫌がよくなる。
「ルカについての相談だと? 何が言いたい」
「簡単な話です。ルカを──私にください」
笑みを浮かべたままノルンはハッキリとそう言った。
「具体的には?」
ルキウスは大して動揺しなかった。まるで彼女が何を言うのか、
「剣術と能力、どちらも私が教えます」
「剣術はともかく、能力もか? ルカが得た力は、オーラとは違うぞ」
「似た能力なんでしょう? それなら、オーラと同じように教えられるかもしれません。それに、サイラス程度に任せていては、ルカの才能を潰しかねない。お父様か私が教えるべきだと進言します」
「自分でなくともいいと」
「ルカが強くなれるなら、こだわりはありません。ただ……お父様はお忙しいですからね、私が無難かと」
「ハッ! 最初から席を譲る気はないな」
相変わらずノルンという女は面白い。そうルキウスは思った。
自分の地位を
サルバトーレ公爵家が一番になればいい。例えその役目が自分でなくとも──。
「いいだろう。ルカはお前に任せる」
本当に彼女は自分によく似ている。ルキウスもまた、ノルンと同じことを考えていた。ルカこそが、一族の悲願を
「ありがとうございます、お父様」
話は終わりだと言わんばかりに、ノルンは
「さて……ルカはどう成長するのか」
ペンを走らせながら、ルキウスが口端を持ち上げて笑った。



